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ϵ( 'Θ' )϶以上のお話(とその関連)

6年越しの願いが叶い、屑の婚約者と縁を切る事が出来ました。

作者: ユミヨシ

「クリスティナ、感謝をすることね。貴方みたいな娘に素敵な縁を旦那様は結んでくださったのですから」


「そうだぞ。この縁を結んだ私に感謝するんだな」


父も母も大嫌い。

そして、何よりも、婚約者となった2歳年上のマルトス・エフェルト伯爵令息の事が大嫌いだった。


クリスティナ・グランディス公爵令嬢。

と言っても、まだ10歳である。


昨日、婚約者となったマルトスと初顔合わせのお茶会が開かれたのだが。


「お前みたいな冴えない女、僕にふさわしくない。なんだ?ブスっ。近寄るな」


暴言を吐かれたのだ。

思わず、クリスティナは泣いてしまった。


しかし、父も母も、エフェルト伯爵夫妻も、


「子供の言うことですから」

「そうですな。そのうち、仲良くなれるでしょう」


どんなに、クリスティナが嫌だと言っても、この婚約が結ばれてしまったのだ。


エフェルト伯爵家は手広く事業をやっており、名ばかりで領地経営も上手くいっていないグランディス公爵家はエフェルト伯爵家の支援が欲しかった。

だから、次男マルトスを将来、婿に迎えるという事で、そして金銭の支援も約束していて。

だから、クリスティナがどんなに反対しても、この婚約が成立してしまったのだ。


マルトスはとても美しい金の巻き毛、青い瞳の少年で。

それに比べてクリスティナは茶の髪に黒い瞳の冴えない少女で。


ふさわしくないと言われれば、確かにふさわしくないかもしれないけれども。

でも、初対面からのあまりのいいように、クリスティナは悲しくて悲しくて。


王都の隣の屋敷に住む幼馴染の男爵令息に相談した。

歳は同い年の10歳。彼もまだ子供だ。


赤毛でそばかすがあるアレック・ブラド男爵令息と秘密の場所で話をする。

互いの敷地の柵に穴が開いており、その穴の前で二人で話をするのだ。


クリスティナはアレックに、


「私、あんな男と婚約なんてしたくなかったの。でも、お父様とお母様が」


アレックは考え込むように、


「そうだよな。公爵家もお金に困っているから、お金の為なら、クリスティナのお婿さんなんて、どんな男でも決めちゃうよね」


「私は嫌なの。あんなのと結婚したくないわ」


「でも、公爵様の決定は絶対だろう?仕方ないじゃないか」


「そう、そうだけど」


「僕はなんとかする力なんてないしさ。我慢するしか」


「そうよね」


悲しかった。あんな男が婚約者なんて。

あまりにも悲しくて。


アレックはクリスティナに、


「だったら、一緒にお願いに行こうか」


「え?どこへ?」


「前に聞いたことがあるんだ。どこぞの酒場へ行けば、悪人をやっつけてくれる男達に連絡が取れるって」


「でも、高いんでしょ?そういうのって。危ないわ」


「じゃぁこのまま、その男と結婚してもいいの?僕は……クリスティナの事が好きだ。でも、でも、身分違いだし。僕をお婿さんに貰ってもお金の支援なんて男爵家では出来ない。でも、クリスティナが泣いているのを見過ごせないんだ」


