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第32話 企画院と情報局創設

ようやく、内政フェーズ……

 久しぶりに華子さんと連絡を取る……そろそろ内政を変えていかないと間に合わなくなる。

「お久しぶりです……久永殿下は政務に励まれておられますか?」

「ええ、知らなかったことの連続で刺激的な毎日を過ごされているようですが?」

ちゃんと秘書官の仕事をやっているのを確認して次の言葉をつなぐ。

「……少しお願いがあるのですが」

「はい、どのようなことでしょう?」

あれ? 前ならこの一言で◯◯でしたら……と来たのだが、もうオレの考えていることを読んで会話をするのは止めたのだろうか? うん……普通の人と話している感じで安心できるけど、何か物足らない気もする。


「少し首相に入れ知恵をして欲しいのですが?」

しかし、このひと言で華子さんは、オレが何の話をしようとしているのか分かったようだ。

「……国政改革ですか?」

「流石ですね……キャッチフレーズを考えて欲しいのですが、まあ内容はこんな事で」


 オレはそう言うと、頭の中にやりたいことを思い浮かべた……やっぱり華子さんは、話さなくても伝わるというところがいいと思う。オレが内容を口にしないのでわかったのか、思考を読むことにしたようだ。

「ドイツの4カ年計画的なものを3回くらい10年以内に……国主導で自動車産業の立ち上げ……後で軍用車両に使えるものを……エンジンや部品製造、金属加工の能力向上……一次産業から二次産業への就労人口移動……産業高度化のための高等教育……医療、福祉の充実……ずいぶんいろいろとありますね」

そう、それでこそ華子さんだ。


「いろいろあるから、うまい見せ方をしないと……軍相手だと『軍備近代化』とか国民向けなら『所得倍増』とか」

「それでキャッチフレーズですか」

華子さんにはちゃんと伝わっているようで安心した。


「でも説明が難しいですね。久永殿下には、どうお話しましょうか……」

珍しく華子さんがちょっと困っているようだ。こういう人を動かす話は得意だったのでは……ひょっとして久永殿下だから他人のように動かすような扱いは出来ないということかな? こういう面は割と乙女っぽいな……でも大丈夫、オレは華子さんを信頼している。

「そこは夫婦の愛情で頑張って下さい」

これをきっかけにして二人の間をもっと親密にしてください(笑)……華子さんがちょっと目を、まん丸にして『こいつ何を言い出すんだ』っていう表情をしていた。


◇          ◇          ◇


「日本陸軍の近代化をするための改革?」

宇垣首相が怪訝そうな声で返した。私は華子と打ち合わせたとおり、軍の強化の話から説明に入ることにした。


「はい。列強各国は陸軍の機械化、機甲師団化を進めております。帝国陸軍も早急に機械化師団を強化する必要がありまが、現在の国力では非常に厳しいのは首相もご存知のことと思います。また近代戦争は総力戦となりますので日本の国力自体が戦争遂行のための決定的な要素になります。これを現在の数倍に高めるため、帝国は産業改革を行う必要があります」


「いやはや、まさか久永殿下からそのような提案を受けるとは思いませんでしたな」

「首相、今の私は首相秘書官です。秘書官として必要な職責を成すため日々努力を重ねております」

本当は華子から、依頼された事なのだが……


「これは失礼。で、具体的には何をしたいのですかな」

宇垣首相は、さきほどの言葉とは逆に、実は私がそのうち何か言い出すだろうと予期していたのか、驚きもせず話を聞いていた。首相の問いに私は答える。

「数次の3カ年計画で国力を大幅に増大させるための産業改革を行っていきます。もちろん現在の状況や既存の政策と調整していく必要はありますが……」

「うむ、産業を伸ばす必要性は承知しました。企画庁担当官と打ち合わせ計画を策定して下さい」


 すぐに企画庁内に専門部会が設置され諮問会議が催された。もっともこの会議の目的は、こちらの出す改革案にお墨付きを与え、より無理なく実施していくためのものだが……私は企画庁で概略を伝えた。これだけでどこまで理解してもらえるかは不安だが。

