第69話 試作戦闘攻撃機「震星」
艦上戦闘機として零戦がクローズアップされる裏で、もうひとつの機体が開発を進められていた。「ネ30」ジェットエンジンをターボファン化しての燃料効率を引き上げた「ネ50」を採用した試作ジェット戦闘攻撃機「震星」である。
ターボファン化すると当然のことだが外径が大きくなる。コンプレッサーを通らない空気流が外周に流れるようになるからだ。推進力は、両者を足した総噴射量によるが、燃料が必要なのは内側のコンプレッサーを通って燃焼した分だけなので推進力に対する燃料の使用量を少なくすることができる。
もちろん設計は鶴野っちこと鶴野正敬大尉だが(大学院は卒業して、そのまま空技廠に入った)色々な設計を学ぶためドイツのヘンシェル社からフランツポール氏も招聘して監修に参加してもらっている。
ジェットエンジンの信頼性も向上し双発でないと心許ない状態では無くなったので、「ネ50」を利用した機体は単発の大出力エンジンのもの……元の震電のデザインを生かした機体にする。しかしジェット化により、震電の欠点であったプロペラの大きなカウンタートルクが発生してしまうこともなく、六翅のための長い足も必要ない。一方で機体の両脇のエンジン冷却用の吸気口ではジェットエンジンには小さすぎるためエアインテークは、もっと大きく張り出している。
ジェットエンジンによる高速での安定性のため主翼の後退角を大きくしたが、低速での揚力不足を起こさないように主翼の根元の後縁を広くとり三角翼に近い主翼形状となっている。また重戦タイプでドッグファイトなどの軽快な機動はあまり求められないため断面形状も震電のような曲線を主体としたものではなく直線を主体とした単純な形となっているのも相まって全体的に震電よりSF的な戦闘機の雰囲気が漂ったものになった。
テストパイロットは、魁の時と同じ人に担当してもらったが、操縦した感覚は同じエンテ型でも、まったく違うらしい。魁は見た目より機動性のよい軽々とした機体だったが、こちらは大馬力でかっ飛んでいく感じで、まさに重戦といったものだそうだ。さすがにエンジンは改良された結果、スピードの加減速はしやすくなったが、旋回能力はからっきしの横滑りするだけで曲がらない直線番長だそうだ。
機体重量は魁より600kgも重くなったのに速度は900km/hが可能で航続距離もおよそ3000kmと航続距離が長く、零戦と比べても遜色ない(速度が倍近いので時間にすると零戦より短いが)。さらに機体下部内に1000kg爆弾が搭載可能な爆弾倉を持ち、翼下にも3器づつハードポイントを持つ。対空戦装備ではここに対空誘導弾を積み出撃するが、対地攻撃では爆弾を装備し長駆、敵陣を侵攻して戦略地点を爆撃する戦闘攻撃機的用途も考えられている。機首には震電のように機関砲を4門装備するのが基本だが、爆弾倉に57mm砲をつけて戦車を上空から破壊するのを主任務とする地上要撃特化機も計画されている。名称は元になった機体が震電なのと、本機が戦闘攻撃機ということで星関係の名前にして「震星」と名付けられた。
震電はB29迎撃のための機体だったが、震星は目前に考えられている対ソ戦の地上戦車攻撃、および敵生産工場の破壊要撃を念頭に置いている。ドイツのスツーカ的な使い方だが、あちらは低速で敵戦闘機に狙われると弱いが、こちらは高速性を活かして容易に逃げることができるはずだ……もちろんスツーカのように急降下爆撃はできないが。
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「既に、政府首脳の間では三国同盟に関する合意がなされ御前会議にかけられた。ドイツ、イギリスとの最終的確認の後、三国同時に同盟への参加の表明と調印式の日程が発表されるだろう……そして極秘協定に沿って対ソ戦が開始される」
首相官邸の執務室で宇垣首相と書記官の久永殿下が打ち合わせを行っている。
「陛下は、此度の戦について『本当に避けうべからざる』ものなのか『天の前にやましき点がない』ものなのかを問われておられた……」
久永殿下は言葉を発することなく宇垣首相の言葉を聞き続けていた。
「軍人としては『勝つために』やるべきことを行うのに躊躇いはないが、それが御心にかなったものであるかを問われると判断が厳しいものだな」
迷いの心を吐露する宇垣に対し、久永はようやく言葉を返す。
「心中お察しします……ですが、それ故に日々天下に心を配り世の行く末を見通さんと心を砕くのが任された者の務めと信じます。此度の選択は行くべき正しい道と考えます」
華子や、それに係るものの考えには寄らず久永が見ている行くべき未来。その為に切り開くべき道を求めることについて久永は誰よりも貪欲であると思う……それが見えざる”いと”に引かれるようにひとつとなっていくことは、まだはっきりとはわかっていないが。
1941年12月、史実で真珠湾攻撃が行われた頃、この世界では日独英三国同盟締結が公式に発表され、ドイツの対ソ開戦が秘密裏に進行を開始した。




