第2話・綺麗な人魚のお姉さんは……その魚体を多くの人に見せたいのだ
奄美 日曜ことシュークリーム・サンデーが、学校に通っている現世界──学校の中庭ベンチで、日曜は一人で昼食を食べていた。
以前は数名のクラスメイトと一緒にお昼のランチを食べていたが、日曜が持参してくるお弁当を見たクラスメイトは一人……また一人と離れていった。
日曜が食べている、異世界の具材を使ったサンドウィッチは具が生きていた。
「クラスメイトのみんなは、見た目だけで食わず嫌いなのだ……食べてみれば、珍味で美味しいのだ」
パンの間からウネウネと蠢く具材のサンドウィッチを平らげた日曜は、ある場所へと向かった。
◇◇◇◇◇◇
日曜が向かったのは階段の踊り場にある、全身を映す金属鏡だった。
制服姿で映る日曜は、深く息を吸い込む。
「さてと、今回は一発で成功するといいのだ」
日曜は勢い良く額を金属鏡に激突させる。
金属音が響き、額を押さえてその場にしゃがみ込む奄美 日曜。
「くぅ、数回に一回は失敗するのだ」
日曜は姿を映すモノから、馴染の異世界に移動するコトができる──鏡や金属面や水面などから。
「以前、車体が黒光りしていて姿を映す、暴力的な人の高級車に頭突きをして凹ませたら、すっごく怒られたのだ……気を取り直して、もう一度」
日曜がもう一度、金属鏡に助走をつけてぶつかると、今度はスッと体が鏡の中に入って、異世界でいつも着用している衣服に変わる。
日曜こと、シュークリーム・サンデーが出てきた馴染の異世界の場所は、町の一角にある三階建て建物の一室の鏡だった。
少し乱雑した部屋の中には木製の椅子に座って机の上の事務書類整理をしている、銀色の宇宙人がいた。
サンデーが、アゴがバナナのようにしゃくれていて、髪をセンター分けして、黒いアーモンド型の目をした宇宙人の口無し男性に訊ねる。
「『月星バナナムーン』何か依頼は届いているのかなのだ?」
黒い腕カバーをした宇宙人のバナナムーンが、伸びた腕で二枚の用紙を差し出す。
「少し厄介な依頼も含めて二件届いています……受けるかどうかは、サンデーの方で決めてください」
幻獣ハンターのシュークリーム・サンデーは、渡された用紙に目を通す。
事務処理が専門のバナナムーンは、離れた場所に置いてあるコーヒーカップとポットを三メートルほど伸ばした手でつかむと。
コーヒーを飲んで休憩した。
サンデーが不思議そうな視線を、向けているのに気づいたバナナムーンが言った。
「なにか?」
「いや、バナナムーンが、どうやってコーヒーを飲んでいるのか前から疑問なのだ」
「口はありますよ……滅多に開かないだけです。わたしが口を開けた姿を見れば子供は恐怖で泣き出します……現世界の学校の方はどうですか?」
「特に問題は無いのだ、作者が異世界と現世界の時間調整をしてくれるので、時間のズレは生じないのだ」
「作者? よくわかりませんが……それは良かったです」
サンデーは、この故郷異世界の建物から、現世界の学校へ通学している。
バナナムーンが言った。
「で……二件の依頼は受けるんですか?」
「二件とも受けるのだ、最低下等生物の〝バコシヤ〟は人魚が生息している磯地域にも少しはいるのだ」
「臭くて下品なバコシヤ、は、すべての生物から嫌われていますからね……少し面倒な仕事になりますね」
◇◇◇◇◇◇
いつもの異世界スタイルで、バックパックを背負ったサンデーは事務所から直接、人魚が生息している、磯浜に作者を利用して移動した。
「さてと、もう一度依頼を確認するのだ」
取り出した二枚の依頼用紙を眺めるサンデー。
『美麗な人魚を一体、水族館の水槽に入れたい』
『解剖実験用の〝バコシヤ〟が一匹欲しい』
「二つの依頼を同時に叶えるには、この磯浜が最適なのだ……バコシヤを解剖したいなんて、相当の変わり者なのだ。解剖で使用した医療器具はバコシヤの腐った匂いが染みついて廃棄しないといけなくなるのだ」
サンデーは人魚が好む香木を磯で炊いて、磯浜に香りを漂わせる。
海の方で巨大な海洋哺乳類の尾ビレが海面を叩き。
数体の人魚が海面で跳ねる。
そのうちの一体の人魚の体に、サンデーの目は引き寄せられた。
バランスのとれた見事なモデル体型の美麗な人魚。
「二枚貝で隠したバストも、くびれたウェストも見事な人魚なのだ……魚のヒップも魅了する美尻なのだ、あの人魚に決めたのだ……おぉい、一番美人な人魚さん、ちょっとお話しがあるのだ」
サンデーの声を聞いた人魚たちが、先を争ってサンデーが立つ磯へと向かう。
殴り合ったり、尾ビレで叩きつけたりして、最終的にサンデーが目につけた美麗人魚が勝利して磯へと到着する。
