第40話 ライセンス契約と追加武装と欧州訪問計画
『水晶の夜』を回避する話が一段落して、残りはポーランド侵攻対策だけど、その前に華子さんにスイスのブラウン・ボベリー社と、正式にパンツァードラグーンの契約を締結してほしいと依頼する。
契約の内容について詳しく聞かれた結果、そのままの機体を購入するのではなくライセンスを購入して日本で改良しても問題ないようにするべきという話になった。『どうせ色々改良したいとか考えているんでしょう?』と……そう言われると、たしかにそのとおりだ。装甲をセラミックにしたら、もっと軽くて強度が上げられないかと思うし、何よりコンピューターを使って操縦を補助できれば誰でも複雑な動きを簡単に出来るようになるのではないかと思う、どちらもまだ研究中の技術だけど。
「そうですね、ライセンス契約でお願いします。それと日本で研究している技術で敵機を自動追尾して射撃できる機銃を開発して、ブラウン・ボベリー社に売り込みたいので、そちらについても契約を進めたいのですが……実際に物ができないと契約条件が決められないかもしれませんが」
オレがそう伝えると、
「いつ頃、出来る予定ですか?」
と聞かれた……え~と、傭兵部隊を送り込む前にはスイスに送りたいから……半年後? いや向こうで評価とか操縦法の習熟もしなきゃいけないだろうから、3ヶ月くらい?
「2、3ヶ月後には完成させたいです」
と答えると、
「本気ですか?」
と笑われてしまった……えっ、そんな無理なこと言ってるかな?
音響追尾装置の研究担当者に『敵機の音を追尾して射撃する機銃を作りたいんだけど』と相談して、どれくらいで出来そうか聞いたら『1ヶ月位で動くものは作れると思います』と答えてきた。ほら、この人達すごいんだよ!
一応、余裕を見て2ヶ月後に成果の確認をしたいと依頼しておいた。そして2ヶ月後……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……評価機を見せられたオレの感想は『デカイ』だった。
そう、彼らは対空機銃と言われて艦艇に装備する25mm三連装機銃だと思ったようだ……そりゃあ、海軍で機銃と言ったらそうなるか。そう言えばオレもパンツァードラグーンに載せるとは言ってなかった気がする。
それでも、上空に飛ばした標的からテスト用の爆音を鳴らして移動させると、機銃座はちゃんと追従して動くし、銃身の角度も変化していく……これ、そのまま艦艇用の対空機銃で採用できるんじゃね? 後で艦艇技術部に連絡しておこう。
「ご苦労さま。評価結果は良好だ……ただ、仕様について連絡ミスがあったようだ。依頼したかったのは」
そう言って、陸軍の兵器車両?に装備するためのものであることを告げると
「陸軍の車載機銃は銃架があるだけなので、機械操縦の取り付け可能な機銃座から作る必要があるため、半年以上かかります」
と言われてしまった。こりゃあ本体の契約とは分けたほうがいいかな……とにかくこちらの件は陸軍の関係者にも協力を得ながら進めるとして、パンツァードラグーンのライセンス契約は先に進めてもらうことにした。
しばらくして、追従式機銃のモックが出来たので見せてもらったのだが……
パンツァードラグーンは上部にはペリスコープがあるくらいでのっぺりした形なのだが、そこに載せる平べったい頭のような形でずいぶん大きい。聞いたところベルト給弾の弾薬を格納する場所だとの事、口径は12.7mmで、ホ103を改造したものだそうだ。銃身右横に少し短くて太い円柱があり、これが音響レンズ付きで目標以外の雑音をカットする目標音検出器、反対側に銃身を動かすためのギアボックスが付加されている……まだ動くものにはなっていないが。これが付けられたパンツァードラグーンを見ると、今までのものは頭がないような変な感じに思えてくる……つまりこれをつけると、より人間っぽくなった感じだ。
しかし、12.7mmって対物ライフルにできるくらいだから……いっそのこと手持ちの対戦車ライフルはやめて、成型噴進弾でも持たそうか。いよいよドムだな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『新型兵器導入に功績、大なるを以て中佐に任ずる』という辞令を華子さんが受け取ったそうだ。そんな契約しただけで昇進できるの?と思ったら、他の功績もひっくるめてだそうだ……というか、久永殿下を情報部に置いておくのを止めさせたいという思惑が見え隠れすると言っていた。
案の定、久永殿下は同時期に近衛師団から、軍事参議院の参議官補に移動(軍事参議官て、陸軍大臣や参謀長がなる地位で、いくら「補」だとはいっても釣り合いが取れなさ過ぎなのではと思ったが、殿下は少将に昇進していた……さすが皇族は普通に二階級特進していくものらしい)
華子さんは、殿下とは別組織で特務機関『菊』機関長だそうだ。しかし作戦地域を指定されない、特命任務に従事するそうで実質、殿下の実働部隊というのは変わらないらしい。
そして、新しい部署での初仕事……いや、もともと予定されていたこと、と言うべきか。北白川宮久永殿下の訪欧表敬訪問という名目の資源輸入外交デビュー(もちろん華子さんも一緒)が行われることになった。
つまり、自分で企画した(事になっている)国力倍増計画の為に必要な資源の輸入をトップ会談で決めてこい!ということらしい。普通はトップ会談するときには、根回しは完了しており後はサインするだけという状態になっているはずだが、今回は皇族のネームバリューで契約の端緒を開きたいという逆発想だ。ということで表向きは表敬訪問で、輸入の話ができれば想定外の成果というスタンスになっている。
訪問先は、父上と縁の深いフランス、今回武器契約をまとめたスイス、現在強い友好関係のドイツ、さらに東南アジアに植民地を持つオランダ、最後に海を渡ってイギリスということになっている。しかし実はイギリスこそ交渉の本命で他はすでに成果の決まったところか、まったく予定のないところだけだ。
というわけで絶賛イギリスでの交渉相手を物色中で、もちろん前回因縁のロスチャイルド家もターゲットに入っている……というか、オレがするはずだった『水晶の夜、阻止』の報酬交渉を華子さんを交えて行い、上手く行けば殿下にお出まし頂くという手順だ……でも大丈夫かな、華子さん。『ロンドンを火の海にしてやろうか』とか言いそうで怖い……もう少佐じゃないんから、シャレはいりませんよ華子さん。




