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僕の自己満足

 僕は、現在進行形で影猫に説教を食らっている。

 本来の、僕の身体がある世界に帰って来たとき、影猫の入った僕の身体は部屋の掃除の最中だった。

 僕が、身体に帰って来たことで強制的に影猫は押し出されるらしい。

 そもそも、身体に戻ってくるときには、猫神様からの命令が無いとダメだったらしい。

「急に魂が入れ替わると危ないんだ!家にいて良かったよ!これが外だったらどうするんだ」

 サビ柄の体毛を逆立てて、しっぽも膨らませている。

 突然押し出されたことに怒っているのと、プラムを強制的に連れて帰って来たことにひどく怒っていた。

「これはダメだぞ。『魂返し(こんがえし)』っていうんだ。転生する準備のできていないものを連れ帰っちゃダメだ」

もう、何度目だ・・・また言ってる。

興奮の仕方から見たら、どうやら僕は重罪のようだ。

「ましてや、プラムは猫神様になる前の、ただの魂だ。お役目の無い魂を連れてきたら、“場に縛られる”ぞ」

「ごめん。なんか大変なことしちゃったんだね」

ちらりと窓際のキャビネットの上で外を見ているプラムを見た。

「とにかくだ、レオン様がそばにいながらこんなことになるなんて。今頃、猫神様に叱られてるぞ」

・・・ごめんレオン。奥さんに叱られるってつらいよね・・・。

「影猫・・・でいいのかな。その、さっきから出てくる『魂返し』ってなに?」

「俺は、影猫のサビだ。サビって呼んでいいぞ。俺も、お前のこと要って呼ぶから」

僕は、驚いた。なんてコミュニケーション能力の高い猫なんだ。

上級者レベルの対応だ。

“俺もお前のこと○○って呼ぶから”ってさらっと言えるのは場数を踏んだ上級者だ。

「おまえさぁ、部屋はちゃんと掃除しろ。あと自炊な。冷蔵庫が空で、一日目から買い出し行くのとか普通ないからな」

なんか、いろいろごめん。

洗濯まできれいに干してあるのを見て驚いた。

僕の魂より、人間に近いんじゃないか。

「で、何だっけ。あぁ、『魂返し』だ。これは、絶対にやっちゃいけないルールなんだ。準備のできていない魂が、生きてた頃の世界に戻ってきたら、そこから離れられなくなるものや、恨みを持っていた者を捜したりと、ろくなことにならない。生きた人間が、取り込まれてしまう事すらあるんだ。取り込まれたら最後、魂を喰われて廃人になるぞ」

サビが、たたみかけの洗濯物を片付けながら言った。

「サビは、お役目をもらった猫ってことなんだよね」

「おう、影猫ってのは、立派なお役目さ」

胸を張ってTシャツをたたんでいる。

「自分に自信があるってすごいよね」

「いや、それな。お前が無さすぎるんだ。もっと自信を持て、要」

うわ、めちゃくちゃ猫に励まされてる。

っていうか、この数日でそんなことまでわかってしまうのか。

「お前の思考はさ、すげーネガティブなわけよ。でも、『魂返し』やっちゃうくらい魂の方はガッツがある。自分で自分のこと諦めるのまだ早いんじゃない?」

ずばり言ってくれる、長い付き合いの友人のようだ。

確かに、今回のプラムの件は自分でも驚いている。

でも、どう考えても、自己満足だ。

あの時、何もせず帰ってきていたら、こんなにサビに怒られることもなかっただろう。

プラムも、困惑してしまっているに違いない。

「プラム。『魂返し』のこと僕知らなくて。ごめん」

プラムは振り返りもしない。

とりあえず、もう一度王国に連れて帰るしかないようだ。

悪霊みたいになったプラムなんて見たくない。

“場に縛られる”っていうのは思い出の強い場所から離れられなくなる事らしい。

そうなればもちろん転生することないそうだ。

どちらも、ごめんだ。

ポケットからコインケースを出すと、サビが僕を止めた。

「お前ひとりならまだしも、プラムの魂を連れ歩くな。じきにレオン様が来る」

言われた通りだ。また何かやらかしても困るし、プラムは抱っこを嫌がる。

「今日で、お前の身体ともお別れだな。晩飯作ってあるから食べろよ」

サビは、猫の姿でテキパキと最後の片付けをしてくれている。


こちらの世界に、猫リュックが持ち込めなかったせいで、プラムは僕に抱っこされた形でこの世界に来た。

ついてすぐにフーッツっと威嚇はしたものの、そのあとからはプラムは、ずっと猫のままだ。

話しかけても返事をしない。

動かず窓の外を見ている。

サビが言うには、魂が疲れてきているんじゃないかと・・・。

今は、そっとしておけとのことだ。

僕が考えもなしにママに会いに行こうと言ったとき、プラムは驚いた顔をしていた。

けれど、その表情は、どこか期待も含んでいたように感じた。

気のせいだったのだろうか。

最後の洗濯物をクローゼトに片付けたところでレオンが来た。

「お前は何をやっているんだ!」

めちゃくちゃ怒っている。・・・レオンも、怒られたんだろな。

「お役目をもらう前の魂は繊細なんだ」

すぐさまプラムのいるキャビネットに飛び乗った。

「大丈夫か?戻ろう」

レオンがそういうと、

「待って、もう少し待って」

そう言って、こちらに来て初めてプラムが僕を見た。

「ママに会ってどうするのか考えてた」

「うん」

今は、プラムの話を聞こう。

「人間が言ってた通り、約束が果たされるわけでもないし、私は猫神様になる」

「うん」

「意味あるの?」

意味があるかって?ないのかよ?

