第67話 「日独英、三国同盟」
ベルリンで会社を経営しながらゲッベルスやハイドリヒ(ハクちゃん入れ替わり済み)のサポートをしている霧島 梓さんことテンちゃんの所に、ルーシーさんから連絡があった。
『至急、協議したき案件あり。連絡乞う』
「用事があるなら、そっちから来なさいよ!」
テンちゃんは文句を言いつつもオレたちに伝えてくれ、例によってオレ@ハクちゃんに憑依と華子さん@テンちゃんに憑依でロンドンのロスチャイルド家を訪れる。
「あんたたちって、ほんと便利よねぇ。今度、それのやり方を教えてもらえないかしら?」
開口一番、ルーシーさんはそう言った。少し前に仕事でアメリカを横断するような旅をして大変な目にあったようだ
「神通力が使える存在がいなければムリだし、ワタシたちはタクシーじゃないんだから、あなたを乗せたりしないわよ!」
あっさりテンちゃんに却下されて本題に入る。
「例のドイツとの友好条約の件はどうなってるの? エンスラポイド作戦の後、何も連絡がないんだけど」
ルーシーさんに、そう言われて気まずく顔を見合わせるオレたち。そう言えば忙しさにかまけて何も連絡していなかったな。
「えーと、ハイドリヒの代わりに、私達のエージェントがうまくナチス組織に入り込んだわ……そっちも現地の組織から情報くらい得ているんでしょう?」
テンちゃんがうまく言い繕う。ちなみに入り込んだエージェントとはシロちゃんのことだ。
「もちろん、チェコ国内のレジスタンス狩りが無くなったのは確認しているわ。それよりドイツとイギリスの友好条約を結ぶ案件の進捗を知りたいの。まさか全然進展していないなんてことはないでしょうね」
「と、当然でしょう。ハイドリヒはちゃんとヒトラーの秘書の立場を確保したし、ゲッベルスも外交でポイントをあげて信頼を高めているわ。総統に提案するまで、あと一歩ってとこよ……」
テンちゃんがさらに言い訳っぽく説明をする……提案まであと一歩だなんて聞いたことなかったけど。
「なら、早く不戦条約なり同盟なり、交渉に入りましょう。今なら日本も含めて三国同盟でもいいわよ」
「……怪しい。あなた何か隠してない?」
華子さんがそんなふうに言い出した。たしかに前回までは同盟を結ぶのを渋っていたのはルーシーさんなのに、いったいどうした風の吹き回しだ?
「……ちょっと、政府関係からプッシュされただけよ。で、可能なの? どうなの?」
「まあ、実際は提案してみないと、総統が何て言うか分からないけど……」
じゃあ、すぐに提案してとせっつくルーシーさん……そんな簡単にできるわけねぇだろとツッコみたくなる。
「まずは担当者同士の基本合意の形成が必要でしょう。そして細々とした付帯条件を確認して、最終合意の後に調印……間にいろいろ根回しも必要でしょうし」
華子さんがざっとした流れを教えてくれる。最近、華子さんは霊能力者というより、政府や軍組織の動かし方などでとても有能だ。多分、婚約者の久永殿下の役に立つため、いろいろ頑張った結果だろうけどすごく頼りになるなぁ。
「では、イギリスのハリファックス外相とドイツのゲッベルス外相、日本の松岡外相で相互に交渉を行い、並行して国内の意見をまとめて調整を進めましょう……今更ですが、ドイツと日本は同盟締結に賛成ということでよろしいですか?」
ルーシーさんが、まるでイギリス代表のように話をまとめにかかる……まあ、さっき話にあったように、政府から推進させるように決定があったからだろうけれど。
華子さんとオレ、あとテンちゃんとも問題ないのを確認し、ルーシーさんに答えた。テンちゃんはナチス幹部を影から操り、華子さんが日本の中枢へのコンタクトを行う……考えてみるとすごい状況だな。オレ? オレはまあ、オブザーバー的な……すみません、ふたりに比べて権力掌握がイマイチだ(涙)。もっと頑張らねば。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
