第3話 戦争計画と神様の力
クウちゃん(空狐様だ、念のため)にお願いして、改めて詳しい国力の情報を集めてみてもらったけど米国と日本の国力差が大きすぎる。日本の工業生産力と米国のそれは軽工業で2倍、重工業では10倍以上も差がある。
労働人口は約1.5倍ほどだから、他の要素『使っている機械や方法とか』で数倍の生産力の差がついていることになる……人口は急に増えないから、この時代で一番就労人口が多い農業から、労働人口を移動させてとりあえず倍増させるとする(その分、農業の労働力が減るから食糧生産力は半分くらいに落ちるけど消費量を考えればギリギリ可能なラインだ)
これでようやく一般的な産業はアメリカと同程度になる。鉄鋼業や工業機械などはまだ4、5倍は米国の方が上だけど……さすがに、これ以上生産力を移動させたら国が持たないので、あとは技術や知識でカバーするしかない。
他にも教育や工場、社会インフラの整備などもしないとアンバランスな社会になってしまう。そして、こんな大改革をやっても追いつくには多分10年くらいは時間が必要になる。それまではアメリカとは戦争しないようにして、経済封鎖もされないようにしないといけない……かなり難しい舵取りだ。
次に、工業生産力を高めるため工作機械や新規技術をドイツとかヨーロッパから輸入して、出来れば鉄鋼や石油、希少金属の輸入ルートも確保しておかないと……あーあ、こんなのムリだよ! 第一、オレって日本の首相でも何でも無いんだから。
「どうした? 何を悩んておる?」
突然、頭の中に声が聞こえてきた……これは、クウちゃん。
「どうやったら日本が勝てるようになるか考えているんですけど……とても難しいんです」
「……難しいか。だが、難しいという事は不可能ではない、という事じゃな」
くぅ……、難しくてもなんとかしろ!という無言のプレッシャーが伝わってくる。
「う……まず、日本の国の状態を大転換しなければなりません。あと、関東軍が勝手に戦争に突っ走らないように陸軍を抑えないと」
「なるほどのう……それでいいのか?」
簡単に言うけど国の権力者でもないのに……何か方法があるんだろうか? 神様なら出来なくはないのかも……
「オレには陸軍を抑えるなんてムリに思えるんですが、クウちゃ……空狐様には何か方法があるんですか?」
「わざわざ言い直さなくともよい……日本人ならば、程度の差はあれど我らの力を及ぼすこともできようぞ。他には愁眉の事はないか?」
クウちゃんは言い方が昔風なのでよく分からなけど、オレには実現が難しいことという意味でいいだろうか。
「他にも、ドイツか他の国からいろいろ必要なものを輸入出来るようにしないと……で、それでも国力が上がるまでアメリカから戦争を仕掛けられないようにする必要があります」
「…………」
さすがの神様も、これは無理なのか何も返事がない、と思ったら
「出来なくはないな……しかし、さすがに日本以外の国政を操るには、それ相応の為術が必要になる」
為術って何だろう? なにか難しいことをしなければならないということかな……前に言っていた供え物をしたりするっていうことか? そういえば、供え物って
「そ、それは前に言っていた『命を神様に供え物にして』っていうことですか?」
「……それも、一つの遣り方じゃな」
ちょっと待ってくれ! 難しいとか大変だとかのレベルの話ではなくなってきた……『人の命を捧げてまでしてもやる!』なんて決断がオレにできるわけないじゃないか。それこそ国を背負うような維新の元勲とか偉人のレベルじゃないと、そんな決意を持ってやるなんてこと……と焦っていると
「戦とはそういうものぞ。たとえ幾万の命を散らさせても幾千万を生かしていく道を探り求めていくのが政の常道じゃ……ぬしが出来ぬと言うなら我らが強いて進ませようぞ。幾度となく行ってきたことじゃ」
急にシビアな話になってきた。歴史で習った数々の出来事が、自分が行うべき現実という壁として迫ってきた……何万、何十万という人間の生死の結果をもたらす選択を、オレがしてしまっていいのか……そんな責任は取れない、いや自分でしたくないといっても避けられない無理ヤリでもさせられる世界に足を突っ込んでしまったようだ……オレはとんでもない事を請け負ってしまったと今更ながら気がついた。絶望的な気持ちになっていると、不意に諭すような口調になった空狐様が、
「……お主は少し考え違いをしておるな。お主がするのは救いをもたらす道ぞ。お主がやらねば、無辜なる数多の命が唯、失われていく」
「お主は救いをもたらす希望の魁じゃ。暗闇に目を向けるな。心を開いて世の人々の願いの声を聞くのじゃ……お主の進む先には人々の救いと喜びがあるということを見出すのじゃ!」
◇ ◇ ◇
気がつくと朝日が窓から差し込んでいた……昨日は色々考え続けた挙げ句、仕事場で寝てしまったらしい。そうだな、物事には裏表がある。暗く悲しい面でなく、明るく希望のある面を見るべきだ……行くしかない道ならば、せめて少しでも救いのある結果となれるよう頑張るしかないんだ。うじうじせず出来ることを力いっぱいやっていこう。そう、自分を元気づけて武官事務室から外に出た。




