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衝動

 結局、朝を迎えてしまった。

『森の猫』に会って、城に戻って来た僕たちは、猫神様には会えなかった。

 あと3日で猫神様交替の日がやってきてしまう。

 僕の身体は元気だろうか。そんなことをぼんやりと考えていた。

 よほど気に入ったのだろう。中庭では、レオンが紙袋を出して遊んでいる。

 プラムは花壇のそばで花を見ていた。

 僕は、どちらかに話しかけようか、どうしようか悩んでいる。

 かれこれ一時間くらいここに座り二匹の姿を眺めていた。

 なんで猫神様は会ってくれないんだ。

 プラムを城に連れ帰ったらそれで終わりなのか。

 プラムの存在を無下にされているような気がして、いら立ちを覚えた。

『森の猫』が言ったように猫神様も、プラムのことを“わがまま”だと思っているのか?

 レオンの方を見たら、紙袋からだらしなくしっぽと後ろ足が伸びて出ていた。

 寝てしまったようだ。

 まるで、何もなかったように過ごしている。

「もう終わったのか?」

 溜息と一緒に声が漏れた。

 結果として、僕はプラムを捜し出して城へ連れ帰った。

 言われた通りの“お使い”は出来たわけだ。

 ただ、すっきりしない。

 僕は、とっさだったとはいえ、プラムとママに会いに行く約束をしたんだ。

 やっぱり、このままなんてダメだ。

 花壇のそばで丸くなって座っているプラムのそばに行った。

「その・・・。えっと」

 何か話そうと自分から声をかけたのに、相変わらず何も思いつかない。

「お花。ママが大好きだったの」

 花壇の花を見つめたままプラムが言った。

 色んな色の花が咲いている。

 葉はキラキラと日差しを浴びて輝いていた。

「お家のお庭でよく遊んだわ」

 そういえば、プラムのSNSには、そんな写真がいくつかあった。

 なかでも、花壇の中でかくれんぼしている写真が印象的だった。

 たくさんの花の中から、しっぽだけが出ている写真だ。

「ママは、あたちを見つけるのが下手なの」

 プラムがママと遊んでいる姿を想像した。

 しっぽがはみ出していたり、耳が飛び出ていたり、きっと隠れ切れていなかったに違いない。

 本当は、ママは、ちゃんと君を見つけていたんだよ。

「あたちの病気がわかったら、ママは泣いていた」

 プラムは、ちっちゃな耳を後ろに倒した。

「あたちは、いよいよ猫神様になれるんだって嬉しかった」

 僕は、プラムの話を黙って聞いていた。

 この時点では、王国へ帰る時が来たことをプラムは喜んでいる。

 昨日の『森の猫』との会話では、プラムとして転生するときに、二年で王国に帰るのだとプラムは知っていたのだから当たり前だと思う。

 でも、楽しくて満たされた日常に、未練はなかったのだろうか。

 寂しさは感じなかったのだろうか。

「でも、ママは、ごめんなさいって毎日泣くようになった」

 白いしっぽが小さな体に巻き付いた。

「ねぇ、人間。どうしてママが謝るの?」

 ぐっと、息が詰まった。

「それは・・・」

 小さな白い身体を起し、こちらに金色の瞳を向けて僕の答えを待っている。

「人によると思うけど、プラムが病気になったのはママの責任だと思ったんじゃないかな」

 あくまでも僕の考えだが、自責の念を持つ人は少なくないと思う。

 おそらく、ママもそのタイプの人間だったんだろう。

 病気であっても、ケガだったりしても、きっと自分の責任のように感じてしまう。

 僕自身、自分の行動や考えがどう思われているのかとか、迷惑をかけるんじゃないかとかそんな風に思ってしまう事も自責の“なれの果て”だ。

 そんなこと思い始めても、どこにも答えは無いことは解っているのに。

「人間らしい考え方ね」

 つまらない答えね、と言わんばかりの態度だ。

 でも、君はそんなママの姿を見てかわいそうだと思ったんじゃないのか?

 だから、お役目を捨ててでも虹の橋に留まりたかったんじゃないのか?

 しれっと、他人事のように返すプラムに違和感を感じた。

「ママに会いに行きたくて、ついて来たんだと思ってた」

 プラムの涙を見たとき、心の中が見えたような気持ちになっていた。

 でも、今のプラムからはそんな様子が一切見られない。

「もう、終わったことだわ」

 くるりと僕に背を向けた。

「終わったって。猫神様になるってこと?」

「そのために、あたちを捜したんでしょ?」

 その通りだが、でも君は昨日までは約束を守ろうとしていたじゃないか。

 なぜ、そんな風に何もなかったようにできるんだ。

 

 でも・・・。

 確かに僕は、プラムを猫神様にするために、ここに連れてこられたんだ。

 もし、あの時『森の猫』に会いに行こうと僕が言わなければ、プラムは最後まで姿を見せずに猫神様にならずに済んだのかもしれない。

 レオンは“誰のために?”と僕に聞いた。

 僕は、“プラムの為に”と言ったが、本当にプラムの為だったのだろうか。

 かすかに、心のどこかでは、『森の猫』に断られれば諦めるんじゃないかって気持ちもあった。

 猫神様の期待に応えようとした結果だ。


「それが悪いことか?」

 隣を見ると、レオンが座ってプラムの後姿を見ていた。

「・・・プラムの為にって、思ったんだ」

『森の猫』を捜していると言ったから。

 一緒に捜してあげればいいと思った。

 そのあと、どうなるのか考えればわかったものなのに。

「自己満足だった」

「お前の場合、自己を満たすことが足りなさすぎる」

 それがどうしたと言わんばかりに鼻息をつかれた。

 自己を満たすことが足りなさすぎるか・・・。

 こんな僕のどこに褒められた事があるんだ。

「レオンってさ、優秀だな。何年猫やってるの?」

 これ以上落ち込むのが怖くなり、話題を変えようとした。

「900年だ」

「900年⁉」

 何回転生したのかとか聞こうかと思ったが、話についていけなくなりそうでやめた。

 雑談を始めようかと思ったが、そんなスキルは、もともと持ち合わせていない。

 空を見上げると日が高く昇っている。

 半日過ぎてしまった。

「・・・帰りなさいよ。人間」

「え?」

 僕は拍子抜けた声で答えた。

「もう逃げにゃいし、いる意味ないじゃにゃい」

「それもそうだな。帰れ」

 レオンまで帰れと言い出した。

 なんでだよ、猫神様に会ってママに会う話するんじゃなかったのかよ。

「いや、待ってよ。ふたりとも」

 僕は冗談じゃないと二匹に言った。

 静かに僕を見るレオンの瞳が帰れと言っている。

 なんだよ。勝手につれてきて勝手に帰れって。

 最後まで、見守ることも許されないのかよ。

 レオンの耳がぴくぴくと動いた。

「プラム、猫神様がお呼びだ」

 ダメだ。

 終わらせるものか。

 プラムは、まだ自分のことをちゃんと全部話してないじゃないか。

 僕は、そばにあった猫リュックにプラムを捕まえて入れた。

「にゃにするのよ!」

 そしてすぐに、ポケットに入れていた肉球コインケースの肉球を押した。


 誘拐だ・・・。

 と、あとから思った。

 最後に見えたレオンの顔が、めちゃくちゃ驚いていた。

 こんな衝動が僕にもあったんだって思ったら自分でも驚いた。

 なるべく目立たなく生きてきたんだ。

 でも・・・。

 

 僕の中には、まだ、あの時の僕がいるんだ。


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