第71話 海外派遣軍要請と遣欧艦隊
場所は変わってロンドンのイギリス首相官邸。フィンランド首相、リスト・リュティは、その個人的人脈を駆使してソビエトとの戦争をできる限り優位に行えるよう極秘交渉に各国を飛び回っていた。中でもイギリスは、先の冬戦争でドイツに上手く立ち回られ派遣部隊を送る機会を逸した無念さを晴らすためか、それとも本土防衛のために用意していた防空部隊がドイツとの関係改善して余裕ができたためか、ハリケーンMk.Ⅰ戦闘機によるRAF防衛派遣隊、ハリケーンMk.Ⅱ戦闘爆撃機によるRAF戦術爆撃派遣隊合計8航空隊、さらには英連邦軍からグルカ山岳旅団まで送られることになった。
そしてグルカ山岳旅団には、あのアメリカから連れ帰ったロストファミリの末裔、ホビ族のアロ改め、アーロン・ハミルトンが見習士官として参加していた。彼をイギリスにつれてきたルーシーはその話を聞いたとき『海外の戦場に送り込むよりさせることは他にあるはず』と抗議しようとしたが、義父から『イギリス王室男子は、すべからく軍務に服した経験が必要だと王室からの要望があった』ことを教えられた。つまり、彼は王族または、それに準ずる扱いを受けるということらしい……これからハードな人生が待っていそうな彼の将来に思わず黙祷してしまうルーシーだった。
一方、ドイツではヒトラー総統の判断により20万もの陸上軍がフィンランドに送り込まれることになった。もちろんこの軍はドイツ参謀本部の指揮下にありフィンランド国軍にとっては諸手を挙げて歓迎できるものではなかったのだが、目の前の敵に対抗するためにはそうも言っていられなかった。そして、日本にもドイツおよびイギリスからフィンランドへの支援が要請され、軍事参議院で検討が行われた。
「……支援しようにも北欧では、出来ることは限られますな」
陸軍の意見を代表して畑陸軍大臣が言う。何より陸軍は此方側でソビエトと戦うことを想定しているので余計な戦力は割けない。一方、及川海軍大臣は日ソ戦では、海軍が力を振るえる場面が限られているため遣欧軍に積極的で
「先のスペイン内戦を、各国では新戦力を試す機会として利用し、多くの戦訓を得たとされている……我が国も今回を契機として欧州の新しい兵器の調査や新戦力の実戦評価を行う事ができれば、将来に利すること大と考える」
と発言した。
最終的に主力となる戦力は温存し、ドイツおよびイギリスと程よい範囲で情報交流を行うという事になり、海軍を中心とした遣欧艦隊を派遣することになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「(どうすっかなぁ……)」
例によって連合艦隊、山本司令長官に呼び出され、遣欧艦隊の新兵器についての意見を求められた。
「基本的には、ジェットエンジン機および対潜哨戒機関係は公開してもいいでしょう。既にイギリスやドイツでも研究が進んでいますし……誘導噴進弾は匿秘したいですが、噴進弾の周辺技術……化学技術、燃料弾薬材料、制御技術などは手に入れて大型噴進弾を開発する一助としたいところです」
オレはV2ロケットなど頭に浮かべて話す。
結局、海軍からは小沢治三郎中将を司令官として、史実より早く航空戦艦に改装されていた日向(オレがゴリ押しで航空兵装化実験を押し進めた……どうせ三番、四番砲塔は爆発を起したりして怪しいし、グズグズすると今度は五番砲塔まで爆発事故を起してしまうことになっているから早く撤去して改造してしまった方が正解だ)を旗艦に重巡2隻、駆逐艦4隻、そしてシーレーン防衛計画の予行準備という意味で潜水母艦及び海大型、巡潜型潜水艦も含めた構成で呉鎮守府からバルト海を目指して出発することになった。まだ季節は冬だけど、ヨーロッパに着く頃には暖かくなって戦いが開始されているだろうという予測だ。
史実の航空戦艦、日向は航空機22機搭載可能だったが、そのうち13機は飛行甲板に露天繋止することになっていた。しかし今回は三番、四番砲塔も潰して飛行甲板を延長したこともあり全機格納庫に収容できる。まあ今回の搭載機の大半を占める鶚が、畳めば二式飛行艇内にも格納できるほど小さいというもの大きな理由だが……ということで搭載機は20機の鶚、2機の零式水偵、そして発着艦できず運んでいくだけの震星8機ということになった。
できれば震星も発艦くらいはできるようにしたかったな……震星は爆装すると6.5tで日向の一式二号11型射出機では無理がある……空虚重量なら可能な範囲だが、それでも火薬式は加速が急なので機体や操縦者にも無理がかかる……やっぱ蒸気式カタパルトを最初に作ったイギリスに技術導入を持ちかけてみるべきかな。
それともう一つ、航空戦艦化された日向は史実でも十二糎二八連装噴進砲を6門装備していたが、今回も四五糎連装噴進砲を4門積んでいる……えっ、史実より退化してるって? 史実のは撃ったら後は何も出来ないこけおどしのロケット弾だが、我々のものはちゃんと電波誘導できる噴進弾だ。これを集中管制するCICも艦内に新設されている(しかしこの時点の四五糎奮進砲は撤去した主砲の打撃力より数段劣るもので、後の六○糎長距離奮進砲でようやく主砲に比べうるものとなるのだが)……個々の性能はまだまだだがミサイル駆逐艦ならぬミサイル航空戦艦という時代の先をゆくものになっている。まあ今回は隠蔽して使うつもりはないが。
「種子島部長殿も遣欧艦隊に同行して、イギリスやドイツの新技術を入手する交渉を行ってもらいたい」
出発間際、遣欧艦隊からそんな要望を出されて思わず固まってしまう……そりゃ確かにオレの役職は、その為のようなものなところはあるけど往復で一年以上拘束されるのは堪らない。
「私は残務を片付けて必要なら航空機で追いかけますので、お先に出発していて下さい」
とりあえず、そう言って逃げておいたが……こりゃ、後でヨーロッパに行くことになるかもしれない。




