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第90話 対ソ戦、ザバイカル大戦車戦、その1

 ジューコフはチタの司令部で独り苦悩していた。

日本との戦いを立て直すために送り込まれた際、約束された補充兵力である8戦車師団、2狙撃師団、1空中襲撃旅団、1砲兵旅団、合わせて戦闘車両1600両、航空機1000機、兵員20万人余りの動員が完了するには、あと2カ月かかるという。

「どう見ても、間に合わんな……」

「閣下、どうされました?」

ふと口をついて出たジューコフの言葉にロコソフスキー少将が反応した……彼はジューコフと共に新たに編成された第16軍旗下の戦車師団を束ねる指揮官として赴任してきた男だ。彼はジューコフとフルンゼ軍事アカデミー時代の同期であり1937年のソビエト赤軍大粛清でジューコフの嘆願により救われて以来、常にジューコフ指揮下の実働部隊を率いて彼のために戦い続けてきた。

「……いや、何でもない」

そんな親しい相手に対しても心の中を開かず、すべて自分の考えのみで作戦を組み立て、部下には出来上がった作戦を計画通りに遂行することのみを求めるのがジューコフのやり方だった。


 彼の見立てでは日本軍はここ1、2週間……遅くとも10月までにはチタを攻略するための作戦を仕掛けてくるだろう。チタは堅固な要塞でもなければ死守しなければならない意味のある拠点でもない……むしろバイカル湖対岸のイルクーツクの方がよっぽど大都市であり重要拠点だ。この2週間で補充できる兵力では、今回の作戦を万全に進めるほどの戦力は揃えられない……輸送がシベリア鉄道だけに限られているのが問題だった。

 戦車を輸送すれば武器弾薬、兵員そして燃料の輸送が滞る。逆に兵や物資を優先させれば戦闘に必要な戦車が運べない……いっそのことチタでの戦闘は諦め、もっと西方のイルクーツク辺りで雌雄を決するのが無理のない作戦計画に考えられる。しかし人民国防委員(ヴォロシーロフ)がそれを認めないだろう。彼はスターリンの機嫌を損ねるのを何よりも警戒する……不足する戦力でチタを防衛しつつ最終的に勝利を手にするには、非情なやり方もとらざるを得ないのはいつものことだった。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「えっ、わざわざ鶚を改造しなくても襲撃機は既にあるって?」

「はい、九九式襲撃機という複座の機体が陸軍各隊に配備されています」

オレは華子さんと話した内容を実際の作戦に落とし込むために陸軍参謀本部を訪ね、石原総参謀長配下の若手と打ち合わせを行っていた。そして日本陸軍の既存の航空機の中に九九式襲撃機というものが既にあるのを教えられた。

「7.7ミリが翼内に2挺と後部銃座に1挺か……T34を相手にするには、ちょっと弱いんじゃないか?」

「代わり20キロ爆弾12発あるいは50キロ爆弾4発を搭載できます」

「……それにしても爆弾では百発百中という訳にはいかないだろう。低空から敵情を偵察したり、歩兵の航空支援戦闘が主要任務の機体か……やっぱり鶚Ⅲ型の方が対戦車戦向きだな」


 結局、オレ達はT34キラーとして鶚Ⅲ型。そして、それを敵戦闘機から守るためにドイツから戻ってきた震星を護衛戦闘機とした新航空団を編成し、占領したばかりのモンゴル首都ウランバートル近郊に追加戦力として配備しバイカル湖周辺のソビエト軍の増強に対抗するという案をまとめ上げ、これを手土産として山下第一軍の作戦方針の変更を行うべく石原総参謀長を大陸へと送り出すことになった……いや、本来は石原さんには話を通すだけで、大陸へは別の人を派遣するつもりだったんだけど、本人が『久しぶりに大陸の空気が吸いたい』と早々に手配を行ってしまったのだった……東京の陸軍本部はそんなに空気が悪いんだろうか?


