↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫又な旦那様は転生した花嫁を迎えたい~前世の夫婦といわれても記憶がないので、あやかしの血族向け家政婦はじめます~  作者: 千早 朔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/51

前世とは違う私達

「す、すみません私……!」


 やっとのことで理解し慌てて飛び退くと、マオは「いや、俺もまだまだ青いな」と頬を掻き、


「今は側にいられるだけでいいって思ってたんだけどな。けれどつい、こうも近いと触れたくなってしまう。ああいや、茉優が俺を好いてくれるまで、絶対そうした触れ方はしないぞ。茉優に嫌われたくはないし、怯えられるのも嫌だからな」


「マオさん……」


「あ、引いたか? すまん、こんなこと言われたら気が休まらないよな。だが誓って! 誓って護衛としての境界は越えないから……! 頼むから、出ていけなんて言わないでくれよ? な?」


 上目遣いで手を合わせるマオがなんだか可愛くて、私は「いいません」と笑みを零す。

 明らかにほっと胸をなでおろすマオ。私はためらいに視線を落としてから、重い口を開く。


「……でも、マオさんは、出ていきたくなると思います」


「茉優?」


 クルミっ子を小皿に置く。

 小さなハートの断面に、これが恋の叶うおまじないだったらよかったのに、なんて。


「私は、"ねね"じゃありません」


「……茉優、なにを」


「魂は確かに、ねねさんの生まれ変わりなのかもしれません。ですが今の私は茉優です。ねねとは生活も思考も、そしておそらくは容姿だって違います。同じなのは、魂だけ。それだけなんです」


 膝の上で両手を握り込め、動揺するマオの瞳を見つめる。


「マオさんだって気づいているはずです。なのに魂さえ"ねね"だったなら、他はどうでも良いのですか? マオさんの愛は、前世で交わされた約束のためだけに強要されるものなんですか? もう、いいんです。無理して私の中の"ねね"を探して、愛を捧げなくて。この身体は"ねね"ではなく、私のものです。"ねね"ではないんです。マオさんはもう……解放されて、いいんです」


(ああ、言ってしまった)


 目の奥に湧き上がってくる熱を知られたくなくて、顔を伏せ奥歯を噛みしめる。

 マオはなにも言わない。沈黙の中に、鳥の声だけが遠くに聞こえる。


 それでいい。どうか、このまま逃げてほしい。

 叶うなら微塵の優しさなど残さず、私を憎んで、恨んでほしい。

 これまで捧げてくれた優しさは全て、心の奥底に愛しい思い出として眠らせておくから。


「……ああ、そうだな」


「!」


 肯定する声に、思わず肩が跳ねる。と、


「茉優は"ねね"じゃない。だが、俺だって、前世のままの"マオ"じゃない」


「……え?」


 優しい声色に誘われるようにして顔を上げる。

 と、マオは優しい笑みを浮かべていた。


(どうして、そんな顔を――)


「茉優、先にひとつ確認しておきたいんだが」


「は、はい」


「茉優の"逃がしてあげたいのに、逃がしてあげられない"相手って、もしかして俺のことか?」


「! は……はい。その、"ねね"の魂を持っているからって、マオさんの想い人ではないのに、ずっと黙って甘えてしまっていたので……。本当に、申し訳なく」


「いや、違うんだ、茉優。謝るのは俺だ。それに……そうか、俺は俺に嫉妬してたってことか。情けないことこの上ないな」


「へ? マオさんがご自分に嫉妬……ですか?」


 わけがわからないと戸惑う私に、マオは「ああ」と両手で自身の顔を覆って、項垂れながら盛大なため息をひとつ。


「てっきり、茉優に想い人がいるのだと思った。そうか、俺だったか」


「!」


(あ、あれ? もしかして私、とんでもないことを言っちゃったんじゃ……!)


 今更気が付いて、顔に羞恥が上る。

 心なしか、マオの耳も赤く染まっているような。


「なあ、茉優。俺、うぬぼれてもいいんだよな? "逃したくない"って悩んでくれるくらいには、茉優は俺を好いてくれているんだって」


「そっ、れは……! ですが、私がいくらマオさんを好きになっても、そもそもマオさんが愛してらっしゃるのは"ねね"さんですし!」


「あーと、その点については、本当に悪かったと思っている」


 マオは居住まいを正して、


「俺は確かに"ねね"を愛している。いや、愛していた、だな。なぜならそれは、前世の俺の話なのだから」


「……前世の、話?」


「茉優がねねではないように、俺だって、ねねの愛してくれた"マオ"じゃない。記憶はあるが、それはしょせん記憶であって"俺"の話ではない。茉優になら、わかるだろ?」


「なら……それなら、どうして……っ」


「はじめはおそらく衝動だな。前世の記憶が幼い"俺"と同化して、あたかも自分の体験のように感じていたんだ。だが年月を重ねるにつれて、俺もやっとこさ気が付いたんだ。俺は、あの"マオ"じゃないってな」


 マオは昔を懐かしむようにして、窓の外を見遣る。


「時代も違けりゃ立場も違う。ましてや俺は人間ではなく、あやかしだ。途端に今度は、怖くなってきてな。会いたいというより、会わなければになっていた"ねね"と再会した時、あまりの違いに、拒絶されるんじゃないかって。なぜなら俺はマオだが"マオ"じゃない。"ねね"の愛したマオには、俺はなってやれなかったからな」


 だから、とマオは私に瞳を向けて言う。


「茉優に"ねね"の記憶がないと知って、落胆よりも安堵が勝った。"マオ"を知らないのなら、俺を見てもらえる。比べられて失望されることはないってな」


「…………」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。