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第62話 イギリスの願いと白いインディアン、その2

 馬で旅を始めて最初の夜。当然ながら夜は野宿となる……道から少し外れた草地で、馬を休ませ焚き火を起こす。持ってきた食料は美味しいと言えるものではなかったが、一日中動かし続けた身体には味など二の次だった。


 食事の後、泥のようなコーヒーを飲みながら、これからについて話す。もうしばらく進むと谷底の川を越えてインディアンたちの聖地に入る。めざすのはその先にある小さなインディアンたちの集落。そこに彼らは佳客している……清教徒植民始祖ビルグリムファーザーズから分かれ、先住民の集落を辿り西部まで移り住んだ西洋人の家族(ロストファミリー)だ。


「彼らは、他の移民たちとは違う目的でアメリカに来た。私はそれを調べることができなかったが、あなた達(ロスチャイルド)はそれをご存知ですよね?」

ジョーンズ教授は目線を正してふたりを見つめ、言葉を続けた。


「教えて頂きたい。『神の意志』とは何か? そして彼らが新大陸に渡ってきた目的を」

いきなり核心をついてきたジョーンズ教授に対して、ルーシーは

「大学教授なら『自分で調べて正解にたどり着くべき』とは考えないの?」

と、言い返す……しかし出来ればはぐらかしたいという意図が見え見えだったのか、ジョーンズ教授は誤魔化されず

「無駄なプライドで情報を手に入れるのを逃すようでは考古学では大成できません。もちろん手に入れた情報は自分でちゃんと検証しますけど」

と答え、さあ話して下さいと言わんばかりに身を乗り出してきた。


「教授はキリスト教については、どの程度知識をお持ち?」

仕方ない何処から話そうか、という感じでルーシーはジョーンズ教授に聞いた。

「……並みの考古学者程度には」

嘘だ。ジョーンズ教授は聖櫃(アーク)や聖杯の秘密に迫れるほどの知識を持っている。しかしそれを話し相手に自慢するほど愚かではなかった……そうならルーシーは簡単に話をはぐらかせただろうが。


「……契約宗教たるキリスト教に、ユダヤ教のモーセの石板の如きものが無いのは何故だと考えますか?」

いきなり面食らう質問だ……そういうことは考古学者よりキリスト教学者か教会にでも聞いてほしい。

「さあ? 古い契約には必要でも、新しい契約には必要ないということでは?」

考えもせず、ありがちな答えでお茶を濁そうとするジョーンズ教授に対して、落第が突きつけられる。

「ほう……ジョーンズ教授は『契約書を改める。ついてはこれからは書面は無しで』と言われて納得すると?」

ルーシーの言葉に、教授はすぐにギブアップした。

「……私の負けです。たしかに契約を記したものがないというのは奇妙ですね」


「聖ヘレナのエルサレム巡礼でもたらされた聖遺物は?」

今度は考古学者にふさわしい質問だ……あまりに簡単だということを除けば。

「聖十字架、聖釘、聖槍ですか。もっともそれらの真偽は諸説ありますが……」


「他には?」

少し間をおいてルーシーは問いかける。口頭試問で『付け足す答えはないのか』と確認する先生のようだ。

「……彼女が他の聖遺物を手に入れたという話は聞いたことがないですが?」

ジョーンズ教授は真面目にそう答えた。この分野に詳しい彼でも、それ以上の情報は持ち合わせてないようだ。


「教授は苦労して見つけ出した考古学上の発見を簡単に他人に譲ってしまう性質(タチ)ですか?」

「そんなバカな?!」

ついつい反射的にそう答えたが、それこそが先生が求めていた回答だったようだ。

「イギリス王の娘たる彼女は、最も大事なものを隠して持ち帰るため、ローマには他の聖遺物を渡して目眩ましに使った……そうは考えませんか?」


「……それは?」

緊張し問い返すジョーンズ。しかしルーシー(せんせい)は生徒の学習意欲を掻き立てたことに満足し『答えは自分で見つけなさい』とばかりにはぐらかした。

「明日も早いのでしょう? 今日はこれくらいで休みましょう」


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 明け方、一番気の緩む頃を狙って、その襲撃者はあらわれた。

「ひゃほう!」

奇声と共に振り下ろされた手斧を、転げるように避けたジョーンズは、続く攻撃を足ではねのけ、先程までいた枕元の拳銃を掴もうと身をひるがえす。


 しかし相手も、拳銃の危険性をよく知っているのか、それを取らせまいと伸ばされた手の先に手斧を打ち込んでくる!

「くそっ!」

危うく手を引っ込めて一撃をかわしたが、反動で拳銃は遙か先に飛ばされてしまった。丸腰のジョーンズに、相手は好機とばかりに笑みを浮かべながら追撃体勢に入る。


 そこへ、ビュッ!と矢が打ち込まれる。思わず追撃の手が止まる相手に対して、今度はワタリが手斧で反撃を繰り出した。相手の方が若いのにワタリは、的確に相手の一歩先に攻撃を加えて機転を制する。襲撃者は自分に利のないのを悟ると現れたときと同じように、唐突に風のように去っていった。


「大丈夫でしたか、ジョーンズ教授」

ワタリが気遣うようにそう言う。少し遅れて矢を放ったルーシーも来た。

「助けてもらってありがとう。 ふたりとも服だけでなく武器も使いこなすほどインディアンを研究されているとは、脱帽しました」

ジョーンズ教授が礼を述べると、

「まあ、これくらい嗜みのうちよ」

とルーシーが自慢げに返した。


「あの者は、明らかにジョーンズ教授だけを狙っていました。何か理由があるのかもしれません」

ワタリは冷静に状況を見ていたようだ。

「とにかく先を急ごう。また仕掛けられてはたまらない」

そう言って、三人はすぐに荷物をまとめて朝食もそこそこに、その場を後にした。



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― 新着の感想 ―
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