第58話 制空直掩戦闘機?「魁」
鶴野っちの設計による「魁」は風洞実験や、モックによる検査やグライダーテスト、プロペラ推力による飛行テストなどを経て、ようやく試験機体による地上走行テストが行われた。なにしろ形が特殊だから、簡単に飛行テストというわけにはいかなかったのだ。とにかくこれで、ジェットエンジンの実力もようやく試せることになる。
もう聞き慣れたタービンの回転高速の音。さらに双発になったことで滑走の為とはいえ、かなり大きな爆音というか排気音が響く。最初はゆっくりと、そして思ったより軽快に速度が上がり、滑走路の半分ほどで離陸速度まで達した(当然、今回はそこから減速するが)。何度か走行テストを繰り返し、偏りや機体異常が無いことを確認し終了。操縦者からは軽快そうな機体だと評価された……まだ武装もしてないし、燃料も満載してないからね。
さらに数カ月後、ようやく飛行テストが行われることになった。すでに慣れた爆音を残しながら機体は滑走路エプロンを抜け離陸開始位置に進む。そして事もなく滑走路の大半を残してふわりと宙に浮いた。設計した鶴野っちは感慨無量という感じで見入っていた。何度か上空をパスした後、ラダー、フラップ、エレベーターなどの効き具合や姿勢制御の具合、エンジン出力の増減などを行い、おかしな挙動がないか細かく確認していく。今回は武装の代わりに重りが入っているのでより実際的な状態になっているはずだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
基礎的な飛行試験が終わり、軍の採用担当者による確認が行われ、正式採用の運びになった。第十三試作局地戦。海軍だと局地戦は雷系の名前になるのだが『魁』の名前があまりにハマっていたので、この名前が正式なものになった。そして離着陸距離の短さと高速性により、艦上戦闘機として運用ができないか試してみることになった、ジェットエンジン機の空母での運用試験も兼ねて。
魁は機首と主翼に脚があるので、機尾に着艦フックを付けると尻餅をつきそうなので、着艦フックの位置を機の中央から出るようにした結果、ずいぶん長いものになった。空技廠の設計者からの提案で操縦席の視界を広くするための全周風防としたため増々この時代の飛行機からかけ離れ、F15とかあの辺のジェット戦闘機の雰囲気が漂っているんだけど、オレは敢えて口にしない……良い設計は時として時代を越えた共通の形を持つものなのだろう、きっと(適当)
一航戦の空母赤城が訓練期間だったので、これを使って離着艦試験を行うことになった。赤城は空母の新兵器対応の改修をいち早く済ませているためジェット機の発着艦も行うことができる。オレもどんな具合か見てみたかったので先回りして有明湾の赤城に乗り込み待っていると、他の飛行機とは明らかに違う爆音が聞こえてきた。空の彼方の小さな点はみるみる近づき、一度上空を通り抜けた後、艦尾方向から低空で侵入し楽々と着艦フックにより停止した。地上で見た時はそれほど感じなかったが船の上で見ると随分とコンパクトだ。いつの間にか飛行甲板や艦橋に見物のパイロットやら整備員がたくさん増えていた。
「なんじゃ? このオモチャみたいな飛行機は?!」
「エンジン音が全然違うな、星型エンジンじゃないのか。てかプロペラがない?!」
「しかし随分、飛行速度が速かったぞ。やっぱ新型機なんじゃないか」
そんな声を横目にしながらオレは操縦してきたパイロットを出迎える。
「やあ、ご苦労さん。初着艦した感じはどうだ?」
「はい、速度が落としにくいですが着艦自体に問題はありません。下方視界がいいので着艦は楽でした」
「風の影響とかは?」
「横風等は、機体が重い分影響は少ないです。難点はやはり飛行時間ですが、速度が速い分、行動半径はそこまで小さくないです」
オレがパイロットと話していると割り込んできたのは赤城の航空長。
「どうだ、よければ我々と模擬戦などやってみないか? みんな珍しい機体に興味津々なんでな」
……こりゃまた、血の気が多いというか好奇心旺盛と言うか