「明治期の官製模範工場のようにモデルケースとして幾つか作るのではなく、国内全体の生産拠点数と水準の向上を目指していきます。既存産業との競合を避けるため新分野へ目を向け自働車、特に産業用トラックと工作機械の増産を軸として、それに使われる部品、材料などを作る、いわゆる産業ピラミッドを構成する工場を各地につくり、産業の基盤となる道路や橋、労働者の住宅施設や作業水準を上げる高等教育の整備も進めていきます」


 しかし企画庁の職員は、私の説明を聞いてすぐに意図を理解し反応してきた……やはり優秀だ。

「これは、単に産業育成政策の域を越え、予算や資源の割り当てなども統制・運用する必要がありますね……通り一遍な政策だけではなく専門部局が必要なのでは」

「……首相に提案しましょう。また、こういった国の政策意図を国民に正しく伝えていくことも大切ですね。そうしないと要らぬ憶測やデマによる扇動が起こりがちになります……これを行う情報局も合わせて提案しておきましょう」

後から聞いた話だが、私以外からも企画庁強化の案は出ていたようだ。やはり見ている人は、見ているのだろう。


 後日、企画庁と内閣資源局が統合され企画院、そして国民に政策を知らせ啓蒙することを目的とした内閣情報局が設置された。ここには陸軍、大蔵省、商工省といった関連各省から、自らの影響力を強くしようと岸信介、星野直樹、毛里英於菟、迫水久常、美濃部洋次といった駿才が送り込まれてきた。


「いいですか、単に軍需品を生産するだけでは国家予算を消費するだけですが、平時には産業用に利用すれば、それは生産財になります。投資した資金が回収できるばかりでなく、新たに収益を生み出すのです。さらに資産回転率を上げれば100の資産が200にも300にも使えるようになります。このように生産物を有効活用し生産効率を上げることにより原資を何倍にも活用することが出来ます」


 商工省の経済官僚がそのように政策の進め方を説明してくれた……さすがに専門の経済企画担当者の考え方は違う。私の提案の何倍も早くて効率的な施策が行えそうだ……こういう事が分からないと経済政策を進めていくことは難しいのだろう。まだまだ勉強しなければいけない事がどんどん出てくる。


 出来上がった企画案を検討会に持ち込み、各部からの質問や要望を受け修正を加える……実施可能なレベルになると、どのスケジュールで持ち込むか政務次官や国会対策の担当部署が必要な根回しを準備する。本当にひとつの政策を実施に移すまでは膨大な作業や調整、根回しが必要になることを知った。



「さて、首相の国会での演説の原稿を用意しなければいけない。情報局と打ち合わせたキャッチフレーズは、『未来を切り開く、国力倍増内閣』と決まったので、演説中にこれを使わなければ……」

 私は、てっきりこのようなキャッチフレーズは、毎回つけられるものだと思っていたのだが、そんなことはないそうだ。情報局の担当者は斬新で国民や新聞の注目を集める素晴らしいやり方だと褒めてくれた……華子はこのようなやり方をどこで学んだのだろう。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 そして首相の国会演説が行われ、翌日の新聞に大きな見出しで、あのキャッチフレーズが踊った。よほど刺激的(キャッチー)だったのか、事あるごとに政府の政策はそのキャッチフレーズと共に語られ、まさにこの内閣を代表するような言葉になっていった。


「いやぁ、あの標語は素晴らしいですな! あれで一気に国民の衆目を集め、政府の向かうところをひとつにしてしまった。殿下には人心掌握の才がありますな」

この話している相手は、企画院に参加した星野直樹氏だ。もともと大蔵省の官僚で財政運営について詳しい。


「いえ、まだまだ何も分からぬ青二才です。先輩諸氏の叱咤鞭撻を頂きたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします」

そう挨拶をしながら彼の背景を見てみる。大きな背景が楽しそうに揺れている……特に二心はないようだ。私は早速、依頼の件を話し始める

「自動車産業ですか……国の中心産業に。ほぅ、面白いことを考えておられますな……確かに、あれは産業の裾野が大きいので波及効果がある。その分、育成の施策もいろいろ必要だ……私の知人に鮎川義介いう者がいるので彼に話してみるといい。あれはいろいろな会社経営に詳しいですからな」


「それは心強いですね。連絡を取らせて頂きます」

いろいろな人達と信頼関係を作りながら、物事の進め方を知っていくことが今の私に必要な事だと思いながらも、それだけではいけない。私が真にやるべきことは何なのかと、心のなかで自問している自分がいた。



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