第8話 新兵器「パンツァー・ドラグーン」
いつものようにスイス、ブラウン・ボベリー社を訪ね、タービンエンジンの調査を行ってホテルに帰ろうとすると、技術担当重役のミハイル氏に呼び止められた。おりいって相談したいことがあるという。それなら調査中でも気軽に話しかけてくれればいいのにと言うと『少し難しい話なので』と言われ、いつもの最上階の役員室ではなく別棟の地下施設にまで連れてこられた。ここはたしか昔タービンエンジンが研究段階だったときに来たことがある建物の地下だ。何度もセキュリティゲートを通らなければならないし秘密管理が厳重なのがひしひしと伝わってくる。
「まずは、これをご覧ください」
そう言って彼は壁のスイッチを押した。薄暗いコンクリートの打ちっぱなしの部屋の中、スポットライトのように、前方に照明が当てられた。
「これは……」
オレは、なかなか次の言葉が出なかった。予想外のものがそこにあったからだ。
小型の蒸気機関車のヘッドのような鉄の塊にキャタピラが付けられ、上には短い砲塔のような形になっている……縦型の戦車か? でも普通の戦車よりは小さいな……ガンタンク(?)の小型版といったところか。
「わが社の開発した警備用装甲車 RT 7というものなのですが……」
彼の説明によると、ブラウン・ボベリー社は新たに開発したタービンエンジンを使用した製品を開発しようと考え、時節がら軍事関係が売りやすいと考えて、試作された物とのことだった。最初は今やっているビジネスの鉄道関係で、機関車にタービンエンジンをつけ小型砲を搭載した装甲機関車を作ったのだが、それではありふれているし、線路のある場所しか使えない。
ということで、次に無限軌道を付けてどこにでも移動できるようにしてみた。が、これもいろいろな国で作っている軽戦車の出来の悪いものでしかなかった。他には無い物をと考え、戦車よりも小型の一人乗り装甲警備車両にしてみたのだが、はたして需要があるのか見当もつかない……そこで普段からよく会社に来ている専門家のオレに意見を聞こうとしたらしい。
「うーん、いろいろお聞きしたい点がありますが、まず重さはどれくらいですか?」
「稼働状態で4.5tくらいです」
それは、ずいぶん軽いんじゃあないだろうか。普通は軽戦車でも10tはあるだろう。
「ずいぶん軽いですね。装甲の厚さはどれくらいですか?」
「前方が25ミリ、他は10ミリです」
25ミリか、まあこの時代ならいい方か……機関銃弾なら、はね返してくれるだろう。
「移動速度と、稼働時間は?」
「時速40キロで、6時間ほど動かすことができます」
「(これもまあ、軽戦車と同じくらいか)なるほど……」
オレはしばらく考えてから意見を述べた。
「ユニークなので、欲しいと考える民間企業はあるかもしれません。ですが軍隊では必要とはされないでしょう」
「……やはり、そうですか。そう考えた理由をお聞きしても?」
彼はあまり落胆した様子もなく、そう言ってきた。
「例えば、これを軍隊で買ったとして、どんな状況で使えるとお考えですか?」
オレはちょっと意地悪く、逆に質問を投げてみた。
「そこなのです。我々はそういった面では全く経験がないので、どのような使い方があるか思い浮かばないのです。そのあたりを貴方に伺いたいのですが」
彼は屈託のない笑顔でそう聞いてきたが、ダメだろう、それは……用途を思いつかないものを作ったって売れるものになるはずがない! オレはそうツッコミを入れたかったが、ぎりぎり我慢して、なんとか前向きに評価できる部分を挙げてみた。
「機関銃弾は防ぐことができるので、歩兵同士の戦闘では役に立つかもしれません。ただ、いくら裕福な国の軍隊でもすべての歩兵にこれを用意するのは無理だと思いますし、機動性も戦車と同じくらいなので、より強力な砲を持つ相手が出てくる戦場では使えませんね」
……いかん。評価できる点をあげようとしたのに、やっぱり使えないという結論になってしまった。
ミハイル氏は、しばらく何か考えているようだったが、やおらオレに言ってきた。
