第49話 日本版鉄機兵と噴進穿甲榴弾砲
「おまえ、陸軍のことサボってんじゃねぇよ」
という天の声(≠テンちゃんの声)が聞こえた気がして、陸軍関係で進めなければいけないことをやる。
陸軍関係といったらやっぱり鉄機兵の日本版の開発だ。ライセンス契約は済ませてもらっているので、作ることは問題ないはずだ……問題は誰がどうやって作るかだけど。華子さんに相談してみたら、戦車関係は大阪兵器廠で開発しているしい……でも戦車ではない新しいモノなのだから、地理的に近い相模陸軍造兵廠でよいのではないかと意見をもらった。
「本当は『日本の戦車の父』と呼ばれている原乙未生中佐がいれば話をしてみてもいいと思うのですが、残念ながら今は戦車第8連隊長として中国大陸に行ってしまっています」
華子さんがそう教えてくれたが、それはぜひとも会ってみたい人だ。でもいないなら仕方ない、相模陸軍造兵廠の一部を使わせてもらうことにして鉄機兵の開発を始める。まずはオリジナルのパンツァードラグーンを調べることからかな……前にタービンエンジン周りは調べたことがあるが、今回は動作機構もちゃんと調べることにして第二海堡から機体を幾つか運び込む。
分解してわかったけど、これは作るのがかなり大変そうだ。たとえば機体各部に駆動力を伝達するフレキシブルロット……ロスが少なくかつ自由度の高い継ぎ手が多数使われている。ブラウン・ボベリー社はよくこんなモノが作れたな……さすがに未来のロボットマニュピレーターと違ってフィードバック系はなかったけれど。おかげで複雑さは半分くらいになっているはずだ。その分、操縦者が力を加減しないと握ったものを壊したりしてしまう。
ホバークラフトの制御機構も秀逸だ。心臓部は機体の重量バランスにより、たくさん並んだエンジンの吸気弁のようなものの開口量を変化させ、各噴出孔の空気量を制御している部分だ。このためホバー状態では想定した重量バランス内の姿勢しかとれないという制限があるようだけれど、よくメカだけでこんな機構を作り上げたもんだ。これは普通の戦車や兵器の設計者では無理だろう。ブラウン・ボベリー社から技術者を派遣してもらうにしても、それをちゃんと理解できそうな人をどこから集めたらいいのだろうか……オレは会う人に片っ端から関係がありそうな分野を聞いてみた。
そして出てきたのが、まず楽器関係。特にパイプオルガンを作る人は多量の空気の噴出の取り扱いなどに馴れているのではないか……また別の人は、からくり人形師はどうかと言っていた。操作が紐や木というのが難点だが複数の操作系を上手く組み合わせて操作すること知っているのではないかということだ……そして時計技師。精密な部品をロスなく動かすためのノウハウを持っていそうだ。それでもこの人達を集めても出来そうにはあまり思えない。他にないだろうか……思い悩んだ挙げ句、未来のロボットの分野ならどうだろうと思いついた。
ロボット関係の企業の情報をクウちゃんに調べてみたら、何と川崎航空機がアメリカの会社と提携して日本で最初の工業ロボットを作り始める事になるらしい……今から30年以上先の話だけど。川崎なら多少知り合いがいるから相談に乗ってもらえそうだ。あとは安川や不二越といった将来の大手ロボット企業の前身が、この時代から存在しているのを見つけた。それにパンツァードラグーンを作ったブラウン・ボベリー社は将来、世界4大ロボットメーカーの一角、ABBになるというのも知った……どうりですごいモノを作れるはずだ。この情報はオレに安心感を与えてくれた。なぜかというと、オリジナルを作ったブラウン・ボベリー社と同じ分野に進んでいく企業なら、似たようなことができるのでは、と思えたからだ。
こうして川崎航空機を中心にいろいろ声を掛けて、賛同してもらえた人を中心にプロジェクトチームを作ることにした。もちろんブラウン・ボベリー社にも技術者を派遣してもらえるよう依頼も出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「こんにちは、時休サン。お久しぶりデス」
技術者を派遣してもらったら、ミハイルさんがついてきた……解せぬ。
「この前、お聞きした機能限定モデルを作ってみたので見ていただきたかったのデス」
おぅ、いきなりでかい荷物が来ていたと思ったらそれだったのか……ミハイルさんが連れてきた社員に指示して梱包が外される。見た目は殆ど変わらない、しかしオリジナルは歩行移動できるのに機能限定型は脚は固定されたまま、方向だけを指示して移動する感じだ。
「操縦性は問題ないですか?」
