第98話 MarkⅡ、魔改造?
もはや魔改造というレベルではありませんが……
さすがに、もうこれ以上要求は来ないだろうと神威の開発、設計グループはタカをくくっていたが考えが甘かったようだ。
大改造を加えた新機体を送って暫く後、今度はさらにとんでもないことを言ってきた。曰く『短時間で構わないから機体をジャンプさせることは出来ないか』と。
「そりゃあ無理でしょう。第一、ホバークラフトは地面効果を利用して浮き上がっているんです。地面から離れたらあれくらいの出力では浮き上がれない」
ホバークラフトに詳しい技術者が原理的に無理だと説明してくれた。ヘリコプターでも地面に近い高度(大体メインローターの半分以下の高さ)では、ダウンウォッシュ(下向きに流れる空流)が地面とローターの間で圧縮され、より少ない推力で浮上できる。但し地面と胴体下面の間で二次的な渦が発生しホバリングを不安定にすることがあるそうだ……この辺は垂直離着陸機でも起こる問題だ。そう、垂直離着陸。つまり現在研究開発中の新型鶚と関係する領域だ。
これは、やっておいて損はない話かもしれない……オレはミハイル氏にパンツァードラグーンでのジャンプ機能について研究したいと、ことわりを入れてから開発研究グループの反対を押し切ってゴーサインを出した。
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元々のパンツァードラグーンこと鉄機兵は自重が10トン程度だ。神威になって装甲材の重量が軽くなったためマシになったが、それでも8トン位ある。戦車と比べればずいぶん軽いが飛行機としてみるとかなり重い。Me262で最大離陸重量6トン強……つまりジェットエンジンでも双発は欲しい。新型鶚を双発ターボジェットエンジンとしたのはいいセンスだったといえる。ただ今回の場合はもっとエアフロ―を確保するためターボファンエンジンの方がよさそうだが。
「神威の装甲材料をすべて外して、エンジンを新型鶚のジェットエンジンにするとしたらどれくらいの重量になる?」
オレは神威の設計技術者に聞いた。
「それは、機体として成り立っている状態という事ですか?」
質問された意味を聞いてみると神威は機体構造を装甲材で支えているため、これがなくなると代わりの骨格のようなものが必要になるという事だった。つまりは外骨格で成り立っている甲虫から鳥のような内骨格になるということだ。そして鳥の骨格のようにスカスカでなるべく軽量の骨格で作ると考えることにした。これに最低限必要な外板を付ける。戦闘機のように高速で飛ぶわけではないのでジュラルミンの外板は必要ない。むしろソビエトの軍用機のように合板にするくらい思い切ってもいい……とはいえ地上戦闘兵器なので敵の機関銃くらいは防ぎたい。セラミック装甲材をもっと軽量にしたもの……基材を鋼鉄でなく合成繊維とした積層装甲を想定する事とした。また余計な研究が増えたかもしれない。でもこういうのは技術のすそ野を広げるのに必要なことだ。こういう研究もやっていくことが素材技術を骨太にしていくはずだと強引に考えることにする。
結果、自重3トン弱、燃料その他をいれても4トン程度で出来そうだという見積もりになった。もちろん基本設計からやり直しになるが……オレはなんとなく、インターネットに載っていた航技研のVTOL実験機が頭の中に思い浮かんだ。ここから実用まで持っていくのは道が長そうだ……それにしても、これはラプトルMarkⅡの予算では全然足りないなぁ。ルーシーに掛け合って研究費用をぶんどってこなくては。でもそうすると結果をイギリスに開示しなければならない……悩んだ挙句、華子さんに相談すると思ってもいなかった意見をもらった。
「日本の予算でやりましょう……日本はもっと国力を高めるべきなのです。今のままでは予算を増やせませんが東シベリアの資源開発を進めれば、かなり大きな国力増加ができるはずです。私は今、大陸を離れるわけにはいかないので時休殿が久永殿下へ話してください……私からも伝えておくので」
なんとオレが直接、久永殿下と話をしなければならなくなった……今まで、この手のことは華子さんが殿下と打ち合わせていたのだが、今回は華子さんは大陸にいるので代わりの人材がいない。というか華子さんがいい機会だから久永殿下と顔見知りになっておいてくださいと強力にプッシュしてきた。まあオレ達の仲間で日本にいるのはオレくらいなんだから、ちゃんと働かないとな。
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「はじめてお目にかかります。海軍技術少将、種子島時休と申します」
オレは内務省の次官室で北白川宮久永殿下に御目通りした。
「ああ、君のことは華子から聞いているよ。それでどんな要件だね」
「はい、日本の国力を増強させるための施策をお願いしたいと思います。具体的には東シベリアの地下資源の開発と国内の基幹産業、基礎研究の育成です」
現役で内閣秘書官として経済運営に携わっている専門家に、門外漢のオレが話す話ではないが、これは戦争のためにはぜひ必要なことだ。おれは昔会社でやったプレゼンを思い出しながら資料を作り(パワポなんてないので手書きだが)説明した。
「ほう。シベリアの金資源を資金にして、ダイヤモンド鉱山と石油資源の開発を行い、それを日本各地に作る精製基地と製鉄所により基幹産業を拡大させる。あわせて磁気計算機のソフトウェア産業や航空機・ロケット等の先端技術研究を強化すると」
「はい。これらの施策を早急に進めることが、今後五年先、十年先の日本の国力に大きな影響を及ぼし、日本の世界での生き残り戦略に重要なことになるはずです」
「『生き残り戦略』ですか。これは、そんな切羽詰まったもののようには思えませんが……むしろ輝く未来の為、あるいは列強の中で勝利、台頭していくための戦略なのでは?」
「殿下は、そんな楽観的見通しのようだが、史実を知っているオレはそんな楽観的になれない……むしろ、いかに超大国の暴虐を生き残ることができるか。この辺は追々伝えていければと思う」
とにかく、東シベリア開発を国の方針として早急に進め、これで得られる資金を基にして日本の国力増大のきっかけとする。これを政府として推し進めてもらうことをお願いした。