「……ミスター種子島、ぜひ貴方にお願いがあるのです。我が社の技術アドバイザーになって、この新製品プロジェクトを救っていただけませんか」
オレは一瞬耳を疑った。外国の軍人をリクルートするって、スイスの会社では普通なのか? いや、この会社ではOKでも、日本としては絶対、認められないだろう。ちゃんと国同士の共同研究にするなら、まだしも……
「いや、私は帝国軍人ですので、外国の会社のために働くわけには行きません」
オレはそう、はっきりと断った。が、ミハイル氏はなおも食い下がってきて、
「そこを何とか! 今まで、我が社は貴方にずいぶん便宜を図ってきたのです。今度は貴方が我々を助けて下さってもよいではないですか!」
うっ、それを言われると辛い。確かに今までずいぶん無理を聞いてもらったのだから、できれば少しはお返しをしたい……何かいい考えはないかな。
しばらく考えた後、アドバイスを言うくらいなら問題ないだろうと考え、ぽつりぽつりと意見を伝えた。
「まず、相手の砲火を防ぐ手段が必要です……かといって、装甲を厚くしたら戦車になってしまいますから、何か別の方法で」
そこまで言ったところで、オレはふと思い付いた……この時代の砲なら、照準を合される前に移動できれば、そうそう当たらないんじゃないかな。時速40キロくらいじゃあ予測射撃で当てられてしまうかもしれないけれど、100キロくらい出せれば、さすがに大砲で当てるのは難しいだろう。
「速度を今の倍以上、できれば100キロくらい出せるようにできれば、相手を翻弄して戦えるので、新しい兵器として存在意義を認められるかもしれませんね」
しかし、ミハイル氏はすぐに技術的観点から難色を示した。
「倍以上ですか。しかし、キャタピラではなかなか、そこまで高速化するのは……」
これって、あれだ! ガン○ムのドムみたいにホバーで走ればいいんじゃないか? タービンエンジンなら大量の空気を噴射するのは、お手のものじゃないか! オレの頭の中には戦場をホバー走行で走り回る機動兵器の姿が、ありありと浮かんでいた。
「私によい考えが浮かびました。必要な情報を集めてきますので少々お待ちいただけないでしょうか?」
ミハイル氏はオレがアドバイザーに就任することを受け入れたものと考えて喜んだ。
「Oh! それでは我が社の技術アドバイザーとして活動していただけるのですね」
いや、それはダメだって。でも頭に浮かんだ『ホバー走行する機動兵器』は何としても見てみたい。やっぱ男のロマンだし……考えあぐねた挙げ句、オレは言い訳をひねり出す。
「……私は世間話をするだけです。あなた方が私の話から新製品の改良のアイデアを見つけたとしても、それは私の感知するところではありません。そういうことでやりましょう」
実際、共同研究を始めるなんて話になったら時間が足りない。それでなくても日本のために考えることが山ほどあるのに……そう思いながらも、オレは機動戦士もどきを作れるワクワク感に気持ちを高揚させ、積極的に改良を手助けしようと考えた。
◇ ◇ ◇
「まず第一に、移動速度の改善ですが、ホバークラフトの原理を使用します」
「ホバー、クラフトですか?」
「20年ほど前にオーストリア・ハンガリー帝国軍で実際、作られたのですが当時はエンジンの出力が足りずに成功しませんでした。が……このタービンエンジンなら十分、実現可能だと私は考えます。実際、ソビエトでは同じような空気浮上艇が開発されていて最高速度130km/hを出せるとか」
「ほう、それは素晴らしい。早速、ソビエトから情報を手に入れて……」
「いや、彼らから情報を入手するのは難しいでしょう。同様な基礎研究をしている国を知っていますので、そちらにコンタクトしてみて下さい」
「ありがとう、ミスター種子島。とても有り難い情報です!」
