第79話 オペレーション・メテオ、その3
日本からの到着した40機を加え、オペレーション・メテオはハリコフ戦車工場のみならずソビエト西方の軍需拠点を次々と爆撃し続け、華々しい成果を上げた。
ヒトラー総統はこの成功を激賞し、震星爆撃部隊のパイロット8名に鉄十字勲章を、そしてオレには騎士鉄十字章が送られることになった。なんだか遣欧艦隊の小沢司令には手柄を横取りしたようで申し訳ない気がするが、新兵器技術協定の方をちゃんと纏めることで埋め合わせしようと心に誓い、謹んで受けることにした。
「彼がアグリガット計画のドルンベルガー大佐だ」
表彰式の場でゲーリング元帥が得意満面の顔で紹介してくれた。話によると震星爆撃隊の活躍およびドイツ版震星ことHe362、愛称:ジェット・ミーティアの開発を進めることで、彼はいよいよ国家元帥になるのではと、もっぱらの噂だ……ちなみに、機体の生産はハンスさんのいるハインケル社で行われることになった。知り合いが関わってくれるようで少し嬉しい。
「はじめまして、ロケット兵器に興味をお持ちとか。総統から貴官に協力するよう申し付けられております」
ドイツの典型的おっさん管理職といった風貌のドルンベルガー大佐が挨拶をしてきた。彼自身も固体ロケットやジャイロスコープなどの開発者でもあるが、狙っている液体燃料ロケットは彼の下で働いているフォン・ブラウン博士が進めている。
「よろしくおねがいします。そちらで働いているフォン・ブラウン博士はお元気ですか? 今度ぜひ、お会いしたいものです」
オレがそう返すと、
「フォン・ブラウン少佐をご存知ですか……彼にはいろいろ苦労させられています」
と少し疲れたような顔で言った。
へぇ、フォン・ブラウン博士って軍属だったんだ……そういえば、彼が兵器開発をさぼって月ロケット計画を進めているとしてゲシュタポに国家反逆罪で捕まって、釈放させるのにヒトラー総統まで動かさざるを得なかったというのを聞いた気がする。
「苦労されているんですね。まあ、そういう人物も上手く使ってこそ、新兵器開発も成功するものですし……」
と慰めになっているのか、なってないのかよくわからない言葉でフォローしながら連絡先を交換し、数日後にはペーネミュンデ陸軍兵器実験場を見学させてもらえることになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
巨大なロケット発射施設と、それに付随する機体組み立て工場や燃料生産施設……日本にいる糸川っちが見たら、きっとプロジェクトの実施規模の違いにびっくりするにちがいない。
「ロケットに興味をお持ちの日本人とはあなたですか?」
発射設備を見て回っていたら、後ろから声をかけられた。
「はい、日本海軍の種子島です。あなたは……フォン・ブラウン博士ですか?」
オレは資料写真で見た厳しいドイツ人という風貌の人物に挨拶した。
「ジェットエンジンや戦車の開発に手腕を発揮されていると伺っています。ぜひロケット開発についても力添えをお願いしたいものです」
博士はそう言って握手を求めてきた。
「こちらこそ。将来の宇宙ロケット開発につながる協力関係ができたらと思っています」
オレは若干のリップサービスは、博士の心にうまく響いたようだ。
「素晴らしい! ぜひ共に宇宙ロケットを作りましょう」
「もう少し見学させてもらっていいですか? 日本に帰ったら糸川英夫という研究者に説明してやりたいので。彼も頑張って研究しているのですが、日本はまだ固体ロケットレベルでしてね」
オレがそう言うと
「ええ、どうぞ! 私が説明を致しましょう。その方も今度ドイツに連れてきて下さい……ぜひ会って話をしたいところです」
もう、下にも置かんばかりにサービスしてくれる。
「……A4は機体強度の関係で発射からずっと垂直飛行をするそうですね。もっと強度を上げることは考えないのですか?」
オレは少し込み入ったことを質問する。ミサイルの弾道的に考えればずっと垂直上昇するのは遠回りに思える……ちなみにA4とは後にV2と呼ばれるロケットだ。
「機体強度を上げるというのは余計な重量を増やすという事なのです。ただでさえ全重量の80%が燃料で占められているのに……大気圏を脱出してしまえば強度が低いのは何の問題にもなりませんから、これが合理的なベストの解なのです」
ブラウン博士はオレの基本的な質問にも丁寧に答えてくれる……つまりは、これはミサイルではなく、宇宙ロケットとして作っているという事だ。
「あちらは……引っ越しでもしているのですか?」
オレは向こう側で設備が片付けられ梱包されている所を見て尋ねる。
「ええ、生産施設を別の場所に移すとかで……この忙しいときに」
彼はそれ以上は話さなかったが、オレは入手した情報にあったミッテルバウの地下工場への移動だと気づいた。まだ爆撃される状況になったわけでもないのに、何故なんだろうかと疑問を感じながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして翌週はドイツを離れ、イギリスとの技術協力の協議に参加した……オレだけではイギリスの参加者に対して頭数が足りないので、遣欧艦隊と在欧武官からも参加者を搔き集めて。
「ドイツにライセンス供与したジェット爆撃機やセラミックス装甲技術、それにソビエト潜水艦隊を抑え込んでいる優れた哨戒技術について、ぜひともイギリスにも技術供与願いたい……見返りとしては蒸気カタバルト技術および、シンガポール、コロンボ、アデン等々における哨戒基地用地の提供でよろしいのですか?」
「ええ、もちろんこれに限らず随時必要な技術協力関係を持てる枠組みを作っていくことも含まれます」
オレ達は事前に用意された合意を確認し公式協議を終了した。そしてその後、人数を絞った秘密協議になる……そこには当然のような顔をしてルーシーさんが座っていた。
「あれ、ルーシーさんは軍事技術協議に参加するような人でしたっけ?」
オレの質問に、憮然とした顔で名刺を投げてきた……名刺は相手に向けて両手を添えて手渡しすることって、マナー研修で教えられなかったんだろうか? と考えたがそんなのを言うのは現代日本の新入社員研修くらいかと思い直し、気にするのをやめた。
「……英国政府キャビネット・オブザーバー。そんな肩書を持ってたんですか」
驚きながら聞くと
「最近、押し付けられたのよ……ったく。労規違反で訴えてやろうかしら」
……とても他人事と思えず同情の念を禁じえなかったが、まあ、それを言うのは憚られるのであえて無視して先に進む。
「先ほどの公式協議では触れませんでしたが、他にも情報を開示して頂きたい案件があります……具体的にはチューブ・アロイズ計画の状況についてです」
オレはそう言いながら、イギリス側の参加者の顔を一人一人チェックしていった。まったく理解できていない者、単純に驚いている者、そして顔を強張らせながら必死で表情に出さないようにしている者……そして最後にルーシーさんを見た。誤魔化そうとしても無駄ですよという意思を込めて。