「私もアレックの事が好き。一緒に、その酒場へ行きましょう。お金は私が爵位を継いだら必ず払うってお願いして」


今、思えばなんて無謀な事を二人して、思ったのだろう。

クリスティナもアレックもまだ子供だ。

だからその時は必死だった。


二人して手に手を取って、こっそりと屋敷を抜け出し、悪をやっつけるという男達と連絡が取れる酒場へ出かけた。


人から聞いてやっと、その酒場、黒薔薇亭に着いて、まだ昼間で酒場は開いていないらしく、二人はそれでも声を張り上げて、


「ごめん下さいっ」

「すみませんっ。どなたかいらっしゃいませんか?」


扉が開いて、黒髪の色っぽい女性が顔を出して。


「まだ開店前よ。あら、ここは坊や達が来るところではないのよ」


「僕たちお願いがあってきました」

「悪をやっつけるという男達に連絡を取りたいのですっ」


「悪を?まぁ、話だけはわたくしでよければ聞いてあげるわ」


酒場の中へ招き入れられれば、美人の女性の他に、一人の金髪の美男がいた。


「なんだ。小さなお客さんだな」


「何だか訳アリみたいなのよ。まだ子供だからミルクがいいかしらね」


カウンターに二人が座れば、カップに温かいミルクを出してくれて。


女性はにこやかに、


「わたくしはミレーヌって言うの。そちらのお兄さんはアラフ」


「アラフだ。で?俺達に話をしてごらん」


クリスティナは二人に向かって、


「私は10歳。クリスティナ・グランディスと申します」


「僕はアレック・ブラドと申します。同い年で、クリスティナとは幼馴染です」


アラフは二人の隣に座って、考え込むように、


「グランディスと言えば、あの名門公爵家の?そんなお嬢様がこんな所へ護衛も連れずに?」


クリスティナはアラフに向かって、


「私は婚約を解消したいのですっ。私と初対面で会った途端、マルトス・エフェルト伯爵令息から、お前みたいな冴えない女、僕にふさわしくない。なんだ?ブスっ。近寄るなと言われました。私は嫌だったのに、婚約を結ばれました。私はあんなのと結婚したくない。だから婚約解消をしたい。でもお父様とお母様が勝手に。私はアレックと結婚したい」


アレックも、


「僕たちは子供で、なんの力もお金もありません。でも、このままクリスティナが不幸になるのを見ていられないんです。ですから」


ミレーヌが、


「貴方達は甘いわね。貴族の子に産まれたからには、義務を果たすのが役目でしょう?望まぬ結婚も貴族の仕事のうちよ」


アラフは微笑んで、


「まぁまぁ、そうだけどさ。二人の気持ちもよくわかる。しかし、まだ依頼をするには早いな。もっと大人になってからおいで」


クリスティナはアラフに、


「私はどうしてもこの婚約が嫌なのです。もっと大人になってから、私がお願いしにきたら、結婚しないですむようにしてくれますか?」


「ああ、約束しよう。もっと大人になってから」


クリスティナはもっと大人になったら、必ず、もう一度、ここに来ようと決意した。


アレックと共に、こっそりと家に戻ったクリスティナ。


どんなことにも耐えよう。

いずれ必ず、このマルトスと婚約解消して見せる。

そう、決意するクリスティナであった。


マルトスはクリスティナに対して、酷い態度を取り続けた。

会えば、


「お前の所に婿入りしてやるんだ。感謝しろ。もっと頭を下げろ」


と、クリスティナに頭を下げさせて、

お茶会の時は、自慢話ばかりしてきた。


「この間、三人の令嬢達に、マルトスさまはお美しいですねと褒められた。地味でブスなお前とは大違いだ」


「申し訳ございません」


一応、謝っておく。


「謝って済む問題ではない。我慢をして、婿入りしてやろうっていうんだ。もっと感謝するがいい」


お互い15歳になって、貴族が誰しも行く王立学園に共に行くようになったら、更にひどくなり。


色々な令嬢達と浮名を流すようになったマルトス。


「マルトスさまぁ。マルトス様と付き合って、あのクリスティナ様に睨まれたら」


「我が家の支援がないと、クリスティナの家はやっていけないんだ。だから、クリスティナには私の付き合いには口出しするなと言ってある」


「そうなの?」


「愛人にならしてやるぞ。グランディス公爵家は名だけは名門だからな。そこへ婿入りするのは、私に相応しい。クリスティナみたいな地味でブスな令嬢だって我慢して妻にするさ」