さすがの僕も言葉を返した。

「じゃぁ、なんで『森の猫』の時に、会いたいって大泣きしたんだよ。会いたいんじゃないのかよ」

ずっとさ、プラムの言ってることと態度が矛盾してるんだよ。

「もういいとか、ほんとは良くないんだろ?何か引っかかるんだよ」

「私もずっと考えてた。なんでママは、あんなこと言ったのか。生まれ変わったら、また会おうじゃないのか、どうして虹の橋で待ち合わせなのか、ずっと考えてたけどわからなかった。」

興奮気味で話すプラムのことを気にしながら僕は返した。

「虹の橋って諸説あるんだよ。ファンタジーな話だし。君のママが正しく理解していたのかもわからない」

「もう終わりだ。城へ帰る」

耳まで真っ赤になったプラムに限界を感じたのか、レオンが王国へ連れ帰ってしまった。

サビが、ん~っと背伸びをして

「じゃあ、俺も帰るわ。要は、誰かのことに一生懸命になるのは悪いことじゃないと思うぞ。」

そう、言い残し帰ろうとしたサビを捕まえて離さなかった。

サビは、ところどころ僕を褒めてくれる。

貴重なメンターだ。

「もうしばらく話せないか?」

ダメもとで誘ってみた。

何か考えた様子のサビは、少し間をおいて

「ま、帰って来いってまだ言われてないし、良いぞ」

サビは、何の話だ?と言わんばかりに、ベットに転がって長話の準備をしてくれた。

「僕の身体に入って生活してみてどうだった」

この短い間で、昔からの友人のように僕のことをわかってくれるサビの意見が聞きたかった。

「休日出勤の要請が入ってさ、急すぎるって断った。」

「ええええ!」

「でもどうしても人が居ないらしくて行ってやったよ」

サビは武勇伝を語るように得意になって話した。

「年下のくせに偉そうなやついてさ、あれこれ言ってくるわけ」

ああ、あの”たばこ買ってこい”後輩だ。

「ぼっこぼっこにしといたから。あ、暴力じゃないぞ。仕事でだぞ」

ここまで話を聞いただけで、次に会社へ行くのが怖くなってきた。

「でもさ、要の実力以上のことはやってない。ってことは、もともとできるヤツなんだよね、要は」

サビが、心地よい誉め言葉をくれた。

「僕、できるのかな。」

「できるぞ、最初はかわいそうな奴だと思ったが、可愛そうなのは、そのネガティブな思考だけだ。自信を持て」

「サビ、お前いいやつだな。何年影猫やってるの?人間に慣れてるね」

「700年くらいかな、時代は大きく変わったけどな。ついていくのが大変だぜ」

そんなすごい影猫が身体に入ってくれてたのか。

そういえば万年肩こりだったのが軽くなっている。

「肩こりには軽い運動が良いぞ。夜に一時間ほど走っといた」

なんだか、もうこのまま影猫に入ってもらったままで生きて行った方が、より良い未来が待っていそうな気がする。

「でもな、それじゃ要の人生じゃ無くなるだろ」

影猫も、考えが読めるのか。

サビのおかげで、短い間に僕という人間が変われた気がした。

「なるべく、サビ手法でやってみるよ」

「おう、まずお前の場合は全部断れ。相手は、断っても絶対にお前のところに仕事持ってくるんだ。でかい面してやってやってるって態度でいればいい」

「う、うん。なるべく頑張ってみる」

「あと、昔の自分と向き合え」

不意打ちで、サビに触れられたくないことにサラリと触れられてしまった。

「やってみるよ。サビまた会えるかな?」

「猫神様のご命令とあらば・・・」

友達になれたと思ったのに最後はあっけないんだな。

「じゃ、俺も一度帰るわ」

と、手を上げてあいさつするサビを捕まえて言った。

「頼むあと3日だけこのままいてくれ。僕は王国へ行く。」

「いや、おまえなぁ。俺が口出すことじゃないけど、お前が行ってどうするわけ?」

「何か、わからないけど、プラムのこと最後まで見届けたいんだ。それに、猫神様とも話したい」

う~んと腕を組んでサビは考えている。

「いいぜ、そのかわり猫神様の命令が優先だ。帰って来いと言われたら帰るからな」

「ありがとう」

そういって僕は着替えてプラムのコインケースを握りしめた。

もう、僕なんかが行っても誰も何も聞いてはくれないだろう。

でも、プラムともう一度話したほうがいいと思った。

サビが身体に入りやすいようにベットに横になり、コインケースの肉球を押した。


今から僕は自分の為に王国に行くんだ。

自己満足って悪いことだと思っていた。

でも、レオンが言った“自己を満足させる”ことが今の僕には大切な事なんだ。

サビのおかげで、小さな成長を僕は感じた。




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