第96話 胎動、MarkⅡ
タイトルを変えました。「戦士達」→「胎動、MarkⅡ」
ネイティブ・アメリカンの中で、最も戦闘的と呼ばれる部族はコマンチ族だともアパッチ族だとも言われている。アメリカの戦闘ヘリの名前がインディアン部族の名前を使うのは、ヘリ産業の拠点が居留地の近くだったという話もあるが、彼らの勇敢さ、攻撃力、神出鬼没な姿にインスパイアされているいう説もある。
ただ、どちらも非常に広い範囲に住む人々を指しており、それぞれが複雑な文化を持つ集合体である。例えばアパッチは大雑把に分けても6つの文化的違いを持つ部族の総称で、「アパッチ」は、フランス人探検家を案内したズニ族の言葉で「敵」を意味する。元々、北アメリカの南部大平原でバッファローを狩る平原部族だったが、コマンチ族が南下してきたため南西部に追いやられ、アリゾナやメキシコを移動する略奪民族になった。
彼らは使用する弓に特徴があり他部族に比類のない強靭な弓を使い戦闘力で圧倒していた。また乾燥した灼熱の岩山を好んで根城にし、その襲撃方法も山岳ゲリラと呼べるようなもので、戦士たちは厳しい訓練で鍛えられる伝統的な戦闘民族であり、テリトリーに入ってくる異民族を襲撃し略奪を繰り返す獰猛で熟練した戦士を多く持つ。ホビ族の集落を訪ねようとするルーシーたちを襲ったのも彼らのうちの一派だった。
当然のことながら彼らの周囲の部族も、これに対抗できる力を持ち得なければならない。平和の民と呼ばれるホピ族も例外ではなく対抗する戦士集団を持っていた。ルーシーたちを危機から救った槍の戦士もそういった一人であり、アーロンも別の役割を担う一人だった。彼の役割は馬を駆り、いろいろな場所でカチナと呼ばれる精霊の力を借りて敵の動きや天候の変化を知り、またそれを利用して敵を罠に陥れたりするもので、グルカ山岳旅団での当初の仕事は、これと似たようなものだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
先の第二次白金狼作戦で、ムルマンスクを押さえたラップランド軍ことフィンランド、ドイツ、イギリスの連合軍は、レンドリース物資のもう一つの輸送ルートである白海・バルト海運河の遮断を目指してさらに東進を続けていた。
ラプトルによる戦闘は効果を上げ、山岳部隊の鬼門だった敵猟兵団と共に活動していた哨戒戦車部隊を占領地から駆逐していった。一方で従来からの山岳部隊本来の活動が求められる戦闘車両の入れないような場所ではラプトルも行動できないため、戦闘部隊がふたつに別れてしまったような様相を呈し、新たな問題となった。
アーロン達、ラプトル部隊は機体を改良して山岳部隊本来の山岳不整地でも活動できるようにする提案を出したがイギリスで開発している兵器ではないため反応は遅く、逆にラプトル部隊をグルカ山岳旅団から分離して特別遊撃隊とする決定が下された。
「アーロン少佐。君には引き続きグルカ山岳旅団本体の大隊指揮官として残ってもらいたいのだが……」
「いえ、ラプトルの話は私が言い出した件ですし……それに私は大隊よりも現場指揮が性にあっています」
「わかった……では少佐、第1装甲遊撃隊を頼むぞ」
「はっ、ありがとうございます」
アーロンが連隊長の許を辞した後、副官が連隊長に尋ねた。
「よろしかったのですか? あの方は手元に置いておいて注意を注ぐとおっしゃっていたのでは」
「本国の意向は本人の意志に任せろだ。それに上層部には彼があまり我々に染まってしまうのを懸念している向きもあるしな」
ともあれ、彼は戦士として現場に残った。それは彼の中に流れるインディアン戦士の血の結果かもしれない……そして暫く後、彼の手許に追加の辞令が下った。
「新型機の試験パイロット?」
「そうだ。本国から君の要望を取り入れた機体の評価依頼が来ている。機体とエンジニアは後から送ってくるそうだが……受けるかね?」
「もちろんです、連隊長!」
こうして、MarkⅡと呼ばれる神威スペシャル版と彼が出会うことになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なんだ?! この電文は??」
日本の種子島のところに『外交極秘電』と書かれた書類が送られてきた……そこには以下のような内容が書かれていた。
『発:英国、ルクレチア・ロスチャイルド。宛:日本海軍、種子島時休少将。本文:新型ラプトル開発チームを至急ロンドンに送られたし(以下略)』
なんだよ『開発チームを送れ』って?! 毎度のことながら意味不明だ……しかたないので、オレはまた憑依でロンドンのロスチャイルド邸に向かった。
「クリスマスプレゼントは、もうあげたでしょう?」
オレは開口一番、そう文句を言ったがルーシーは気にする風もなく笑顔でこう返してきた。
「日本では、新年に『お年玉』というものをあげる習慣があるんでしょう?」
……こいつら、なんでそういうことに詳しいんだ。絶対、日本の文化について詳しく調べているだろう……ったく、嫌がらせの為なら努力を惜しまない奴らだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
詳しい話を聞いてみると、レンドリースで渡した鉄機兵を対戦車戦以外も使えるように機能強化したいという事で、それ自体は肯けることだがイギリスが自分で開発を始めたいという話は簡単にそうですかと受け入れられるものではない。
「(内容自体は機能制限版でなくオリジナル鉄機兵ならできそうなことだ……さすがに山岳踏破は難しいけれど。それも新型の神威ならプログラム次第という気はする。でもあれは新技術のオンパレードだからなあ……)」
そんなことを考えていると
「解決策は持っているようね……隠しても無駄よ」
と言われた……この人も相手の考えていることを読めるんだった。本当に交渉しづらい相手だ。
セラミック装甲は、ドイツやイギリスには開示しているから良いとしても、コンピューターや統合情報管理システムは秘密中の秘密だ。それから先の戦い方そのものを変えていく革新的兵器技術だ……だが、どうせ一度戦場で使われれば遅かれ早かれ知られてしまう。それならば基礎技術を共有してコントロール下に置きつつ、自分たちはさらにその先を進めるほうが良いか……
オレは日本に帰ってから関係者と話し合った後、イギリスの要望を受け入れることにした。但し、統合情報管理システムなどのソフトを外したモデルとしてだ。当然のことながら開発パートナーのブラウン・ボベリー社のミハイル氏にも話を通したところ『もっと積極的に戦場での利用データや搭乗者の意見も入手すべきだ』という話になった……さすが敏腕経営者。オレより広い視点で考えている。オレはその意見を取り入れイギリスに、こちらからのエンジニアの派遣とテストパイロットの役割をねじ込んだ……イギリスで開発するっていう話はうやむやにしてしまった気がするが(まあ、情報は共有するから許してもらおう)
新型機に、今度こそT-Rexという名前をつけようとしたら、イギリス軍の命名ルールでは「ラプトルMarkⅡ」だと言われた……MarkⅡなんて、いかにも敵に強奪されそうな名前は良くないと主張したが理解してもらえなかった(まさか未来のアニメを見せるわけにもいかないし)




