電波の国
連載から抜粋
お遍路の島から本土の島へ戻るため列車に乗っていた私は、うどんで有名な場所で途中下車をして、おいしいうどん屋を探して歩いていた。
ある山に差し掛かり、その山を登り続けると、頂上付近の鉄塔の側に、白装束を着た男の人がいるのに気が付いた。お遍路の人かと思ったが、研究者のような見た目をしていた。
彼はきょろきょろと辺りを見ながら、こそこそと手を動かしている。どう見ても怪しいため、私は「何をしているんですか?」と声をかけた。
するとその男は例によってきょろきょろしながら私に寄り、耳元でこそこそと喋り始めた。
「ここだけの話なんだが、この鉄塔から人体に有害な電磁波が流れているんだ。これは君たち一般人にはわからない。私が勤めている研究所でわかった事なんだ」
私は「それで、どうするんですか?」と聞くと
「この鉄塔を倒すんだ」
と言った。彼は続けて
「ボルトを抜いて、根本から山側に向かって倒すんだ。それから、私たちの研究所に関する報道を紛らわせるためでもある。私たちは真面目に研究しているのに、それを茶化すような報道をされてうんざりなんだ。鉄塔が倒れれば、大きなニュースになる。私たちの報道への注目を逸らすために鉄塔を倒すんだ。むしろ目的はそっちかな」
私は山を下り、少し歩いた所にうどん屋を見つけ、そのうどん屋に入った。
かけうどんと野菜のかき揚げを注文した。
今までで食べたうどんの中で一番硬くて噛み応えがあった。これをコシというのだろうか。
駅まで歩いて列車に乗り、世界最長の鉄道道路併用橋を渡って本土の島に再び戻ってきた。
翌朝の新聞に、鉄塔が倒れたというニュースが大きく載っていた。
犯人はまだ捕まっていないそうだ。
犯人の目星もついていないそうだ。
坂出送電塔倒壊事件