気がつけばピンクでした
いつもの様に仕事から帰宅して、病気の母さんにご飯を食べさせ、ベタつく体を濡タオルで拭って一息つく。
「あー、お腹すいたな……それよりシャワー浴びたい」
ん?シャワー?
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「え?何これ!私って【私】よね?」
私の名前はアンジー、貧民街に程近い平民街に住んでいる14歳。
12歳の頃から、町のパン屋で働いている勤労少女よ。
家族は母親だけ、父親の顔も名前も知らないの。
その母親は最近体を壊しがちで寝込んでる。
私がしっかり働いて、お母さんを養わなきゃ!
それに15歳になると、教会の成人の儀で、【天の加護】が貰えて魔法が使える様になるのよ。
そうすればもっといい仕事に就けるし、お母さんにも楽させてあげられるの。
…………ってありきたりかよ!
【私】の名前は、東園寺 莉沙、財閥系の本家の末の姫のお母さんと、取引先だった銀行の、役員の息子の父親の間に生まれた一人娘。
でも、私は一般人だよ。
父親の実家の銀行が、合併吸収されたのが、私が小学校の頃。
その後父親は母さんの実家のツテで、商社勤務したけど、プライドばかり高いあのおっさん、年下上司に頭を下げられず、左遷で地方勤務へ。
単身赴任して、そこで浮気なんかしちゃって、サイテーだよ。
なのにお母さんって
「男の人って浮気するものでしょ?」
なんてのほほんとしてるから、思わず
「そーなんだー」
なんて思ってしまったよ。
それから母娘二人暮らしは平穏に過ごせてたわ。
なーのーに!
こっちが見逃してやってんのに、態々地方から浮気相手が上京きてきて
「あの人を解放してあげて!」
なんて因縁つけてきたのよ。
お母さんが
「離婚は難しいと思いますよ、主人の実家への融資の問題もありますし。
お付き合いを止めることはしませんから、今のままではいけないのですか?」
って、あのおっさんの親と、おっさん自身の立場を守って、自由にお金も使っていいし、お母さんの実家の名前も使っていいよって言ってんのに、包丁持ち出して来て………お母さんと私は刺されちゃったよ。
で、気付けば私はアンジーって、ラノベかい!
しかもしかも、歪んだ透明度の低い窓ガラスに映る私の髪…
「ピンクかよ!」
貧しい母子家庭、病気の母親、ピンク。
これはもうまごう事なき【ざまぁ系ヒロイン】じゃない!
きっと二ヶ月後の誕生日の成人の義でも、光属性とか授かっちゃうんだよ。
それかお母さんの病気が悪化して………で、男爵家とかの貴族な父親が迎えに来るんだよ。
それで学園に入れられて、そこで王子とか、騎士とか、宰相の息子とか、公爵令息とかと出会って、めっちゃモテモテで、
「これってハーレム?」
なーんて思ってたら、悪役令嬢にざまぁされるんだよ。
知ってる、そんな話いっぱいネットで読んだ。
それに私も何本か【悪役令嬢モノ】とか【ざまぁモノ】書いて、アプリのサイトに何本も上げたから。
全部未完だけど。
ほら、あれって途中で飽きたり、反応が薄かったら書く気無くなったりするものだからね。
未完なのは仕方ない、仕方ない。
とにかく!
貴族な父親に連れて行かれない様にしないと。
大体浮気する男が許せない。
前世のおっさんを思い出すし。
それに、悪役令嬢という名の上位貴族のご令嬢と婚約してて、ぽっと出のヒロインに簡単に靡く、男達も許せない。
この世界が乙女ゲームの世界なのか、ラノベの世界なのかは知らないけど、綺麗な金髪とか、優しい栗色なら、普通に恋愛モノのヒロインだったろうに、ピンクはダメだよ。
ピンクがざまぁされるのは、形式美と言うか、予定調和なんだから。
あー、しかしどうしよう。
貴族な父親が迎えに来る前に、結婚でもしとけば逃げられるかな?
この世界では15歳の成人で結婚する女性が殆どだし。
前世からすると、高校一年で結婚?
ナイワーなんだけど、流石に人妻(響きが強い)はいくら貴族な父親でも連れて行かないでしょう。
仕事場のパン屋の息子のヨシュアさんは私の事好きみたいだし、私も嫌いじゃない。
いつも余ったパンをくれるんだけど、毎回私の好きなベリージャムのパンをこっそり避けていて、混ぜてくれるんだよね。
さりげに優しいのが、ポイントアップだよ。
それに、女性のお客様にもヘラヘラしないところも高得点。
それにそれに、ママさん(パン屋の奥さん)から、最近よく「付き合ってる人はいないのかい?」って、さりげなくリサーチ入ってるし。
うん、こちらからもアプローチかけて、成人の儀が終わったら、逆プロポーズして、貴族な父親が迎えに来る前に、人妻になっちゃおう!
成人の義で、希少魔法が使えたとしても、それが貴族な父親の耳に入るまで、時間も少しかかるだろうし、噂が耳に入って、
「昔お手つきにした女性の子供だ」
って調べて迎えに来るまで、きっと半月はかかるよね?
なら、それまでに逃げ道を作っておけば大丈夫よね?
よし、そうなったら、明日からアプローチ頑張ろう!
今日は念入りに体を拭いて、髪も洗って、マッサージをして……ふふふ、待っててね、ヨシュアさん!
ざまぁされない為にも、貴族なんかにならない為にも、ゲットしてみせるから!
二ヶ月後の成人の儀、私は光魔法を使える様になったの。
そして、今はヨシュアと無事結婚して、暖簾分けしてもらったパン屋を、夫婦二人で営んでるわ。
「ははははは、そんな事考えてたのかい?
アンジーは想像力豊かで面白いね」
「うーん、黒歴史だけど、笑い飛ばす方が健全だよね」
私は結婚後、前世の記憶がある事、ピンク色の髪の問題、貴族な父親が迎えに来る前に結婚したかった事など、全部ヨシュアに話したの。
「だって、君の父親って、薬師で薬草採集に行った先で、滑って転んで無くなったって言うのは、町中誰でも知ってる事だったのに、義母さんが『恥ずかしい亡くなり方だから、アンジーにはなるべく知らせたくないわ』って言ってたから黙ってたんだけど、まさか貴族様の庶子だと思っていたなんて」
「ああああああ〜!!お母さん、ちゃんと教えててよね!」
「あはははは」
はい、私は貴族の落胤でも無ければ、ヒロインでもありませんでした。
普通に父親の家系が、赤やピンクの髪色の、前世の記憶のあるだけの一般庶民でした。
しかも!
光属性の魔法って、本当に光るだけ!
夜道で重宝するくらい。
あと、カラフルな色の灯りが灯せたり、ホタルみたいに点滅させたり……つまり、やっぱり、光るだけ。
前世を思い出してあたふたしちゃったけど、どんな黒歴史でも笑っておおらかに受け入れてくれる旦那さん、しかも絶対浮気しない、浮気をしたらもいでいい、とまで言ってくれた人と結婚できたんだから、ハッピーエンドで間違いないよね!