「いいですよ。機体チェックが終わったら今度は発艦テストをしますから、そこで上がった後やりますか。撃墜判定はどうしますか?」
テストパイロットの人が勝手に答える。こっちもやる気満々なのか。
「いいだろう。判定は相手の機の後ろを1秒以上とれたら撃墜ということでどうだ」
「この機体は速度が出ますから1秒も後ろについたら追い越してしまいますよ」
「なに!?そんなに速いのか……しかしそれでは機関銃弾が当てられないのではないか?」
「対空戦闘は機関銃よりも誘導噴進弾を使います。これなら一瞬、後ろに付ければ発射後すぐに移動してしまうことも出来ますから」
「なんだそりゃ?! まあいいか。今回の撃墜判定は自己申告で……われわれが先に空に上がっているのでいいか?」
「はい。なんなら1機ではなく何機かまとめてでも構いませんよ」
ありゃりゃ、そこまで言うか……ほら、彼らの目の色が変わっちゃったよ。
飛行長のところに数人の目つきの鋭いのが集まって、3人ほど選ばれ早速、整備員により彼らの愛機らしい零戦の発艦準備が始まった。
「大丈夫かい? あんなこと言っちゃって」
オレは魁のテストパイロットに一応声をかける……まあ、今さら弱気なことは言わないだろうけど。
「零戦の最高速度ってどれくらいでしたっけ……530くらいか、200km/hくらい差があると1秒で50mは詰めてしまうよな……いや相手が捻り込みとかやったらもっと速度差が出るか……」
……気にしてる点が全然違うようだ。つまりは速度差があると如何に相手が高度な技を繰り出しても絡み合うのすら難しいという悲しいけど当然の結論になる。結局、遠距離から誘導噴進弾をぶっ放すしかないんだよな。
そんな事をやっているうちに、相手はとっくに発艦して上空でデモンストレーションのごとく巴を描いている。こちらの魁の機体も準備が出来たようで『それじゃ、行ってきます』の軽い一言で操縦席に乗り込んで行った。
魁が飛行甲板から発艦すると一気に遙か前方まで飛んでいってしまい、どうしたのかと気を揉んでいると後方上空から爆音と共に帰ってきた。零戦も上を取られまいと上昇しながら散開し、魁は中央の一機の後ろを取るようにスピードを絞ってダイブからズームに移り相手の軌跡をトレースする。待ってましたとばかり両側に分かれた二機が後をつけるがなかなか追いつけない。
「正面、一機撃墜!」
無線で魁から撃墜申告が入る。たしかに1秒は後ろを取っていたが、代わりに追いすがる2機に後ろを……とられてないな。まだ随分と距離がある。
と、そこから魁が宙返りを行い零戦2機の遙か後方に回り込む。魁は旋回半径がかなり大きいはずだけど……ああ、縦方向は先尾翼のせいで効きがいいのか。でもやりすぎると失速するぞ。
後ろを取られた零戦がロールを始める……おう、これが有名な左捻り込みか! って、あのパイロット坂井さん? いや別に捻り込みは坂井さんの専売特許じゃないだろうけど……しかし、悲しいかなマニューバが終わる頃には魁は遙か先に行ってしまっている。やっぱり速度差があるとドッグファイトは無理なんだな。
そしてまた魁がロールして、後方上空から零戦を捉え、速度をぎりぎり絞って撃墜申告。危なげのない戦い方だ……あのテストパイロットってひょっとしてかなりの空戦の名手なのかな。まあテストパイロットをしている時点で操縦が上手いのは当然だろうけど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
全機が降りてきて、飛行甲板上で出会うと、大声で称え合う声が聞こえる。
「こいつぁ、速いな。こんなのが出てきたら零戦では相手にならんぞ!」
「まったくだ。こいつに弱点はないのか?」
「強いて言えば、速度の加減速があまり良くないのと、飛行時間が短いことですかね」
「早いとこ、こいつが赤城航空隊にも送られてこんかな。今から乗ってみたくてウズウズするぜ」
こりゃ、山本長官あたりからまた、なにか言われる気がする。早く量産しろだとか……まだ、誘導噴進弾すら量産できてないんだけど。




