ぱんつ
ひまつぶし
茹だるような夏の一日の終わり、
夜勤が終わって暫くぼーっとしながら、
オリオン座が沈んでいくのを眺めていた。
「…今日も疲れた」
ーーーーー
私は部栖田 独歩、ありふれた生活を送る女性の一人だ。
こんな苗字だし、男みたいな名前をしているからと
幼い頃から馬鹿にされて生きてきた。
…とても退屈だ。
今までも、きっとこれからも。
シャツにまで染み付いたアパートの古い木の香りが、朝食の咀嚼を阻む。
それにさえ嫌気が差して、私は食事の途中で携帯を取り出しゲームを始めた。
…すると画面の真ん中に、煙草の箱の半分ほどの大きさの、「転生してみませんか?」というテキストボックスが表示された。
よく見る広告と同じように、カウントダウンの数字が0になるのを待って、私はその"広告のようなもの"を閉じた。
ー しばらくして朝食を半分ほど食べて残してしまうと、後を追って退屈さが込み上げてくるのを感じた。
どうにもやることがなく、少し落ち着くとまたゲームをはじめた。
正午になる少し前のこと、
そろそろ昼食を…と考えゲームのタスクを落とそうとした。
すると再度、先程も目にしたあの"広告のようなもの"が表示された。
新作のゲームなのだろうか。
その"広告のようなもの"には、変わらず「転生してみませんか?」としか書かれておらず、背景も真っ白、キャラクターやどんなゲームなのかすら表示されていなかった。
2度も目にして、少し興味が湧いてしまった。
「見てみるだけ」
と、その画面をタップした。
私の意識はそこで途切れてしまった。
「…ようこそ、異世界へ」
ーーーーー
目が覚めると、真っ黒な空中に私の体が…
いや、五感だけが浮遊する…というか、そういった奇妙な"感覚の世界"にいた。
「ここはどこ」
ぽつりと呟くと、機械を通した、少し荒れたアナウンスのような声が脳に響いた。
『起きましたか、独歩様。ここは転生手続き所です。
この度は私たちの創設した世界、"ミクロア"にご参加いただき誠にありがとうございます。』
アナウンスが淡々とそう告げると、視界の真ん中に大きなウィンドウが表示された。
《転生手続き進行度:76%》
《情報:登録完了済》
《職業を選択してください:roll選択▼》
《入力してください:A -999〜999》
《入力してください:D -999〜999》
《入力してください:S -999〜999》
《入力してください:L -999〜999》
『独歩様』
「これは…?」
『おおまかなステータスを設定できる画面です。
余ったポイントはスキルに変換されます。
ステータスを設定してください。』
「そうじゃなくて、ここはどこで、私は何をしているの?」
VRゴーグルだって持っていないし、つけた覚えもない。
ただ"広告のようなもの"を見た後に意識が途切れた、というだけ。
それでいきなりこの状況、というのは少し呑み込めない。
『独歩様がプレイヤーとして参加されたのです。他の説明は規制されているため、現在はお答えすることができません。』
アナウンスは微塵も態度を変えず、無愛想に繰り返す。
『ステータスを設定してください。』
ーーーーー
これ以上質問しても無駄と思い、独歩はステータスの入力を始めた。
職業選択は
・剣士
・魔道士
・暗殺者
・回復術士
・農民
の5つが選べた。
魔法に少しワクワク感を覚えたため、直感で魔道士を選択。
画面の「入力してください」の後にある「A」、「D」、「S」、「L」がそれぞれ何を示しているのか
何度質問してもアナウンスは答えてくれなかった。
「ステータス」と言っていたので、「A」と「D」と「S」は恐らく「攻撃(ATK)」、「防御(DEF)」、「素早さ(SPD)」なのだろうと考えたが、「L」だけが何か分からなかった。
「…LUCKかな?」
魔道士を選択したため、"物理攻撃はしないだろう"と判断し、「A」は-999に設定した。
遠隔攻撃なら移動速度も関係ないかな、と「S」も-999に設定した。
タンクにもあまり惹かれなかったので、必然的に謎の「L」に999が振られた。
どうせ疲れて夢でも見てるんだろうから、これは賭けでいいやと、半ば投げやりに設定した。
「これでお願いします」
『承服致しました。記入率100%、転生を開始します。
独歩様、よい旅を。』
ーーーーー
「ねぇタニアスくん、今日転生手続きをしてた独歩って子さぁ、"蓄積不幸度"と"かなり特殊なステータス設定"だったから、余ったスキルポイントが凄いことになってると思うんだけど…どんな感じ?」
「あっ、本人に伝え忘れていました…すみません」
「独歩さんのスキルポイントは…」
「65800です」
続くかもしれないし続かないかもしれない