磯の岩に座ったモデル体型の人魚が言った。
「あたしに何か用?」
「実は……」
サンデーは、モデル体型の美麗人魚に水族館の水槽に入ってくれないかと持ちかけだ。
少し考えてから人魚が言った。
「悪くないわね、あたしの美体に、見惚れる男たちの視線というのも……うっかり、人魚の悲鳴に近い声で、お客の鼓膜を破ったり、お客さんの体を破裂させたり、水槽のガラスに亀裂を走らせてもいい?」
「そこの部分は水族館側と、交渉して欲しいのだ」
「わかった、契約はしっかり確認しておかないとね……水族館の水槽に入るについて、もう一つ条件があるんだけれど」
「なんなのだ?」
「磯の洞窟に巣食っている下等生物の〝バコシヤ〟を一掃してくれない……あいつらさえ、いなくなったら父親の人魚もオマケで、水族館の水槽にぶちこんでもいいよ」
「男の人魚は珍しいのだ、わかったのだバコシヤを一匹だけ捕獲して、残りは根絶やしにするのだ……バコシヤはいつ、エサを求めて洞窟から出てくるのだ?」
「もうすぐよ、ほら下等生物でこの世で生きるのに値しない、下品な生物が洞窟から出てきた」
洞窟の中から、コウモリの翼腕で、いかり肩で、足が短く、オークに似た、臭い〝バコシヤ〟の醜悪な群れが。
「ぶほッ、ぶほッ」鳴きながら現れた。
人間のマネをして眼鏡をかけているバコシヤたちが、磯に不細工に着地する。
サンデーと人魚たちが、醜悪なバコシヤの姿に顔をしかめた。
サンデーが背負っているバックパックを、磯に置いてフタを開ける。
「バコシヤは毎日、カップ麺を食べていそうな顔をしているのだ……海だから水属性の仲間を呼ぶのだ、来て欲しいのだ液体金属のスライム娘『水玉ラ・メール』」
バックパックの中から、銀色の水玉が飛び出してきて。
銀色スライムの美少女に変わった。
水玉ラ・メールが、サンデーに向かって言った。
「呼んだ?」
「うん、呼んだのだ。いつものロボット形態に変形して一緒に、バコシヤを殺して欲しいのだ」
「バコシヤ? げっ! 本当にバコシヤだ、さっさと終わらせちゃおう」
ラ・メールが美少女から、銀色の巨大ロボットに変形する。
サンデーをロボットアームでつかんで、ラ・メールが言った。
「あたしの中に入って、サンデー」
銀色の機体に押し込められたサンデーが、ロボットの中に浮かぶ。
ラ・メールは液体金属の銀色剣を生成した、ラ・メールの性格が一変する。
「おらおらおら、斬られて死にやがれ! バコシヤ!」
銀水の剣で斬られたバコシヤは、溶けて消えていく。
「ぶほっ、ぶほっ」
「ボケがぎゃあぁぁ!」
剣に続いてラ・メールは銀球の弾丸を連続で撃ち出した。
「おらおらおら、爆発して砕け散れ!」
爆発してバコシヤの汚水のような体液が、飛び散り悪臭が磯に漂う。
サンデーがラ・メールの中で言った。
「ラ・メール、爆発する銀球に混ぜて粘着性の銀球も飛ばすのだ……解剖用のバコシヤも捕獲しないといけないのだ」
「わかった」
海上での爆発音に、海中から浮上してきたモデル人魚の父親が、何事かと肩から上を海面に覗かせる。
「なんだ? やたらと爆発音が海中にも響くが……何をやっているんだ?」
父親人魚の周囲に、バコシヤの血肉が降り注ぐ。
モデル人魚の父親が顔色を真っ青にしたのを見た、他の人魚娘たちが一斉に耳を手でふさいで海中に避難する。
父親人魚の高周波の悲鳴が磯に響き渡る。
「~~~~~~」
サンデーの鼓膜は、ラ・メールの中で耳栓状態だったので守られたが、バコシヤたちは破裂させられた。
「あ~ぁ、解剖用に捕獲するバコシヤまで……あっ、一匹だけ粘着弾で顔面を包まれて、磯岩の陰で高周波を免れたバコシヤが気絶して残っていたのだ……アレにするのだ」
ラ・メールロボの中から出たサンデーは、バックパックから火祭 ネコマを呼び出す。
ネコマは運転手姿で、漆黒の高級送迎車を運転しながらバックパックから飛び出しできた。
運転席から降りてきた、ネコマにサンデーが言った。
「ネコマ、あそこで気絶しているバコシヤを、解剖する施設に運んで欲しいのだ」
露骨に嫌そうな顔をしたネコマは、漆黒の高級送迎車の屋根から伸ばした、カギ爪の黒い手で汚物でも触るようにバコシヤをつまむと。開いた空間移動ホールに向かってバコシヤを放り込んでから。モデル人魚と、その父親人魚に丁重に一礼して言った。
「お美しいモデル人魚のお嬢サマと、そのお父サマ……漆黒の高級車にお乗りください、水族館にお連れします」
こうして、幻獣ハンターのサンデーは依頼された二件の依頼を見事に解決した。