幼馴染は赤いドラゴンとなって無双する
短編「悪役令嬢がバグを雪だるま式に発見してきます」の続きです。ページ上部に「幼馴染のゲーム」シリーズでまとめてますので、是非併せてご覧ください。
僕が作った悪役令嬢ゲームを幼馴染にプレイしてもらった後、僕らは付き合う事になった。
しかし、それから何の進展も無いので……僕は秘策を秘め、幼馴染にとあるゲームをプレイしてもらう事にした。
ゲームは僕が作った【ドラゴンシューティング】
ゲーム内の少女と少年が、ドラゴンに変化し、国を守るために魔王軍と対峙するゲームだ。
ゲームのオープニング映像が画面に映し出される。
◇
少年と共に、吊り目の少女が夜空を見上げる。
視線の先の月がその光を強め、その光に呼応する様に、少女の体は赤く、少年の体は青く輝く。
少女らの体躯は次第に大きくなる。
背には見事な羽、手には鋭い爪、肌は緋色と藍色の鱗に覆われる。
少女の姿は赤いドラゴンに、少年の姿は青いドラゴンに変わっていた。
◇
「うおーすごいすごい! 変身して空飛んでる~」
ここは相当な時間をかけて作った部分だ。モデルをイメージし、それに合わせてドット絵を起こしていく。
ゲーム内の少女と少年のモデルは幼馴染と僕だ。ドット絵に起こす為に、スマホに保存している幼馴染の写真を何度も見たもんだ。
隣でプレイしている姿を見ると、随分と見たせいか、少しのドキドキと妙な安心感を覚えてしまう。
「甘いあまーい! そんな攻撃で倒せると思うなよ~」
赤いドラゴンは、押し寄せる魔王軍の攻撃を、まるで見た事があるかの様に避け、敵の動きを予見したかの様に、自身のブレス攻撃を的確に当てていく。
その疾風迅雷の様な快進撃は見ていて惚れ惚れするほどだ。
マズイ。これでは肝心の青いドラゴンの出番がない。
というか、幼馴染よ、何故そんなにシューティング得意なの。あー、また吊り目が垂れ目になっちゃってるし。楽しくなると直ぐにフニャフニャの可愛い顔になっちゃうんだよな。
『グオオオオオオ!!』
赤いドラゴンのお陰で、あれよあれよと、ラスボスの魔王の所まで来てしまった。
しかしこの魔王、自信作である。画面を埋め尽くす弾幕攻撃を行い、画面内狭しと繰り広げる回転体当たり、そして、目がくらむ程の弩級砲を打つ。何より、装甲が堅く、通常ブレスが効かないのだ。
だが、この自信作魔王にも弱点がある。赤いドラゴンと青いドラゴンが手を繋ぎ、協力ブレスを打てば、堅い装甲を剥がせる。そう、この魔王を倒すにはその手を繋ぐ事が必要なのだ。
「よ、よし、流石に魔王を倒すには、き、協力しないとならないな」
やや上擦った声が出てしまったのを紛らわせながら、幼馴染を見るが、聞いている様子はない。画面の向こうの魔王に集中している様だ。いや、僕の話をだな……あの、青いドラゴンをですね……
「おーりゃおりゃおりゃおりゃー!」
『グ、グアアアア……』
そんな落胆を余所に、画面の中では、自信作魔王が、フニャフニャ顔の赤いドラゴン一人に、蹂躙されていたのだった……
◇
「ちょっとちょっとまてまて!」
「えーなによ、あと少しなのに」
「確かに、『俺の作ったドラゴンシューティングをやってくれ』と言ったけどさあ!」
「だから、やってんじゃないのよ」
私は幼馴染が作ったシューティングゲームをやっていた。因みに、以前悪役令嬢ゲームをやってから、幼馴染と付き合う事になったが進展はほぼない。
「何でそんなに上手いの」
「私シューティング得意なのよね~言ってなかったっけ?」
「敵の攻撃、避けすぎ」
「一目見りゃ、パターンが分かるし」
「何で魔王の装甲を破ってるのさ」
「あれ、弩級砲を打った後の口になら攻撃効くのよね~」
「いや、そこは青いドラゴンと協力ブレス打とうよ!協力ブレスするには、その、赤いドラゴンと……」
「あー、あれね」
私は、相変わらず情けない顔をしてる幼馴染を見つめ、溜息をつく。
「何かしたいなら、ハッキリと私にいいなさいよ。ゲーム使ってまどろっこしい事をしない」
「うう……」
青いドラゴンのはずが、赤いドラゴンの様な顔色をした幼馴染が、一呼吸置いて顔をあげる。
「て、手を繋ぎたい、です」
その青いドラゴンが今日初めて放った弱弱しいブレスは、私の装甲を一瞬で破り、顔をフニャフニャにさせてしまった。