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「同志諸君! 我々は今、卑劣な日本帝国の手からシベリアの大地を取り戻すべく、新たな作戦を開始するに至った。この作戦の為、ソビエト総司令部は新たに強力な軍隊と物資、兵員を用意してくれた……もやは我々の新戦力の前には日本軍など形骸に過ぎない……必ずや勝利を手にして、祖国と同志スターリンを讃えようではないか!」


 ジューコフは司令部に指揮官達を集め作戦を伝えるために演説を行った。それによれば日本軍は既にチタ南東の200km以遠に兵力を集結させて攻撃準備を進めつつある……ソビエト軍はこれに対しチタ前面に塹壕陣地を築き、歩兵および砲兵大隊による守備隊を配置すると共に、主力戦車師団を西方に集め、敵戦車部隊をそちらに誘い出す作戦をとるという。そしてチタ西方郊外に広がる丘陵地帯で戦車同士の決戦に持ち込み、ソビエトの強力な戦車で敵戦車を叩き潰し決定的な勝利を得るというものだった。


 しかし実際のところは、数が揃わない戦車師団の代わりに歩兵および砲兵部隊を主力防衛戦力として、これらの戦力をすり減らしながら補充が到着するのを待つという算段だ。一方で自力で移動できる航空戦力についてはバイカル湖周辺の各空軍基地に分散配備して補給や整備の負担を軽減し、戦闘時には各基地から出撃させて共同で作戦を行うことにした……それでも補充された第11独立空中襲撃旅団は新鋭のYak1戦闘機およびiI2襲撃機を備えており、緒戦での不利を支えるためにすり減らした第14航空軍の代わりに、敵を痛撃するとっておきの戦力となるはずだ。

 一方、戦車師団は大半がイルクーツクか、急いでも手前のウラン・ウデまでが輸送するのが精一杯といった状態であり、戦車については作戦面で工夫を加えて何とかするしかないのが現状だった。結果、戦車師団はウラン・ウデから自力走行で戦場に向かうこととした。もしこれで敵戦車部隊をチタの主戦場から誘い出すことができれば、チタ防衛部隊が壊滅する前に兵力を整えることができる……これは賭けのような戦いだが勝つためには、これを成功させなければならない。そのための犠牲は折り込み済みで作戦を立てる……最終的に勝利できるなら、それくらい普通のことだ。こうしてジューコフの作戦計画によりザバイカル大戦車戦が火蓋を切って落とされることになった。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


一方こちらは日本軍、山下第一軍の前線司令部。

「敵主力の戦車師団はチタ西方に集結し、我々がチタに進んだところを左翼から突く算段のようです。またチタ前面には急造の塹壕陣地が多数つくられ、これを支援するための砲兵部隊が後方に配置されているようです」

「チタをエサにして進軍してきた我々を横合いから叩くつもりか……山下司令、ここは断然西側の戦車師団を叩くべきでしょう」

「しかし戦車兵力なしには、チタ前面の防衛線の突破は短期間には無理です。少なくとも半数の戦車はチタ攻撃に回してもらわないと」

「そんなことをすれば敵の思うツボだ! ただでさえ有力な敵戦車部隊の前で戦力分散の愚は冒せない」

参謀達の喧々諤々の議論を前に、山下は不敵な笑みを浮かべながら断を下した。

「我々は全軍を持って敵、チタ本部を攻撃する。西方の敵戦車部隊にはモンゴルから本間第三軍ならびに新設された航空部隊が対応することになった」


 石原総参謀長の内地からの土産である海軍の哨戒戦闘機「鶚」を改造した鶚Ⅲ型80機、そしてドイツへの貸与から戻ってきた震星40機の計120機からなるウランバートル特別航空隊だった。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「敵は、チタに向かって戦車師団を含めて攻撃を仕掛ける模様。すでにウラン・ウデの味方戦車師団はチタに向けて移動を開始しました」

ソビエト軍チタ司令部に、敵情とウラン・ウデの味方戦車部隊の動向が報告される。


 地響きと共に多量の戦車群と自動車化歩兵部隊の移動が開始された。ウラン・ウデからチタに至る道は一部に森林地帯があるながらも、幹線道を通れば多量の兵員が移動するのに不自由はない。しかしそれでも山下第一軍とまみえるまでには、しばらく時間を必要とした。


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― 新着の感想 ―
[一言]  なるほど主人公は九九式襲撃機の両翼下にホ三のガンポッドを搭載するようなハイローミックスのローはやらないのですねぇ  翼内機銃のホ103への換装も行えばかなり有効なはずですけど……  高性能…
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