第76話 Ⅴ号戦車「パンター」開発計画
早速、翌週からドイツ兵器局第6課のVK3002開発計画、別名『特別戦車委員会』という、ハインツ・グーデリアンやヒトラー総統がいる会議に一緒に参加させられた。
現在出ている計画案ではダイムラーベンツ社とMAN社の2つがあり、ベンツはT34の影響を大きく受けてディーゼルエンジンを採用し新規設計の砲塔を採用したもの。対するMAN社は従来のドイツ戦車的デザインで、砲塔も既存のラインメタル-ボルジッヒでエンジンもマイバッハV12ガソリンエンジンだった。
総統はポルシェ案がお気に召した様子だったが、その後の調査で砲塔の新規開発が間に合わないことが明確になり、MAN社の設計案で進められることになった。
「さて、ヘル(ミスター)種子島。この車両も日本及びイギリスで生産し、生産量を増やしたいと考えますが、何かご意見はありますか?」
後でヘンな因縁をつけられないためにだろうか、オレに対してこんな意見を求めてきたのは……でも、求められたからには答えておこう。
「ソビエト軍の新型戦車に対抗できる素晴らしい性能をもつものであると思います……ただ」
「ただ?」
ピクリと反応して、こっちを見つめる進行役を無視して、オレは話をする。
「もともと35トンの設計だったのに装甲を強化した結果、全重量が45トンになりエンジンおよびミッションに余裕がないように見受けられます……これでは敵にやられるより、故障で失われる数が多くなってしまうのでは、と危惧しますが」
もちろん、これはオレが考えたのではなく未来知識で手に入れた、パンター戦車の弱点だ。
今回の仕様をまとめた上級将官たちの居並ぶ一角が、互いを見ながら何やら話し合っている……そして前列中央にいたルントシュテット将軍が口を開き
「貴公の指摘も、もっともだが……戦車というものは実際、戦場に出してみなければ判断できないことも多い。戦火をくぐって何度も改良を加えることにより完成させていくものなのだよ……戦車というものは」
日本人に戦車開発の仕方を教えてやるといった様子で諭すように発言した。
「なるほど……そういったものですが。ですが改善できる方法があるなら先に試してみてもいいのではと考えますが?」
オレはあえて空気を読まず、自分の考えを主張する発言を続けていく。
また、お互いの顔を見合わせるドイツ士官たち……そして、先ほど発言した将軍に視線が集まる。
「……それほど言うなら、何か腹案をお持ちということですかな? よければ、お話願いたいが」
さっきよりは少し丁寧に、しかし受け入れたのではなく試験官が説明を求めている様子で……オレは勝負をかけるものを出す前に一度、総統を見た後、足元のカバンからその塊を取り出す。
「こちらは日本で新しく開発した装甲材料です。今までのものより耐熱性、硬度に優れ重量を半分程度にすることが可能です……基本素材はセラミックスですが構造が工夫され、弱点だった耐破砕特性が大幅に向上しています」
そしてコトリと、そのサンプルの試料を机の上に置いた。
「必要なら実砲による被貫通試験が行える大きさの試料もお渡ししましょう……装甲のすべてをこれで構成するわけではありませんが、強化重点個所に使うことにより防御力を損なわないまま、全重量を元のレベルまで戻すことが可能だと考えます」
……伏せていた視線を戻し、向かい側の将官たち、そして総統の顔を見る。
突然の話に当惑し、どう答えるか決めかねている将官たちを尻目に、総統は楽し気な視線でオレをとらえながら両手の指を机の前で組んで、こう言った。
「すばらしい。ぜびその試料を用意してくれたまえ……グーデリアン君、きみが責任をもってテストし結果を報告しろ」
……一見、上手くいったようだが知っている。まだその仕草は話相手を警戒している時のものですよね、総統閣下。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
グーデリアンからの指示を受けた技術部は、日本で開発したセラミックス装甲材を試験した結果、実用に耐えるとの結論を出した。しかし特別戦車委員会の将官たちは、その採用に難色を示し結局、日本およびイギリスが望むなら、それを使用したモデルを作ることを認めるが、ドイツ分は元のままの仕様で進めることになった。
「勝ちきれなかったな……もっと日本の力を認めさせないと、この先は難しそうだ……どうすっかな」
オレは軍庁舎脇の空き地で遠くを見ながら考えに耽っていた。
「少し質問していいですか、種子島将軍?」
「種子島将軍って……」
オレは苦笑しながら振り向くとスーツ姿の軍人らしくない男が立っていた。
「あなたは?」
「アルベルト・シューペアと申します……軍需相の仕事をやっています。あなたの提案された新装甲材の生産性について伺いたいのですが?」
男はそう言うと右手を差し出してきた。オレはその手をとって握手しながら
「時休でいいですよ。ヘル・アルベルト……あなたは確か、建築家だったのでは?」
オレは昔、テンちゃんに教えられた記憶でそう言うと
「では、私のこともシューペアで……はい、元々建築家なのですが、人材不足で生産計画の方も見ることになってしまって」
そう言いながら笑顔を返してきた。
それから、ひとしきりセラミックス装甲の生産性について説明した。
オレは、基本的に工程が二段階になるという不利さはあるが、日本ではセラミックス生産の技術が進んだため鋼鉄装甲より効率的であることを伝えると満足し、日本のセラミックス生産技術をドイツも導入したいと言ってきた。
うん、それはいい話だ……後で技術協力を協議する際、加えておきましょうということで同意してもらった。




