第29話 水晶の夜を阻止せよ、その3
注意:微おっさんず・ラブ(?)
でも重要な箇所なので、耐性のない方も頑張って読んで下さい(笑)
ポーランドから取って返して、ブラウン・ボベリー社のミハイルさんを訪ねる。と言っても実際には日本にいるのだけど。今度はミハイルさんなので、テンちゃんが霧島さんになるように、ハクちゃんにもオレにそっくりな人物になってもらって、その人物にオレが憑依するということになる(ややこしい)。
「やぁ、時休サン。今回は随分と早く、こちらに来られたのですね……ひょっとして日本では飛行機用のタービンエンジンの開発に成功したとか? そうでなければちょっと考えられない早さです」
……余計なことを勘ぐられてしまった。まあ極秘事項ということで誤魔化しておこう。
「それより、パンツァードラグーンの搭乗者養成課程の方は如何ですか? もう赤井隊長は来ていると思いますが」
「はい、つい先日からですが……とても優秀な方ですね。搭乗者候補生たちにも『どうしたらいいかが直接頭に入ってくるようで、とてもわかり易い』と好評です。
いやそれ、ぜったい念話で直接頭の中に伝えてるだろ! まあいいけど。
「パンツァードラグーンの方は、どれくらい出来上がっているのですか?」
オレはそっちのほうが気になっている
「現在、60機ほどロールアウトしているのですが、なにしろ搭乗者がそこまで増やせないので……あと2、3年はこのままでしょうか……なかなか思い通りのビジネスにはならないようです」
浮かない顔のミハイルさんに、オレは新しい提案を持ってきた。
「実はその事で、ひとつ提案があるのですが……非常にデリケートなお話になるので」
「……では、場所を変えましょう」
ミハイルさんはそういうと例の実験棟のセキュリティエリアにある会議室を用意してくれた。
「さっそくですが、どのようなお話でしょうか?」
「二年くらい後のことですが、御社の傭兵部隊が働ける状況が発生する事件が起こるようです。当事国へのご紹介も致しますので、だいたい半年前には一個旅団分のパンツァードラグーンが稼働できる状態に持っていきたいのですが如何でしょうか……もちろん搭乗者の養成が喫緊の問題となりますので、今以上のご協力を致しますので」
「それは、確かな情報なのですか……いえ、専門家の貴方がおっしゃるのですから確度の高い話なのでしょう。で、どこなのですか、戦場は?」
ミハイルさんは、何かのこだわりを振り払うようにしてそう言った……おそらく、自身の中にある戦争の当事者になることへの禁忌感を押しのけたのだろう。死の商人の世界へようこそ。
「ポーランド……おそらく、ドイツは一年半から二年のうちに、欧州における自らの欲望を隠しきれなくなるはずです……チェコ、オーストリア、ポーランド。その次はフランス、デンマーク、イギリスあるいはソビエト。どこまで広がるか」
「な、なんと……そんな時代が、また訪れてしまうのですか」
ようやく先の大戦の傷が癒えてきたというのに……そういう言葉を彼が飲み込んだのがわかる。でも、オレは言わなければならない。二年前に自分が向き合ったことを、もう一度確認するように。
「ミハイルさん、あなたはその悲劇を抑え込む力を持つんですよ……戦禍を最小限に抑えることも、黙って起こることを見過ごすこともできる。どうするかは、あなた次第です。ただそれを自分の意志で選ぶのは、ごく限られた一部の人にしか許されない……どうしますか?」
「……時休さんは、何とも恐ろしい世界に私を連れてきてくれた。私はこの出会いを感謝で受け入れられるでしょうか」
「……私にその力を授けてくれたのは、ミハイルさんかもしれませんが」
◇ ◇ ◇
「パンツァードラグーン、一個旅団160機および予備機、補助移動車両、故障回収車、兵站車両、戦闘指揮車、そして運搬船舶……そんなところでしょうか」
「あと、人的リソースもあります。準備に必要な費用やあなた方の利益も含めて、いくらになるか教えて下さい。交渉の時に使用します」
「……おそらく莫大な金額になると思いますが?」
「戦争に負ければ、その何倍も必要になるのは明らかですから」
オレはミハイルさんと必要なものを確認しながら打ち合わせを終了する。帰り道、ブラウン・ボベリー社を離れるまで無言で歩く。
「本当に必要になると思っているのですか?」
シロちゃんが頭の中でそう尋ねてくる。
「うん、たぶん……ポーランドで必要でなくても、続く戦いでは必ず必要になる」
「……人間って、どうして戦うんですかね」
「さあ?」
オレはそう答えたけど、知っている。人間は意志の生物だからだ……動物なら負ける戦いはしない。相手の餌になって死んでしまうことはあるけど、それさえも、自分から殺されるわけではない。でも人間は死ぬとわかっていても戦ってしまうことがある……自らの存在意義を消さないために。




