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第52話 新型計算機と建艦計画、その1


 山本長官に言われた翌日、オレは海軍省軍務局に行き井上成美軍務局長に挨拶に来た。

「何だキミは?」

そっけない言葉が第一声だった。あんまり人付き合いは良くなさそうだ。

「連合艦隊の山本司令長官から、井上軍務局長と共に仕事をするように言われました」

そう言って、オレは名刺を差し出す。

「海軍戦略兵器開発部々長……ずいぶん大層な肩書だな。何をやるんだ?」

相変わらず、あまり興味がなさそうに、そう聞かれた。

「新兵器の開発と、それに伴う海軍の装備計画……具体的には戦艦の新造を止めろと」

最後の言葉が軍務局長の琴線に触れたのか、急にこっちを見て

「コイツはまた……大変なことを。どうしてそんな仕事を振られたんだ?」


 オレは、この前の参謀会議から噴進弾の試験会場での話の内容、そして最初に山本次官に話したこと、つまり『アメリカに勝つためには、格好悪くても足掻いてでも、何とかするべきだ』を言ったことを話したところ、何か親近感をもったような、あるいは哀れまれたような微妙な表情をされ、

「キミも苦労するなあ……まぁ飲め。お茶だが」

と言われた。(この人、割とお茶目な人かもしれない)


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「建艦計画というのは、本来軍務局の仕事なのだが色々経緯があってそう単純には行かないのだ……」

そう言って井上軍務局長が説明してくれたところによると、伏見宮軍令部総長が就任した当時、軍令部の権限を強化しようと『軍令部条例並に省部事務互渉規定改定案』が出され、そのなかで兵力量決定については運用を考える軍令部の意見を尊重するという合意がなされ、以後どのような兵力を持つかは軍令部が優先権をもち、それを受けて海軍省軍務局が執行を行うようになってしまったとの事だった。


「つまり、建艦計画を変えようと思ったら、まず軍令部を納得させなければならない。だが軍令部総長、伏見宮博恭王は艦隊派であり大艦巨砲主義者だ」

井上軍務局長の言葉に、やる前から勝ち目はないと言われているような気がしてオレは突っかかってしまった。

「……なるほど、争っても勝ち目はないから諦めろというのですか?」

軍務局長が一瞬、オレを睨みつけたが『フン』といったように顔を横にそむけた。後で知ったのだが、軍令部総長の後押しを受けた、その横紙破りの改定案にひとり立ち向かい命懸けで抵抗を続けたのは井上成美その人だった……結局、海軍大臣と執行部が伏見宮総長の圧力に負けて、改定案を受け入れてしまい井上大佐(当時)は他の反対者共々粛清人事で予備役寸前まで追い込まれたそうだ……何も知らず、生意気なことを言ってスミマセンでした。


 オレは一旦、軍務局長の許を辞してどうやったら可能性があるかを考えた。

史実で建艦計画が変更され大和型三番艦、信濃の空母への変更と四番艦、紀伊の建造中止がなされたのはミッドウェー海戦での四空母の一挙喪失が起こったからだ……つまりこれくらいのインパクトのあることがないと難しいということか。


 井上局長に会う前にオレが考えていたのは、コンピュータを使ってシミュレーションを行い各艦種の必要量を示すというものだった。数字で示されればいくら自説を曲げない人たちでも説得できるのではと思ったからだ。うまい具合に電子計算機開発チームでは二代目となるTKT MarkⅡ計算機が完成し、以前より高性能で小型化されたものになった。まあいきなり数字を突きつけても信じてもらえないだろうから、この計算結果は正しいと誰もが認める事実を示さないといけないけれど。


 他にうまいアイデアも浮かばなかったので、もう一度井上局長を訪ね、自分の考えていることを説明すると意外にも賛意を得た。

「いいんじゃないか。機械が計算した結果なのだから人間のように変な手心を加えることは無いだろう……連中のやっている机上演習のようにな」


 そう、この時代の机上演習は、負けそうになると統裁官がやり直しを命じたり、戦闘結果の判定を勝手に変えてしまうというあれだ……そうか、まず机上演習を何とかするのもいいかもしれない。統裁官や参加者によって演習の結果に偏りが出ているとかがわかれば好き勝手なことはそうそう出来なくなるのでは。それに集めたデータをつかって戦争全体での艦種の必要量や相手国との生産量の差を示せれば……これはなかなかいいアイデアかもしれない。


 オレは例のプログラミング講座を持つ大学に行って、先生に作って欲しいシミュレーターの構想を伝え、生徒たちに分担してプログラムを開発してもらう。報酬は新型計算機の大学への設置だ。実際、大きなプログラムのデバッグは実機がないとムリだし。


 一方で山本司令長官にも、井上軍務局長とオレの考えを伝え、協力を依頼する。まず最初は机上演習のプログラムを連合艦隊の参謀部で使ってもらい上手く動くよう改良するのに付き合ってもらうことだ。これはけっこう大変だと思う……いわゆるドッグフードを食わされる役だからな。その代わり、ここにも新型コンピューターを一台設置させてもらおう……上手く行けば、他のところも欲しがるだろうから、まずは新型を量産する必要がありそうだな。




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― 新着の感想 ―
[一言] 戦艦は飛行機に負けたから引退した様に言われるけど、本当はあまりに金が掛かるからどこの国も持てなくなったんだよな、 飛行機が高額化して、1飛行隊あたり50や60も装備していたのが20少々まで…
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