テンちゃん@女神様からゲッベルス外相に、イギリスとの同盟を進める件を話してもらい、総統へ提案してもらう。
「ほう、イギリスから同盟の要請が……」
外相から、そう聞かされた総統はニンマリとしながらも、その背後関係を探ろうとしていた。イギリスはフランスとの協調路線を見限ったということか? それとも対共産主義派が強力になりソビエトとの対決を鮮明にしたのか……
「それで、ゲッベルス君。ジョンブルは何か条件を付けてこなかったかね?」
ヒトラーは交渉慣れしたイギリスが、単に相手に利益だけを渡すことなどないだろうと承知していた。
「はい。対ユダヤ政策の緩和と国際連盟への復帰を……国際連盟については特に急いでないようですが」
彼は、総統の細かく情報を確認する姿に、隠しごとを見破られるのではないかと、怯えながらもそう答えた。女神から教えてもらった情報がまだひとつ残っていることを心の拠り所にして、彼は少なくとも外面的には平静を装うことに成功していた。
「うむ……ユダヤ人政策をひとまず棚上げするのは良しとしよう。実際、今はドイツの対外的評価を上げるために一旦止めているからな。しかし、これをうまく利用してドイツの戦略的勝利に結びつけるためには……」
総統は、なおも考えを巡らせている……
「もう一つ別件なのですが、極東の日本からの提案がありまして……ドイツの軍事技術の提供と引き換えに戦闘車両の委託生産関係を持ちかけられています。私はこれをイギリスとの間でも、行うことが可能なのではないかと考えているのですが」
ゲッベルスの思わぬ提案を、ヒトラーは興味深そうに聞いた。彼の上手い点は、前の話と関連性を持たせず、自分がふたつの件を組み合わせたように伝えたことだった……もし彼が、これらが最初からリンクされているように伝えていたら、勘の良い総統に裏を探られたかもしれないからだ。
「それは、どういうことだ?」
「我が国の現在急ぐべき問題のひとつは、戦車を増産し機甲師団戦力を早急に立て直すことですが、日本では政府が工業生産力を高める投資を積極的に行っています。そして我が国のⅣ号戦車の生産技術を供与する見返りに、生産した車両を渡すという協定を結びたいと申し出が来ています……彼らは資源を輸入するために大量の輸送船をヨーロッパにも送り込んでいますが、空荷で来るのではなく生産した戦車をドイツに運んでくることで輸送の効率化を図りたいと言っています」
「つまり、日本との間にも軍事同盟を結び、技術と生産の関係を築き、同じことをイギリスとも行えば、我がドイツの戦車生産量を大幅に引き上げることができると言うことかね、ゲッベルス君」
「ご明察のとおりです、総統閣下」
ヒトラーはなかなか良い考えだと思いながら、さらにプラスを増やせないかと考え続ける。この機会にソビエトを叩くとどうなるか……もしやフランスがこれに乗じて西側からドイツに攻撃を仕掛けてくるか。いや奴らはマジノ線から這い出ることはないだろう……それができるならポーランドの時、黙って見ていたはずがない。それにイギリスとの同盟があれば対策は十分だ。
問題はソビエトとの間には前回、苦杯を舐めさせられたポーランドがあることだが……むしろ、これは盾の代わりに使えるかもしれん。我々は正面からでなく北のフィンランドあるいはポーランド回廊から、バルト三国とレニングラードを陥とし、そのままモスクワへ歩みを進める。これは上手いやり方だ……
「よし、キミはイギリス及び日本との同盟を早期に構築するのを進めてくれ。そして我が機甲師団を可能な限り増強し、絶対的優位な戦力で電撃作戦を展開し東方生存圏を獲得するものとする」
こうして、『日・独・伊』ならぬ『日・独・英三国同盟』締結に向けた話が秘密裏に進められていくことになった。




