俺のことが好きじゃない彼女と別れた
「ねぇ、いつまで待たせるの?」
デートの待ち合わせ場所に着いた俺は彼女の紗霧 奈津にそう言われた。
「え?い、いや、まだ約束の時間までは5分以上あると思うんだけど…」
右腕につけている腕時計を確認する。間違いない。集合の時間まではあと7分程余裕がある。
「は?そんなこと言ってる訳じゃないんだけど?私が10分前に来てるのになんであんたが私より遅れてきてるのよ」
「で、でも集合時間には間に合ってる訳だし…」
俺は時間に余裕をもって来たつもりだ。実家5分前行動もちゃんと出来ている。
「なに?なんか言いたいの?」
奈津がキッ、と俺を睨みつけてくる。それだけで俺は何も言えなくなってしまった。
「な、なんでもない」
「はぁ…なんでこんなのが私の彼氏なのかしら」
それなら別れたらいいじゃないか、と言う言葉は口に出したら何を言われるか分からないため言わなかった。
実際俺から奈津に告白して付き合い始めた。俺は奈津のことが大好きだし今もその感情は…変わっていないはずだ。でも彼女である奈津は…分からない。俺の事どう思ってんだろうな…
「…まぁいいわ。早く行きましょ。今日は沢山買いたいものがあるの」
そう言って奈津は歩き出した。
「あ、ま、待ってくれよ」
そう言った俺も奈津の後ろにつきながら歩き出した。きっと今日も荷物持ちをさせられるんだろうな。そんな確信に近い予感を抱きながら奈津の背中を見つめた。
結果から言うと、やはり俺は荷物持ちだった。俺の両手にはかなりの量の袋が下げられている。その中には奈津の服やメイク道具、日用品などが入っている。
あれ?今日ってデートだよな?デートであってるよな?おかしいな、俺がやってるのただの荷物持ちじゃん。
なんで俺奈津と付き合ってんだっけ?原点は俺が奈津を好きになったからだ。でも今は?少しだけ考えてみる。今は…もうよく分からなくなっていた。
確かに奈津はめちゃくちゃ可愛い。それこそモデル顔負けのかわいさだ。だが性格はどうだ?俺は彼女に尽くしてきた。それこそ彼女の隣にいるためにどんな事でもやった。荷物持ちでも嫌な顔ひとつせずに。
でももう…限界だ。口を開けば俺の悪いところばかり見つけて指摘してくるし手を繋いだのだって付き合い初めて1ヶ月頃の時に2、3回繋いだだけ。付き合い初めてもう半年ほど経つがキスなんてしたことない。もちろんそれ以上のことも。
確かに付き合いたてはお互い恥ずかしがってしどろもどろになることだってあるだろう。しかし半年経った今、この現状である。もうこんなの恋人じゃない。主人と奴隷だ。
そんなことを考えていたら自然と口から声がこぼれた。
「奈津、別れよう」
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私は奏斗から発せられた言葉の意味がよく分かっていなかった。
「え?何しょうもない冗談言ってんのよ。今日はまだまだ回るところあるんだから早くしてよ」
私はそう言って歩き出そうとするが後ろの奏斗は立ち止まったままだった。
「…冗談でこんなこといわねぇよ」
そう言った奏斗の目は本気だった。
「…う、嘘よね?な、なんでいきなりそんなこと…」
本当に意味が分からなかった。
「いきなり、か。きっと前々から感じてたんだ。俺、お前のこと本当に好きなのかなって」
彼の口から信じられないような言葉が出てきた。好きなのか分からない?好きに決まってるだろう。好きじゃないなら私に告白なんてしないはずだ。
そう言おうとしたところで彼が付け足して話す。
「そりゃ当然告白した時は好きだったよ。誰にでも優しくて気遣いができて輝いているお前が」
「じゃあなんでっ!」
「だってお前、俺の事好きじゃねぇじゃん」
奏斗はそう言った。確信に満ちた目でそう言った。だがそれは全く違う。私は奏斗のことが本気で好きだ。だから今日の待ち合わせも予定の10分も前に来てしまっていたのだ。
「そんなことない!私は奏斗のこと本気で好き!」
あれ?私、奏斗のこと好きって言ったのいつぶりだっけ?
「そうなのか。じゃあなんで好きなやつを罵倒するようなこと言ってたんだ?」
「ば、罵倒?」
「してただろうがよ。俺の悪い所を見つけてはネチネチと悪く言ってたじゃねぇか」
「ち、ちがっ!それは…」
それは奏斗にもっとかっこよくなってもらおうと思って言っていたことだった。
「何が違うんだよ。それに今日だってそうだがお前とのデートって大抵俺荷物持ちだよな。こんなのデートじゃねぇだろ。お前の買い物の荷物持ちでしかない」
「そ、それは…」
その事に関しては私が奏斗に甘えていたとしか言えないだろう。付き合いたての頃、何度かデートを繰り返した時、私は自分で荷物を持てないほどに買い物をしてしまった。そのときに奏斗が荷物を何個か持ってくれたのだ。とても楽だった。それから私は奏斗を便利屋だと思ってしまっていた。
「やっぱり俺たち無理だったんだ。奈津、俺と別れてくれ」
「い、いやだ!別れたくない!」
別れるのだけはいやだ!私は本当に奏斗のことが大好きなんだ。
「大体半年も付き合ってるのにまだ手を繋いだことしかないなんておかしいだろ。キスしたいって言ってもそっぽを向いて「いやだ!」って言ってたし。そんなに嫌なら直ぐに別れてくれたら良かったのに」
「そ、それもそんなつもりで言ったんじゃ…」
キスは単純に恥ずかしかった。だって大好きな人の顔が目の前いっぱいに広がるなんて耐えられない。私はきっと鼻血を出して倒れてしまうだろう。
「…だから俺たち、別れよう」
そう言って奏斗は持っていた荷物をその場に置いて踵を返した。そして私に背を向けながら歩き出した。
「ま、待って!」
私はそう叫ぶが奏斗は一向に止まる気配がない。私は走り出した。が、小さな段差に足を引っ掛けてしまい転んだ。直ぐに頭を上げたがそこにはもう奏斗の姿は無かった。
「かな、と…うぅ、うぁああぁぁあ!」
突然大声を上げながら泣き出した私を通行人はギョッとした顔で見つめていたが今はそんなこと気にならなかった。
どうして私はあんなことばかり言ってしまったんだろう?
どうして私は奏斗に甘え続けていたんだろう?
どうして私は気づくことが出来なかったんだろう?
どうして私は…
なんだか面白みのない文章になってしまった気がしますが一応投稿しておきます!
短編は書きなれていないので暖かくお見守りください!