6、指定危険度Sランクエリア
指定危険度Sランクエリア。
それはこの大陸の中央に位置する【第二の奈落】という洞窟を中心とし、半径二十キロ以内の範囲のこと。
その範囲は危険度が高く、一般人は立ち入り禁止区域とされている。
そしてそこではオーガやリザードマンはおろか、滅竜や好宝竜のような指定Sランク魔物までもが棲息を確認されている。
危険な魔物が群生している理由は簡単。
洞窟から溢れ出る高濃度な魔力によって空気中の魔力濃度が上昇しているためだ。
また障気溢れる【第二の奈落】の最奥にはなんらかの宝があるとされている。
富か、力か。その宝を求めるが故に立ち入り禁止令を無視し、そして行方不明になる愚か者も年に何人かは居なくはない。
そして今、綾辻もそのうちの一人になりつつあった……
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「うわぁ。警備ガッチガチじゃん」
指定危険度Sランクエリア――これは長いからこれからはSエリアと呼ぼう。
ここには国境警備隊的な見張り台や詰所が外縁に沿って位置している。
それは目測で言うと大体一キロに一個ずつ。
俺はこの中心のある【第二の奈落】をマイホームにすることに決めた。
最初はダンジョンのボス部屋を改造するつもりだったんだが、ダンジョンのボスは三十分に一回リスポーンするんだな。
三十分に一回敵が出てくる家になんて住みたくない。
そんなの鍛錬中のSPじゃあるまいし。
別に俺はそうゆう趣味じゃないからな。
「でもそんな警備じゃダメだな。こんな推理小説のテンプレトリックでも通用するんだから」
そう言ってあらかじめ見つけておいた抜け穴へと潜る。
これは近くの森林に口を開けている洞窟だ。
Sエリア内へと続いているもので、全長は約200メートルほど。
この抜け穴を使えるようにするのは大変だった。
なんせ見つけた時は既に崩壊寸前。
いつ崩れてもおかしくない代物だった。
そのあとは寝る間を惜しんで固形魔力で穴の壁や屋根を補強し、さらに柱も追加で付けて。
少なくとも大地震でも起きない限り崩れないようにしてある。
さらに普通に立って歩ける広さ、高さ。完璧だ。
抜かりはない。
「よし、行くか」
そうして俺は地下道を歩き始めた。
暫く歩き続けると、ついに出口の光が見え初めてくる。
そして、自然と早足になり、遂には駆け足に。
そして出口の光が迫り、あと少し、あと少しまできて遂に穴から顔を出した瞬間。
「うおぉ…………」
と、声が溢れ出た。
そこにあったのは楽園だった。
鳥が飛び回り、花が咲き乱れる。
水は輝き、空気は澄んでいる。
人の手の入っていない、完全なる自然がそこにはあった。
「凄いな。とても指定Sエリアの水には見えない」
近くの泉の水を掬い上げながら言った。
そこは余りにも綺麗だった。
それこそまさにここが大陸屈指の危険地帯だと忘れさせてしまうほどに。
「美味い……って、ん?」
そして、手に掬った水を飲み干した時、体が柔らかい感じに包まれた気がした。
なんだ? まさか飲んじゃいけないやつだったとか?
そだな、ステータスを見てみるか。
うん……。
ステータスに異常は……。
ああ、そういえばこの前〈魔力障壁〉たるスキルを覚えたんだっけ。
スキル欄にそれが増えてる。
でも、それ以外になにも変わってないな。
分からん。
分からないなら、泉に、
「鑑定」
レッツ鑑定。
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名前:恵福の泉
ランク:B
備考:この泉の水を飲んだものの能力値を一時的に10%引き上げる。たまに精霊が訪れるとされ、訪れたものは幸運が訪れるという。
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やっぱこの泉の水の効果か。
恵福の泉……ねえ。
縁起の良い名前だな。
このまま上手い具合にここらを踏破できれば良いが……。
まあ、頑張ろう。
取り敢えずここの水を水筒に入れたら探索は再開だ。
まだまだ始まったばかりだからな。