オレは気になっていたところを確認してみる。
「はい、このタイプなら操縦はずいぶん楽になっています」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ほう、電気制御ですか」
パンツァードラグーンのノウハウを伝授してもらう合間の世間話で、これから作ろうとしている新型についてミハイルさんにポロッと漏らしてしまった。もちろん、電子計算機制御などという話はしていない。本当にさらっと言っただけなのに……でも、ミハイルさんにはやろうとしていることが理解できるようだ。
「その技術をクロスライセンスして頂くわけにはいきませんか? 私の予測ではパンツァードラグーンの未来は、そちらにあるように思えます」
うーん、技術提携レベルの話ならば大丈夫かなぁ……これが共同開発だとか、同じものを他国に提供可能という話になると、日本陸軍としても首を縦にふれないだろうけれど……さすが大企業の幹部だけあって交渉が絶妙だ。仕方ない、あとで華子さんに相談してみよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、あとは新しい携行兵装としてハイパーバズーカを作らなければ(笑)いや、実際これから出てくる装甲の厚い主力戦車には対戦車ライフルでは歯が立たないし……だけど、この世界ではパンツァーファウストもまだ作られてないんだよな。最初はドイツで作られたものを改良しようとしたのだけれど……まあ実際に敵戦車と歩兵の戦闘が頻発するようにならないと必要性もないからな。
こうなったら原理を説明して最初から日本で開発したほうが早いかもしれない……そうすれば最初から弾倉式にもできるし。未来情報で日本で作られた成形炸薬弾がないか調べると、3年から5年後くらいの間に噴進穿甲榴弾という、いわゆるロタ弾(ロケット式のタ弾=成形炸薬弾)が作られていた。例によってドイツから潜水艦で運ばれた情報を元にしたものだが、作れたということは技術的にはこの時代でも可能だということだ。そして我々にはドイツ情報以上に強力な未来情報がある(かなり無理やりな論法!)
さっそく史実で『試製五式四十五粍簡易無反動砲』を作った、第一陸軍技術研究所の、前身になる東京第一造兵廠に来てみる。
「へぇ、こんな方法があるんですね……」
歩兵火砲の担当者にモンロー/ノイマン効果について説明する資料を見せたらそんな反応が返ってきた……やっぱり初めて聞いたそうだ。でも興味は持っているようで出来そうか聞いたら、試してみるので三ヶ月くださいと言われた……うーん、ちょっと長いな。まあ、普通に新しいものを作るならこれくらい短い方だろうけれど……いいや、途中で何度もチェックに来ればペースも早めてくれるだろう。締め切りの厳しい編集者みたいなことをしてゴメンよォ。
こうして、すっかり顔なじみになった担当者に、完成した試作を見せてもらった。
「いや、なかなか面白いですねこれ。普通なら全然歯が立たない装甲板も、ほら」
そう言って試験で試したらしい、100mmの鋼鉄板を見せてくれた……たしかに真ん中に1センチほどの穴が貫通していた。
おお、100mmは思ったより強力だ。てっきり80mmくらいしか貫通しないのかと思っていた。でも1センチくらいの穴じゃあ、まだ威力が足りないなぁ……
「これ、弾頭が回転するのを止めればもっと強力になりますよ。モンロー/ノイマン効果を有効にするには弾頭が回転しない方がいいようです」
オレは後から知ったアメリカ軍の方が威力が高かった理由を教えて改良を依頼する。
「あと、もっと大きくできませんかね? 1.5倍くらいに。弾頭も10発くらい入る着脱弾倉にして、次弾を簡単に装填できるようにして下さい」
「に、日本の兵士にはちょっと大きすぎませんか?」
開発担当者が、ビビりながらそう言うが、大丈夫。扱うのは人間じゃない。
「ああ、鬼に撃たせるつもりで作ってくれていいですよ。それで、どれくらいで出来ます?」
「オニ……」
使う兵士のことなのか、オレに対して言った言葉なのか分からないけど、開発担当者はそんな言葉を漏らしていた。我ながら無茶を言っているという自覚はある。でもこれができないと鉄機兵で走り回りながら敵戦車を撃破し続けるという戦い方が出来ない。一発撃ったら物陰に隠れて次弾を装填できる歩兵とは違うのだ。
「あ、あと三ヶ月ください」
これまで何回もせっつかれた事を思い出したのだろうか、かなりビクビクしながら、その開発者は答えた。まあ仕方ない、頑張ってくれ! キミの努力は戦場で多くの味方の命を救うことになるよ……きっと。




