第1話・おまえも異世界の動物園に入るのだ
「魔王になりそこなった王サマ……おまえも別の異世界にある〝動物園〟の檻の中に入るのだ」
ある楽しい異世界の一つ──現世界では女子高校生をやっている、十六歳の幻獣ハンター【シュークリーム・サンデー】こと『奄美 日曜』は、古城の王の間で頬を引き攣らせている王サマに臆するコトも無く、そう言い放った。
剣をつかんだ王が玉座から立ち上がる。
「いきなり城に来て我に檻に入れだと、ずいぶんと舐められたものだな……無礼な小娘め! その服装は、この世界の者ではないな、どこから来た」
シュークリーム・サンデーは前頭部が銀髪、後頭部が茶色の髪色をしていて。
額には赤いバンダナを巻いている。
上半身に着ているのは、どこかの異世界のヤバいティーシャツばかりを売っている店で買った文字プリントティーシャツだった。
丈が短いティーシャツの下部からは下乳が見えていて。
ティーシャツにも『下チチ』の文字がプリントされている。
露出したヘソには、宝石のネーブルピアス
下半身は、太モモの所で切断して、鎖で上下をつないだカットオフのデニムだった。
そして、背中には大型のバックパックを背負っている。
サンデーが、あけっらかんとした口調で言った。
「うん、この異世界の者ではないのだ……別の異世界を通って来たのだ、魔王になりそこなった王サマを動物園の檻の中に入れて、見世物にするために来たのだ」
見世物にする……と、いう言葉に魔王になりそこねた王は、ぶちキレる。
「少しは言葉を選べ小娘! 確かに我は魔王になりそこねて、城の者たちから去られた王だが。動物園で見世物になる落ちぶれてはおらん! そんなに王を動物園に入れたかったら我を負かせてみよ!」
「わかったのだ……説得で解決したかったのだが、それがムリなら闘うのだ……それもいいのだ」
背負っていたバックパックを床に下ろすと、サンデーはバックパックのフタを開けた。
バックパックの縁にはグルッと牙が生えていて、渦巻く異空間が見えた。
サンデーが言った。
「ボクの元に来るのだ金属竜『金環 竜華』」
バックパックの中から、金属の東洋的な竜が飛び出しできた。
金色の金属竜は、サンデーの周囲を飛び回りながら、女の子の声で言った。
「呼んだ?」
「うん、呼んだのだ……力を貸して欲しいのだ」
「防御と攻撃、どちらを希望する?」
「基本フォームの両方なのだ……いつものリング刃になって欲しいのだ」
「刃は付ける? あの剣を抜いたオッサンを真っ二つにできるよ」
突然現れた、宇宙金属竜『金環 竜華』の言葉に、体を怒りで震わせる王サマ。
「殺したらダメなのだ……魔王になりそこねた王サマは、動物園に入ってもらうのだ」
「了解」
竜華がサンデーの周囲を回り、リング状の武具へと変形する。
斜めになったり、横になったり、縦になったりしているリング刃を操りながら、サンデーが王サマに向かって言った。
「かかってくるのだ、ボクに負けたら大人しく動物園の檻の中に入るのだ……約束したのだ」
「勝手に約束するな!」
王が頭上に掲げた剣の先に邪悪な黒霧の球体が発生する。
「見よ、魔王になるために会得した〝魔王弾〟の威力……」
王が最期まで言い終わる前に、突進してきたサンデーがリング刃で剣を弾き飛ばす。
「前置きが長いのだ、そんなんだから魔王になれなかったのだ」
「ぐぬぬぬっ、小娘……我の負けだ、動物園の檻に入ってやる」
「結構、檻の中で見世物になるのも悪くないのだ、食事はちゃんと与えられるのだ」
金環 竜華が竜の姿にもどって、バックパックの中に帰っていく。
サンデーがフタが開いた、バックパックに向かって言った。
「パックちゃん、まだフタを開けておくのだ……『火祭 ネコマ』を呼び出して。魔王になりそこねた王サマを、別異世界の動物園に運んでもらうのだ……火祭 ネコマ、来るのだ」
バックパックの異空間から、触手一つ目みたいなモノが出てきて、王サマを一瞥すると引っ込んだ。
そして、黒ネコの頭をしたフンドシ姿で頭に鉢巻を巻いた、ネコ人間が妖怪火車が引いているような火炎の車を引いて現れた。
黒ネコ人間の『火祭 ネコマ』が、腕組みをしてサンデーに言った。
「オレが運ぶのはそこの、マヌケ面をした王サマか」
王が怒る。
「おまえたち、少しは言葉を選べ!」
サンデーがネコマに訊ねる。
「今回は、バスの運転手さんの格好ではないのだ?」
「さっき、運ぶモノを確認したからな……モノによっては、バスの運転手やコンテナトラックのドライバーにもなる」
バスだのトラックだの聞き慣れない言葉にキョトンとしている、王サマに向かってネコマが、振り返りもせずに自分が引く火炎車を指差して言った。
「さっさと、乗りな……早く乗らねぇと焼き殺すぞ」