第85話 耐寒仕様鉄機兵Ⅱ「神威」
オレが日本に戻ってきて、まず始めたのは新・鉄機兵のためのコンピュータシステムの基本設計だ……これは残念ながら誰かに投げて任せることができない。すべてをわかっているのはオレだからだ。
機体制御の為のコンピューター、火器管制用のコンピューター、そして周辺情報や友軍からの情報統合管理……最低でも3台のコンピューターを搭載したい。これでも戦車が5人で作業分担して動かしているのに比べたらまだ少ない。まあ、装填手とか機械で自動化した感じか。
基本的な移動に関しては今まで通りタービンエンジンによるホバーまたはスキー仕様時の駆動帯で行い、腕・脚・機体の姿勢制御はモーターによるものになる。各部の84個所にも及ぶ関節の動きを制御させる他、特定の動作は前もって用意しておく……例えば脚で歩く動き、方向転換をスムーズに行うための機体の動き、噴進弾を撃つための動作等々。こう考えると大変そうだが、要は128ポートにも満たない数のI/Oにタイミングを合わせてデータを書き込む処理だ……センサー系はごく僅かだし、大丈夫!(ソフト開発の大変さを思って挫折しないように、自分で自分を奮い立たせているという話もあるが)
火器管制も基本的には状況を整理して補正値を計算するのがメインだ……これも、そこまで大変ではない。特に鉄機兵の場合、兵装が限られているしね。
一番大変なのは、周辺情報を統合して操縦者にわかりやすく提示したり情報を共有するシステムだが、これは幸いCIC用プログラムの改良で何とかなると思う……これらをソフト開発するチームに伝えて、詳細設計を行い開発プロジェクトを進めてもらう。もうさすがにソフト専任の開発部隊が必要だよな……大学の計算機プログラムを経験した卒業生をかき集めて開発会社を立ち上げないと。
ようやくソフトの基本設計をまとめて担当に引き渡した頃、スイスからミハイルさんが新・鉄機兵用の各部材と共に来日し、制御方法について打ち合わせを行う。さすがに、ここまでくると共同開発と守秘義務契約が必要になる。というか日本軍としてはブラウン・ボベリー社に日本企業との合弁企業を立ち上げ(相手は当然ながら川崎航空機)そこを契約相手にする意向だ……これはブラウン・ボベリーにのんでもらうしかないだろう、その代わりにコンピュータに関する知識を教えるということで。
「ほう、各関節にあわせたアクチュエータがちゃんとできていますね」
「ええ、パンツァードラグーンの動きは全て実現できるだけのものは用意しました」
「各部の制御量としては256段階あれば問題ないですね?」
「十分です」
オレはミハイルさんと話を詰めていく……ミハイルさんは社長業があるのでずっと日本にいるわけにはいかないが彼の片腕としてパンツァードラグーンの開発を行っていたエンジニアを完成まで日本の合弁会社に張り付けてくれるそうだ。
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並行して、九州の森村ファインセラミックスを訪ねて、新鉄機兵用の装甲材料の制作をお願いする。
「この仕様で装甲材料を用意すればよいわけですね?」
「はい、お願いします。これがうまくいけば装甲材料専業の会社を立ち上げられると思います。戦車の装甲材の方は遅れることになってしまいましたが、代わりにこちらの方をどんどん発注しますので」
「はい、我々もこの新素材を良いものにしていきたいと考えていますから何かあったらすぐに教えてください」
ファインセラミックスは素材を圧縮し焼結するので、まずパーツに合わせて型を作らなければいけない。さらにこのハイブリッドセラミックスでは基材となるモリブデン鋼にセラミックス粒子を付着させながら成長させるプロセスが必要になる。さらにこの装甲を機体に組み付けるやり方をいろいろ試したいので、とにかく試作品が早く欲しい……無理を言って済まないと思うが完成が早まれば、より多くの前線兵士の命を(以下省略)だ。
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こうして、ようやく試作一号機が形を見せる頃、機体名が与えられた。その名は「神威」……うーん、厨二病? まあでも、雪男とか鉄機改とかよりいいか。神威岬って北海道だし何となく、この機体の特徴である寒冷地仕様なところにもマッチしている気がする。
他にも寒冷地用のオプションを作らなければならない……これを使って占領したシベリアで冬季の間、警備・戦闘できるようにする計画だ。問題は冬までに完成するかどうかだけど……まあ最悪、現行の鉄機兵にスキーオプションと余熱装置を用意すれば代わりになるのではないかと考えている。
ちなみに『神威』という名前は、海軍の給油艦……これから改造されて水上機母艦になる船にも同名のものがあるけど、使われるところは違うので大丈夫だろう。
……ということで、新しい鉄機兵の名前は『神威』となりました。なんかもう厨二病全開ですが(笑)




