第30話 ジェットエンジンと機体開発
永野に任せっきりになっていたが、久しぶりにジェット推進研究所(!)にやってきた(この名前、自分で付けたんだけど恥ずかしくなってきた。そこまで大層なことやってないし……いや、ウチはエンジンだけじゃなく機体や応用も研究するんだからと自分に喝を入れて中に入る)
さて、そのエンジン開発だが、さっそく問題が起こっていた。連続燃焼のための条件を計算したところ1200度で30気圧は必要らしいが、普通の鉄の合金では700度くらいまで、耐熱用でも1000度が限界らしい。つまり今の素材ではエンジンを動かすと溶けてしまう。ちなみにレシプロエンジンでは燃焼室は800度くらいになるようだが、オイルにより熱を冷却することができるので何とかなっているらしい。
スイスで調べたタービンエンジンではクロム合金にして耐熱性を高めていると聞いたが、それでもなかなか大変なようだった。またブラウン・ボベリー社に情報を教えてもらうか……本当はセラミックス素材が実用化できれば、解決できるんだけど。
それと、気が早いかもしれないがジェットエンジンで飛ばす機体の方も考えておきたい。今は海軍も陸軍もレシプロエンジンの新型機を急ピッチで作らせているから優秀な会社はどこも手いっぱいだ……中島、三菱辺りは既に設計チームの空きはない。その次は川崎、愛知航空機あたりかな。でもここらも軍からの正式の依頼が出ないと無理な話だ。考えられるのは、やっぱり空技廠で研究機として作ることだろう。
しかし、いまだ諸元さえも確定しないエンジンの機体など作れるはずもなくあっさり断られた……それでも動作可能なエンジンが出来上がったら性能測定を行ってもらえる約束をしてとりあえずは帰ってきた。
帰り際に、いま研究中の機体をこっそり見せてもらったがどれも星型エンジン前提の機体でジェットエンジンを載せるには無理がありそうだった。唯一、十三試艦爆あたりなら改造すれば何とかなりそうな気はするけど……こいつ最終的に彗星艦爆になるんだよな。
彗星は何となく『悲運』という言葉がついて回る。初陣は(二式艦上偵察機としてだが)ミッドウェー海戦の偵察機として蒼龍に積まれ、任務には成功し敵機動部隊を発見したものの無線故障で飛龍に着艦してからの報告になり空母ごと失われ、エンジンの不調から殺人機と呼ばれてしまう不名誉を受け(殺人機は雷電とかも、そう呼ばれていたけど)大戦末期には大多数が特攻に使われたという悲しい機体だ。特攻機になんかさせないぞとオレは密かに決意して空技廠から戻った。
空技廠を見学した結論として、やはりこのエンジン用の機体は新しく設計する必要があるということを確信した。どうせ現段階では、お呼びが掛かっていないんだからと『震電』を開発した鶴野正敬を呼び出す(まだ帝大航空学科に入学したところだ)
「キミは帝大の航空学科で学んでいるそうだが、こんな飛行機はみたことがあるか」
そういって震電の三面図を見せてみる。
「なんですかこれは?! 機体の前と後ろが逆になっている……こんなモノがあるんですか?」
こんなモノときたか……これは5年後に君が作る機体なんだが(笑)まあいい。
「エンテ型という。飛行特性など調べておいてくれ。終わったら報告しに来るように。そうそう、君のことは私の研究所の嘱託学生としておくから。業務内容については機密だからなと言って名刺を渡す。そこには『種子島時休 大日本帝国海軍技術中佐 海軍航空技術廠 ジェット推進研究所々長』と書かれていた。他の肩書は、この名刺には書いてない……バレるといろいろ問題がある場合もあるし。
話をエンジンに戻そう。ブラウン・ボベリー社に教えてもらうのも一つのやり方だが、彼らが作った現物が8個もあることを思い出した。鉄機兵ことパンツァードラグーンだ。早速、第二海堡に行って調べてみることにした。
「これ、ウチの計算値よりぜんぜん大きいブレードを使ってるなぁ……この方が効率的なのか」
「軸受けの構造がずいぶん複雑だ……しかしよく考えられている。これは調査のしがいがありそうだ」
「燃焼室の金属がぜんぜん違う。これは何で出来ているんだ? タービンファンもだ!?」
実物を見てみるのはとても役に立った。本来なら自分たちで一つ一つ失敗しながら得ていくノウハウだが、それを一足飛びに得られるのはすごい(でも後で理由を究明しないと、自分たちの実力にならないが)……ドイツのハンス・オハイン氏にも一度、意見を聞きたいな。ゲッチンゲンから離れたくないとか言ってたけど旅行に来てもらえないだろうかな……などと思っていたが、よく考えたらオレならすぐに行けることに気がついた。写真くらいしか見せられないけど、ちょっと出かけてくるか。
◇ ◇ ◇
「やあ、お久しぶりです。えーと、種子島サン?」
「はい。ハインケル社との共同研究が始まったようで良かったです」
例の自動車工場を訪ねてみると、『ハンスはハインケルの工場で研究をしている』って社長のマックス氏が教えてくれた。ハインケルの工場を訪ねてみると、まだ軍が関係していないためか特に機密扱いということもなくハンス氏に会わせてくれた。
「これは、我々の作っているタービンエンジンなのですが……」
そう言って、ハンス氏に写真を見せてみる。
「……ずいぶん細長いのですね。圧縮機は軸流式ですか」
ハンス氏の方は、まだ遠心式で頑張っているようだ。それでもHeS 1という安定稼働するものを作り上げて一歩リードといった状態だ。
「これは、気体水素を燃料にしています。揮発油で稼働するようにしたところ問題がいろいろ発生してしまって……」
「やはり、燃焼温度ですか? 燃焼室の材料は何を使っています?」
オレたちも悩んでいる問題なので食いつくように聞いてしまった。
「ニッケル合金ですが、燃焼室に至る燃料でローラーベアリングを潤滑・冷却しています。こうすれば混合する燃料も予熱されて点火が容易になりますから」
「おう、熱交換ですね。それは良いアイデアです」
ついつい時間を忘れてハンス氏と話し込んでしまったが、非常に有益だった。さらに彼の知識を補足するためにクウちゃんから現代のジェットエンジンの情報をもらった中に『タービンブレードのセラミックコーティング』という話があった。これは大発見だ。ブレード自体をセラミックで作るのはまだ技術的に難しすぎるがコーティングするのなら今の技術でも出来そうな気がする。さっそくファインセラミックス研究チームに研究依頼しなければ。
感想で、名刺について考えてくださった方、ごめんなさい。
作品中では肩書別の名刺になってしまいました。もちろん、全部併記の名刺もあると思いますが渡せる相手が限られてしまいますので……




