バイト先は異世界でした
高校三年生の夏休み、俺、星川遥希はスマホで求人サイトを片っ端から見ていた。
高校生最後の夏休み。クラスの連中も、友達も、当然のように遊ぶ計画を立てていた。俺も一緒に行くつもりだった。だが、そこにはひとつ、大きな問題がある。
──遊ぶにも金がいる。
カラオケ、ファミレス、映画、ゲームセンター。何をするにしても、無料で楽しめるものなんてほとんど無い。
「飲食はキツそうだし、引っ越しは体力仕事だし、家庭教師は頭使いそうだし……もっと楽で、時給いいやつないかな……」
夏休みの間だけの小遣い稼ぎだ。適当なバイトでもいいのかもしれない。だが、せっかくやるならできるだけ楽で、高時給の仕事がいい。俺のような怠惰な人間にとって、これは人生の最優先事項である。
受験勉強もそこそこに、高校最後の夏休みをダラダラと過ごしていたが、ついに母親から「受験のめどが立ってるなら小遣いくらいは稼ぎなさいよ」と、お小言を頂いてしまった。
簡単に言うな、母よ。
受験があるからこそ、長期間続けるバイトには手を出しにくい。そうなると、短期バイトに限られるわけだが──これがまた、なかなか条件が合わない。
「お、在宅入力業務……時給800円? 安っ!」
やっぱり高時給のバイトはそれなりに大変なんだろうな、と諦めかけたそのとき、妙な求人が目に飛び込んできた。
【未経験OK!即日払い!高待遇!】
『勇者パーティーの一員になりませんか?』
日給:10,000円
勤務地:異世界
「……は?」
一瞬、目を疑った。
どこかの企業のふざけた広告かと思ったが、詳細ページを開くと、やたらと作り込まれた募集要項が並んでいる。
・仕事内容:勇者パーティーの一員として魔王討伐をサポート
・必要な資格:特になし(未経験者歓迎!)
・福利厚生:異世界での宿泊、戦闘補助あり
・支払い方法:現地通貨または日本円振込可
「いやいや、何これ。エイプリルフールか?」
いや、今は8月だ。
妙にリアルな募集要項に、俺は眉をひそめる。
見たところ、最近流行りの単発バイトのアプリ経由の求人らしい。
とはいえ、いくらなんでも怪しすぎる。
もしかして何かの闇バイトか?
そう思い、検索エンジンで調べてみるが、それらしい情報は何も出てこなかった。
「そもそも単発バイトで宿泊って無くない?」
……怪しすぎるだろ。ありえないことはわかっている。わかってはいるけど好奇心が襲ってきて堪らない。
ま、まあ人生は一回きりだ。後悔してもばかばかしい。
そう心の中で呟き、俺は自分を納得させようとうんうんと首を振る。
「どうせ嘘だし」
試しに応募ボタンを押した。
その瞬間、画面が眩しく光り、周囲がモノクロになった。
「はああああっ!?なんだよこれ!?」
スマホの画面からはメッセージの書いてあるスクリーンが飛び出し、俺の周囲には魔法陣が展開される。先ほどまで風に揺られていた電灯の紐は妙な状態で固まり、時が止まったかのように浮いている。
おいおいマジの代物だったのかよあのバイトの募集は!!
焦った時にはもう遅い。確実にまずいことをしてしまった。勇者パーティ?こんな時期にやることじゃねえだろ!
『星川遥希様 当バイトへのご応募ありがとうございます』
「は?」
スマホから自動音声が流れた。へー、このサイトこんな機能があるんだ。って絶対違うよな!!??
『掲載者よりメッセージがございます』
メッセージ?
『えっと、当バイトにご応募いただきありがとうございます。あなたと一緒に戦えることを楽しみに待っております』
先ほどまでの機械音声感漂う自動音声とは違う声が流れた。歳は俺より下だろうか。かわいらしい女の子の声だ。雇用主、って勇者だよな?こんな子が?
『以上です。続けてステータスの開示です』
ステータス、ゲームの世界って感じがするな。
『レベル:1
体力:1
魔力:ゼロ
攻撃力:2
防御力:1
俊敏:3
知力:5
運:1』
絶対低いだろこれ。俊敏が少し高いのはちょっとだけ独学で格闘を学んだから?知力は……まあ受験があるからかな?
『スキル付与:≪単発バイト≫ ≪相互言語理解≫ ≪新人研修≫ 』
「スキル……?そういうのも貰えるのか?」
──と思ったのも束の間、耳を疑った。
『≪単発バイト≫ 契約した対象が死亡した場合、契約者も死亡する。また、あらゆる仕事契約の履行が可能』
「ハイリスクすぎやしませんか!!!!!!」
勇者が死んだら俺も死ぬ!?
命がけのバイトにもほどがあるだろ!!!闇バイト過ぎない!!!!????
前半のインパクトが強すぎて後半が頭に入ってこない!!え!?なに!?履行!?なんだっけそれ!!!
次の相互言語理解は何となく理解できるけどさ。多分現地の言葉を理解でき、こちらの言語も理解してもらえるやつだろ。
『≪相互言語理解≫ 概ねその通りです』
サボんじゃねえよ!!
『さらに補足説明を行います』
「ん?」
『≪新人研修≫のスキル効果により、現地の言語はあなたの知っている言葉に近い形で聞こえます。また、あなたの発言も相手の言語に合わせて変換されるため、意思疎通がスムーズに行えます』
「つまり?」
『例えば、現地の食べ物が「トールグル」という名称だった場合、それが豆を煮込んだ料理なら、あなたには『豆の煮込み』と認識されます。また、あなたが『米』と言った場合、相手にはそれに近い、現地の穀物の名前として伝わります』
「……マジかよ。ってことは、俺が『ハンバーグ食べたい』って言ったら、相手にはハンバーグっぽい何かを求めてるって伝わるのか?」
『その通りです。ただし、完全一致するとは限りません』
「めっちゃ曖昧じゃねえか!?」
『補足説明を終了します』
「いや、勝手に終わらすな!」
自動音声に突っ込んだ所で何も自体は動かない。ただ、俺自身の気持ちを落ち着かせる為にも声を出してしまう。
『 ≪新人研修≫ ステータスメッセージが音声として聞こえることがあります』
ステータスメッセージってなんだ?便利そうではあるが……
『それでは異世界でのご検討をお祈りしております』
「お、おい!!ちょっと待――」
唐突に締めようとする音声にそう叫ぼうとした瞬間、俺の意識は闇に落ちた。
初めまして、ゆきみなと申します。
今更な題材なものですが、良ければお付き合いいただければ幸いです。
一応40話くらいで第一部完となる予定です。
その時の人気によって進退決めようかな〜と思っております。
厚かましいですが、ブクマ等面白かったら随時よろしくお願いいたします。