第65話 イギリスの願いと白いインディアン、その5
白い肌の女性は、男の子を手招きして前に来させると、
「この子は少し引っ込み思案で……素直な良い子なのですけど」
そう言って挨拶をさせた。彼女の子供としては少し歳が離れすぎているように感じるが、文句なしに愛しているのはよく分かる。
性格なのかもしれないが、ルーシーは彼女に対して単刀直入に切り出した。
「……単刀直入に伺います。あなたはイギリスから来た清教徒始祖移民の子孫で間違いないですか?」
それに対して彼女は、少し困惑しながらも、その質問がされたことには何故かそれほど驚いた様子もなく答えてくれた。
「なにしろ、もうずいぶん前の話ですから、細かい話はよく分かりません……」
それはそうだ。メイフラワー号の移民から既に300年以上経っている……世代で考えても10代は前だ。そんな事を考えていると女性が言葉をつなげた。
「ただ大御爺様から、ハミルトンという名前を聞いたことがあります」
「ハミルトン……ハミルトン公爵家でしょうか?」
ジョーンズが勢い込んで口を出してきた……ハミルトンという名だけでハミルトン公爵家に繋げるのは余りに強引だが、もし本当にそうなら当時のイングランド王、ジェームス1世と非常に近い関係になる。しかし、彼女は今度こそ本当に困惑して、
「さあ、そこまでは分かりません……」
と答えた。
けれどジョーンズの追撃は止まない。
「それでは、あなたの家に代々伝わる石板あるいは古文書など……文字の書かれたものはありませんか?」
彼の『新発見を目の前にした考古学者根性むき出し』といった様子に、ルーシーは『そう、がっつくなよ!』と迷惑そうな顔をしていた。
「そんなものは無いっ!」
女性が何やら思案顔しているところに、今まで何も話さなかった少年が急に大声で総答え、そのまま家から飛び出していってしまった。
残された女性。ジョーンズとルーシーそしてワタリは互いに顔を見合わせ、しばらく言葉を発する言葉もなかった……ようやく彼女が口を開き、
「あの子は今まで、石板のことでいろいろ言われて育ったので……申し訳ありませんが、先に長老様と話して頂けませんか? その方が良いと思います」
そう言って、深々と頭を下げた。
三人はそれ以上、何も言えずその家を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そうですか……ポワカがそう言ったのですか」
三人は、族長に挨拶と女性とのやり取りを伝えると、村の長老を紹介してもらった。陽はすでに、とっぷりと暮れ、食事も終わって、込み入った話を聞くには良い時間であった。
「我々ホピ族には古くから言い伝えがあります」
そう言って長老は語り始めた。三人は黙ってそれを聞く。
「この世界の始まりに、トクペラという無限世界があった。そこには無限者タイオワだけが住んでおった……タイオワは有限者ソツクナングを生み、彼を甥として世界に生命を生みだすよう命じた。ソツクナングは、9つの宇宙を創造し2つを自分とタイオワの住居にして残りを人間や他の生命の住居に定めた……」
それからホピ族に伝わる世界創成譚が語られ、四つの世界とそれぞれの破滅の話が続いた……すなわち『火の浄め』による最初の世界の滅亡。『厚い氷によるふたつ目の世界の絶滅』。そして3つ目の世界は『大洪水』により消え去り、最後に残った世界で、ホピ族が守護者マサウウから予言の石板を授けられるという話だった。
「やがて白い兄パハナは石板のかけらを持ち、遥か遠く日出ずる方向へと旅立つ。そして世界が終わりに近づいた時、大いなる知恵と力を身につけ石板のかけらと共に、再びホピ族に合流するのじゃ」
「ホピ族は、その時まで聖なる番人として聖地を守り抜く使命が与えられているのじゃ」
そこまで話すと長老は語るのを止めた。
「石板を持つ家の白い兄が東に向かって旅立つことのなるか……なかなか一致度の高い話だ。我々が来たことを言い伝えに絡めて少年がテンパるのも無理はない」
ジョーンズは静かに感想を言った。
「いや、白い兄はその子ではない。あの家にはもう一人、長兄がいる……白い肌の男だ」
長老のところまで我々を案内し、一緒に話を聞いていた男がそう教えてくれた……ますます言い伝えとの一致度が上がったというわけだ。
「ときに、あなた方は鍵十字とクロスのシンボルを持つもの、あるいは太陽を象徴するものではありませんかな?」
長老がそんなことを聞いてきた。
三人は互いを見つめて、
「いえ、たぶん違うと思いますが……それはどういったことでしょう?」
とルーシーが返した……冷静を装っているが何か思う事があるのは見て取れる。
長老は、白い兄が帰ってくるときの予言が2つあり、ひとつは『鍵十字とクロスのシンボルを持つもの、太陽のシンボルを持つものの二人をつれて、浄めの日をもたらす』というもの。もうひとつは『三人が使命をうまく果たせなかったときは、西から現れるものが大嵐のように、途方もない数で冷酷非情にこの国を蟻のように覆い尽くす』というものだというのを話してくれた。
「これは……」
珍しいことにルーシーが自分の口を手で押さえて目を見開いたまま固まっている。
「……おい、どうした?」
ジョーンズはルーシーの動揺した様子に驚きながら、しかし新しい伝説に関わる秘密を知ることができそうだという期待を秘めてそう聞いてみた。
「……いや、もう夜も遅い。今夜はこれくらいで御暇することにしよう」
そう言って、ルーシーは無理やり二人を連れて、長老の家を辞した。