「また装甲ですが最高25ミリでは、やはり心許ないので昔の重騎兵の胸甲部のように曲面にして避弾経始とし、少しでも防御性能を高めましょう。それと鎧を現代的に大型強化し、搭乗員の力を機械で補助して敵防御壁なども容易に破壊できるようなれば非常に有効だと思います……戦場を高速で駆け回り、強力な膂力で遮蔽物を破壊できる存在! これなら今までにない、戦場の常識を覆す新兵器になりますよ」
オレは饒舌に新兵器のアピールポイントを捲したてる。ミハイル氏もオレの情熱的な話しぶりに感激したのか、
「素晴らしいです。貴方からこれほど熱心にアドバイスが頂けるとは正直、考えていませんでした」
「なに、まだまだ序の口です。帝国軍人を侮らないでいただきたい! もっと続きがありますが、聞いていただけますか?」
「も、もちろんです」
ミハイル氏もオレの勢いにタジタジだが、オレはそんなことは気にしない。
「次に、兵装ですがこのサイズで砲塔を搭載するのは重量的にデメリットが大きいので、対歩兵用の軽機関銃のみを装備し、それ以外は外装可能とするのが良いかと」
「外装可能というと?」
「持ち運び兵器として対戦車ライフルを用意するということです。本来、対戦車ライフルは大きすぎて歩兵が扱うのは大変なのですが、この兵器ならば機械補助された腕が存在しますので、全く負担にならず軽快に使用することができるはずです」
次から次へアイデアを伝えるオレに困惑しながらも、ミハイル氏が努力を惜しまず対応してくれた結果、非常に短期間にすべての機能を盛り込んだ改良型が出来上がった(もう元の部分は、ほとんど残っていないけど)
◇ ◇ ◇
「ミスター種子島、ついに我々の新型兵器が完成しました。我々はこれをパンツアー・ドラグーンと名付けようと思います」
ミハイル氏は感極まった様子で改良機をオレに紹介してくれた。
「おお、『パンツアー・ドラグーン』ですが。すごくかっこいいですね。命名の由来を聞いてもいいですか?」
オレもそんなミハイル氏に負けないくらい思い入れを持って命名の由来を聞く。
「はい、ぜひとも。ヨーロッパでは、鎧を着た重装騎兵のことを『竜騎兵』と呼びます。今回の新兵器は騎兵よりもさらに高速で動くことができ戦車と同じ装甲を備えているため、さらに『戦車』の名を組み合わせました」
「これで最高速度120キロの機動歩兵装備の完成というわけですね」
「ええ、ですが新兵器は実戦投入してみないと対外的な評価は得られないので」
オレは少しばかり茶目っ気を持って、ミハイル氏には秘密にしていたプランを話した。
「確かに、仰る通りです……」
困惑しながらもミハイル氏はオレの意見に同意してくれた。これならOKだろう。オレはこれを日本軍の戦場で使ってみたいことを伝える。
「私は、この新兵器のためのとっておきの試験場所を用意してみました」
「ほう……それは何処です?」
「まだ明かせません。が、お任せください。必ずよい結果をご覧にいれられると約束します。最終調整済みの機体を一個小隊、指定の場所に送っていただけますか」
「……わかりました。私は貴方を信じます、ミスター種子島。どうかよろしくお願いします」
こうして、思わないところで、もうひとつの懸案の解決方法が出来上がった。
◇ ◇ ◇
「……というわけで、この新兵器を使ってD作戦を行いたいのです。陸軍にうまく紹介して、今回の作戦に使えるよう持っていっていただけませんか?」
オレは華子さんに、この新兵器を投入する作戦の準備をお願いした。
「了解いたしましたわ。D作戦というのは西安事件対策ですね。新兵器の操作習得には普通の兵では時間が掛かるでしょうから、今回は赤狐殿と地狐殿にお願いすることにしましょうか」
「そんなことも出来るんですか。では、それでお願いします。他にも作戦支援とかを考えないといけないでしょうが……原案ができたらお伝えします」
「了解しました。作戦計画の調整は後で指揮官と共に行いましょう」
「はい。よろしくおねがいします」
こうして日本にいる華子さんとの連絡を終了した……これで、西安事件で蒋介石の抗日が決定的になってしまうのがなんとかできそうだ。少し中国戦線対策に光がさしてきた気がする。




