第59話 対潜哨戒機と空中母艦「天海」
ウラジオストク艦隊が、思ったより潜水艦が多いので、これに対抗するため以前から考えていた対潜兵器の準備を進めることにした。基本は前から開発を進めている誘導魚雷だが、対潜哨戒機も用意したい。
オレは対潜哨戒機というとP-3Cなどをイメージしていたが、実はこの時代、海軍は十七試哨戒機こと東海を作ることになっていた……これから三年後のことだけど。H-6電探または三式一号潜水艦磁気探知機KMXを搭載し、機首をガラス張りにして目視による捜索が行いやすいようになっているし、一部の機体は地上局から発信した超長波が起こす干渉波で潜水艦を発見するC装置というものも作っていたようだ……結構ちゃんとやってたんだな、史実の日本海軍。
でも史実の東海は、低速飛行のために用意したエンジンの出力が低く電子機器を搭載するのに難があったりするので、オレは二式飛行艇を改造したほうが簡単だと判断した。アメリカもカタリナ飛行艇を対潜哨戒機として使っているしね。それに哨戒機は、対潜哨戒以外にも、救難捜索、救助でも使われるから飛行艇のほうが便利だ。
というわけで二式飛行艇に、三式空六号無線電信機(秘匿のため名称を無線電信機にされていた)ことH-6電探およびKMX潜水艦磁気探知機と、TKT計算機を搭載し専任の海上観測員やレーダー担当を乗せた非常に贅沢な哨戒機になった。もちろん八木博士たちのレーダー研究チームの成果により史実のレーダーより精度が高く安定した観測ができるようになっている。
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しかし用兵側から、もっと小型の機体で敵を発見したら急降下して攻撃を加えられるようなものが欲しいという話があり、小型水上偵察機に小型爆弾か爆雷を装備したものを研究することにした。
零式小型水偵を改造することも考えたが下方視界があまり良くない。結局、新規設計でフロート式ではなく舟艇式(胴体下部がそのまま着水できる形)にして、プロペラを機首ではなく操縦席の後ろの高い位置に設置した。さらに操縦席も視界のいいように大きな風防にして、主翼もその操縦席の上にある高翼配置になった。水平尾翼も着水時に飛沫の影響を受けないように垂直尾翼の上部に丁字型に付いている。なんというか軍事用というより小型の水上機型セスナといった雰囲気だ。
機銃は7.7mmでは心もとないので20mmにして、乗員を1名にする代わり、60kg爆弾×2あるいは短魚雷×1を装備可能にした。まだ短魚雷ができてないけど。
舟艇型だと普通、補助フロートが主翼端に必要になるが、機体の舟艇部から横に張り出すような補助翼的な形のフロート(ちょっと下側に短い翼のある複葉機に見えなくもない)にしてエンジンや爆弾など重いものはなるべく舟艇の低い部分に搭載するようにして、主翼に補助フロートがない空力特性のよいものになった。
しかし操縦席のすぐ下に爆弾または短魚雷を抱えて飛んでいる感じになり、オレは某連邦軍のバブリク突撃艇のような危うい兵器を思い浮かべてしまった……実際には爆弾倉は舟艇内にすべて収まっていて、あれのように機体外に露出しているわけではないけど。
出来上がったものは非常に小型軽量となり、巡洋艦はおろかデリックさえあれば駆逐艦や輸送艦でも搭載できるようなものができあがった。この小型攻撃機は『鶚』と命名された。ちなみに英名だとシーホークとかオスプレイになる。
しかしオレですら驚いたのは、なんと鶚を二式大艇に積み込み、空中から発進させられないかと言われた時だった。まさかその発想はなかったが昔は飛行船を母艦とする複葉機が運用されていたそうだ。ソビエトではズヴェーノ・プロジェクトというツポレフ TB-3爆撃機の主翼上に小型機を搭載して、さらに再度ドッキングして母機から給油を受けるなんてものもあるらしい。
事実は小説より奇なりというか、飛行機乗りの考えることは信じられない。しかしこれが可能になれば史実でアメリカ軍の行っていた「ハンター・キラー」というレーダー担当の哨戒機が目標を探し、艦上機がこれを攻撃するという戦法をさらにコンパクトに、空母がいなくても哨戒機だけで行えることになる。そういう意味では魅力的だ。
結局、オレたちもこの考えに押し切られ、二式大艇と鶚を改造を施して実験をすることになった。いくら鶚が小さいからといっても主翼を展開した状態では邪魔なので、主翼を人手を介さないで展開/格納できる機構を追加し、さらに主翼上部に着艦フック(というか発艦時も、これに吊るされて機外に送り出されるわけだが)を装備した。
一方、二式大艇側は、艇内格納庫を飛行中に開けらるようにして、内部に装備した移動クレーンのようなもので鶚を機体外部に釣り出せるようにクレーンレールが取り付けられた。これで機内に二機、鶚を収容できるようになる。
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そして快晴無風のある日。オレは祈るような気持ちで無謀な(?)空中母艦の実験の様子を見守った。さすが『空の戦艦』とあだ名される二式大艇。鶚を二機収納しても内部はまだ余裕がある。洋上の十分高度をとった状態で発艦実験が行われる。まずは発艦のみだ。
まだ閉じられた艇内ハンガーで、主翼を折りたたんだ鶚にパイロットが乗り込み、クレーンレールで所定位置につり上げられる。念の為、安全帯を付けた整備要員が残るがそれ以外の人は前室まで移動し窓から様子を見守る。
ハンガーの口が開き、隣室からも機外の轟音が聞こえる。クレーンにより鶚が釣り出され、ゆっくりと主翼が展開されていく。
「よく風で邪魔されないもんだな……」
オレのつぶやきに『そりゃあ、自力で飛んでるときに受ける風圧に耐えるんですから、問題ないですよ』と隣の設計技師が答えた。
主翼の展開が終わり、鶚のプロペラが回転を始める。鶚のエンジン自体は既に起動されアイドリングされていたがプロペラは主翼が展開されるまでクラッチが切られていた。既に機外に出ているので、あまりよく見えないが機長とのやり取りの音声が我々のいる部屋にも流されている。
「発艦準備完了。指示を求む!」
鶚のパイロットの声に艇長の声が返す。
「一号機発艦を許可する!」
「了解。フック固定解除! 発艦!」
やがて、先程まで機体が吊るされていたクレーンが機内に戻り、ハンガーも閉じられていく。
終わってしまえば、あっけないほどのことだった。しかし発艦はいいけど着艦はさらに大変だよな。先の世では空中給油とかもっと高速で飛んでいる状態でやっているけど……やっぱり、オレは飛行機乗りみたいな命知らずなことはできないなと実感した。
今回は発艦のみで、鶚は地上基地に戻るが、また後で今度は着艦まで含めた試験を行うことになっている。どうか事故など起きませんように。
哨戒機は基本的に海とか洋とかの名前なのだが、空中母艦であることを考慮して「天海」と名付けられた。
鶚はミサゴ以外にウオタカとも読むというのを見つけたので、読み方をウオタカにします。