クリスティナを学園でもさんざん馬鹿にするものだから。

クリスティナは必死で耐えて。


屋敷へ戻って、時たま、あの秘密の場所でアレックに愚痴をこぼしまくった。


「わたくし、辛くて辛くて」


「クリスティナ。なんの力もなくてごめん」


「仕方がないわ。わたくしも力がないのですもの」


不貞と取られたら怖いけれども、こうして、アレックに愚痴をこぼしたり、話を聞いてもらうことをやめられなかった。


アレックは一生懸命勉学にも励んでいて、とても優秀で。

顔だけ綺麗なマルトスは勉強もろくにせず、女性達をはべらせて、大違いである。


アレックと結婚したい。

アレックと幸せになりたい。


手を握る事も許されない関係。


そんな悶々とした日々を過ごしていたクリスティナ。

とある日、事件が起きた。

マルトスとクリスティナが16歳になった春の事である。


マルトスが付き合っている女性の一人が妊娠したというのだ。


アリーナ・ファイル子爵令嬢は、


「私、マルトス様のお子を妊娠しましたの」


マルトスはアリーナの腰を引き寄せて、


「責任は取る。君を先行き愛人にしてやるよ。君との子を、クリスティナとの子として育てればいい。クリスティナはお飾りの妻だから。本当に愛しているのは君だよ。アリーナ」


「嬉しい」


クリスティナの前でイチャイチャする二人。

耐えられなかった。


クリスティナは一人で、あの約束の黒薔薇亭に向かう事にした。


アラフと言う男はあの時の約束を覚えてくれているだろうか?

もっと大人になってからおいで、と言ってくれた。


今なら、少しは自由になるお金がある。

だから、そのお金で、あのマルトスをどうにかしてくれないだろうか?


黒薔薇亭に行けば、ミレーヌが迎え入れてくれて。


あれから、6年も過ぎてしまった。

ミレーヌは変わらず美しくて。


「いらっしゃい。あら?あの時の」


「アラフに会いたいの。わたくし、大人になりましたわ。気持ちは変わってはいません。ですから、アラフに」


奥からアラフが出て来て、


「偶然だな。丁度、ここに用があって来ていたんだ。お嬢さんとは縁がある。で?気持ちは変わっていないのか?」


「ええ。わたくしと婚約を結んでいるマルトス・エフェルト伯爵令息。彼は浮気ばかりを繰り返して、恋人の一人を妊娠させましたの。愛人に迎え入れてその子をわたくしの子として育てろと。いかに落ち目の公爵家でも、乗っ取りですわ。わたくしはもう耐えられない」


「だったら、依頼すればいい。勿論、ただって訳にはいかないけどね」


「わたくし、貴方の事を調べましたのよ。辺境騎士団。屑な美男を集めている騎士団ですってね。それも欲の為に。金銭を要求するなら、わたくしに支払える金額にして下さらない?それとも、わたくしが公爵家を継いだなら、もう少し融通してもよろしくてよ」


「落ち目の公爵家が?」


「わたくしの父は領地経営の才能が無くて。わたくし、もっと勉学に励んで、必ず盛り返して見せるわ」


「大人になったな」


アラフは微笑んで、


「承知した」


奥からムキムキ達がぞろぞろと出て来て、


「獲物か?獲物なのか?」

「美男なんだろうな」


アラフはにやりと笑って、


「四天王リーダーの俺に抜かりはない。獲物は美男だ。さぁ行くぞ」






マルトスは行方不明になった。


何でも、学園の帰り、迎えの馬車に乗ったまま、帰らぬ人になったとか。

伯爵家の迎えの馬車が後から来て、


「迎えが遅れてしまって、え?坊ちゃまは帰りましたか?おかしいな」


で、文字通り、帰らぬ人になったそうで。


辺境にある騎士団で、マルトスに似た美男を見たとか見なかったとか。

エフェルト伯爵家は、噂を頼りに辺境騎士団の門前まで抗議に行ったが、そんな男知らんと中に入れて貰えなかった。

結局は、婚約解消となったのであった。



グランディス公爵家はエフェルト伯爵家から支援を十分貰っていたので、経営は立て直していた。


それでも、クリスティナは引退して隣国にいた祖父に頼んで戻って来てもらい、領地経営をやってもらえるよう頼んだ。無能な両親は領地の片隅に追いやって。


祖父に領地経営を教わりながら、学園に通うクリスティナ。

その傍には新たに婚約者になったアレックがいて。


アレックとならば、共に手を携えて、生きていけるだろう。


クリスティナは幸せを感じながら、婚約者アレックの手を優しく握り締めるのであった。



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