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第37話 水晶の夜を阻止せよ、その5

 ポーランドの首都ワルシャワ……王宮のすぐそばの教会に夜半、数人の男たちが集まっていた。

「だいじょうぶですか? リッツ元帥派に見つかったりしてはいませんか?」

「大丈夫です。彼らは今夜、元帥のパーティに招かれていますから……」

「皆様集まって頂き、ありがとうございます。今日の目的は御存知の通り、元帥の指導体制を打破し、ピウスツキ時代の民主的な体制に戻すことを目的としています」

「お言葉ですがピウスツキ元帥の時代も民主的と呼ぶには程遠い状況でしたが……」

「それでも、現状よりは余程マシだろう」

「……その点は置いておいて、現在のリッツ元帥の体制を覆すための方法を考えましょう! モシチツキ大統領は、軍が掌握できる者がいれば、より民主的な新たな体制に移行するのは問題ないとお考えです」

「ベック外相は基本的にはリッツ派ですが、軍のトップが変わるのなら新しい体制に反旗を翻すことはないと思われます」

「後は軍部をどう覆すかなのだが、リッツ元帥に対抗できそうな将軍たちは、みな穏健派でクーデターで元帥を追い落とそうと考えるものがいないのだ。大佐グループの中には心情的に元帥の施策を嫌っているものも多いのに、中心として立つものが……」

「農民党の指導部は反リッツが主流で、関係の深い軍人や民衆に連帯して立ち上がるよう呼びかけていますが、こちらも中心に立つものが……」


 結局、深夜に及ぶ会合も実を結ぶに至らず、反リッツ元帥のグループが決起することはなかった。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 オレたちが前回ポーランドを訪れてから数ヶ月が過ぎていた。この間、ポーランドでは何度か政権の入れ替えが起こったが、軍部のリッツ元帥が背後から国を指導する体制には変わりがなかった。


「ご無沙汰してました、ジェイコブさん。何か相談されたいことがあるとか?」

「お久しぶりです、ワイスさん、アズサさん。……また奥の部屋で話しましょう」

そう言ってジェイコブ司令官は、個室に我々を招き入れ、詳しい話を始めた。

「前回、提案頂いた傭兵部隊ですが……ポーランド軍司令部から了承をもらうことは出来ませんでした」

「……軍の指導体制の変革も?」

オレは落胆しながら確認した。ジェイコブ司令官は目を伏せて首を横に振った。

「ありません……ですが」

「ですが?」

 彼が我々を見つめて話を始めた内容は驚くべきことだった。なぜならそれは、ジェイコブ氏が国家予算を私的に流用し、国外の武力を秘密裏に招き入れることを示していたからだ。


「ジェイコブさん……パンツァードラグーンを土木機械として操作員と共に、基地内に秘密裏に駐屯させるというのは……あまりに貴方に危険な橋を渡らせすぎている。もっと他のやり方を探してみませんか」

オレはそうジェイコブさんに問うてみたが、彼はサバサバとした様子で答えた。

「いえ、もう迷っている段階ではないのです。私一人がどうなっても……国を失うことに比べたら……それに、ワイスさんのお話では戦闘中に司令部は国外に逃げてしまいますよね。なら私が違法性を追求されることもなくなるはずです」

彼はすでに心を決めているらしく、考えを改めることはなかった。


 その後、彼は今回の傭兵団のコードネームを『黒騎士』にしたいと告げた。中世ポーランドで信義に厚い高潔な人物として理想とされたザヴィシャ・チェルニにちなんだ名前だそうだ。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 翌日、オレはシロちゃんに憑依させてもらって、スイスのミハイルさんを訪ねた。ひとつはポーランドが傭兵部隊と契約することを決めた件。そうしてもう一つ、次期パンツァードラグーンについての話だ。


「機体を各国に販売することを目的とした次期モデルですが、思い切って歩行機能を省略しませんか?」

オレはミハイルさんに、そう提案した。

「操作腕をひとつにするのは機能的に制限が大きすぎますが、歩行機能についてはそこまで問題はないと思われます。これにより操縦方法は、かなり簡略化できます」

つまり現在のジェット戦闘機などを外国に販売する場合の『モンキーモデル』と同じようなものだ。


「戦場で障害物を排除しながら侵攻する場合や、工兵的な作業では現行機より能力が落ちますが、移動速度、制圧力などはそれほど影響を受けないはずです」

オレの説明を、黙って聞いていたミハイルさんは暫く考えた後、納得した様子で

「貴重な提案をありがとうございます。社内でも一度、その線で検討させてみましょう」

と返事してくれた。


「もう一つあるのですが」

そう言ってオレはパンツァードラグーン用の追加兵器を提案した。具体的には対空兵器だ。たぶんドイツとの戦いでは戦車より急降下爆撃機が強力な敵になる。パンツァードラグーンは戦車よりは高速だし小回りがきくから爆弾は大丈夫だとしても、機銃掃射はシャレにならない。


 煙幕や防空気球という手もあるが、パンツァードラグーンの背面上部に、史実のイ号一型丙自動追尾誘導弾と同じような音声自動追尾式の機銃を付けたいのだ。実は今回の誘導噴進弾で音声追尾についても結構研究した。そして相手はジェリコのラッパを轟かせて攻撃してくるというスツーカだ。まさにうってつけの気がする。問題は自機も大きな騒音を発していることだが……うまく音の高さでフィルターできなかな?


「それは、私としては願ってもない装備ですが……今までの時休サンだけのアイデアではないですよね」

うーん、そう言われるとそうだ。これは日本軍の研究成果だ。それを勝手にブラウン・ボベリー社に使わせてしまったら機密情報を横流ししたことになってしまう。

「そうですね。ご配慮ありがとうございます……日本軍で開発して、それを御社(そちら)のパンツァードラグーンに使えるように……いっそのことパンツァードラグーンの日本軍での制式採用と絡めて話を進めてよろしいですか?」


 そう、いままで8機だけで、それ以上なにも話を進めていなかったが、今は陸軍にちゃんとしたコネがあるし……そうだ、これは華子さんか久永殿下の手柄にしてもらうほうがいいな、うん。


 後日、日本陸軍から連絡をとるようにすることをミハイルさんに伝えた。もちろん自動追尾式機銃はオレの方で開発をすすめるけれど。



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