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第23話 早速、山本五十六中将にバレて首輪をつけられる

 ようやく必要だと思える新規技術の研究をスタートさせて一息つけると思ったら、いきなり山本海軍次官から呼び出しが掛かる。

「あちゃ~。ずいぶん早く、見つかっちゃったかなぁ」


 あの時は華子さんに煽られてバレない方に賭けたけど、考えてみればバレないわけがないよな~。さて、どうしたものか……最悪、海軍は懲罰退官で、ジェットエンジンはオレの代わりに永野が上手くやってくれるのを祈るしかないかなぁ。陸軍の研究なんて、まだスタートさせただけなので方向付けをしてやらないと上手く行きそうにないんだけど……こっちも最悪、華子さん頼みでやってもらうしかないか。


 オレは腹をくくって、海軍の呼び出しを受けたことを華子さんに伝え、最悪、尻拭いをお願いするかもしれない(乙女相手に言う言葉じゃないけど!)と言ったところ

「時休殿、勝負どころです。山本次官を説き伏せて来て下さい……こう、下腹部に力を込めて、眉間から相手を射抜くようにして話すといいですよ」

と送り出された。それって霊力で打ち勝つ方法ですか? 負けることなんか許さん!というのを言外に感じる。この人もすっかり強くなられて……まあ、行ってくるか。


 海軍省に着いて、山本五十六次官に会うと、開口一番

「貴様、何者だ!」

と言われた。いや何者だと言われても……神様に転生させられた未来人ですって言っても信じないだろうし。

「種子島時休、技術中佐です」

と答えて直立不動でいると

「いや、そうじゃなくてな」

と一転、話し方が変わり

「まあ、かけてくれ。長い話になるはずだから」

と言われた。この人、どこまで知っているんだろうか……


「まずは、在仏駐在武官の仕事、ご苦労さんだった。何か得るものがあったか?」

と聞かれたので

「はっ、報告書にも書きましたが、航空機の発動機は今後、タービンジェットに変わりますので、本邦においてもこれの研究開発を急ぐ必要があります」

と答えておいたところ

「そうじゃない……貴様、九州に行ってエンジンプラグの会社と何やら新しい研究を立ち上げたそうじゃないか。他にもロ弾の研究所に、中島飛行機の技術者を突っ込んでいるし、陸軍にも何やら粉をかけて始めていることがある様子だな。何を企んでいる?」

と問い詰められた……やっぱりバレてるか。まあヨーロッパのことがバレてないだけマシかも知れない。さて、なんて答えるか……下腹部に力を込めて、眉間から相手を射抜くようにだっけ。


「アメリカとの戦いに負けないようにするためであります!」

「貴様も日米開戦派か?」

急に冷たく吐き捨てるように言う山本次官に対して、

「失礼ですが、閣下はアメリカと戦うつもりはないということでしょうか?」

と食って掛かる。ここはあえて突っかかっていく必要がある。頭の中は逆でも、だ。

「ばかもん! 戦えと言われれば存分に戦うのが軍人だ。たとえ勝つ見込みが無くてもな」

……やっぱり史実と一緒か。その時は『半年間は存分に暴れてみせる』と啖呵を切ったらしいが、その後、負けてしまうのはどうするつもりも無いのか?!

「失礼ですが、閣下は10倍以上の国力の差をどうするつもりですか?!」

「……貴様は、どうにか出来ると言うのか?」

ダメだ……悪い面が出ている。この人のダメなところは、出来なくても痩せ我慢しようとするところだ。

「勝てないなら、足掻くべきです。巨人に延し掛かられて身動き取れなくなる前に、必死に相手の弱点を探し、格好悪くても、勝ちを見つけるための時間稼ぎでも、とにかく負けないために出来ることは何でもやらなければなりません。美しく散ろうなんて考えはクソくらえです」

オレは泥臭くても何とかする努力が必要だというのを強調する。実際、神様に助けられてから、ずっと考え続けたオレのやり方は幾つも努力を重ねて、僅かな可能性を手にしようとするやり方だ。


「……そのための、足掻きか? それでは到底、どうにか出来るとは思えんが?」

今まで何度も机上演習を重ねた結果なのだろう、山本次官には負ける結論しか見えないようだ……でも作戦で勝てないなら、舞台をひっくり返すくらいのことを考えても何とかして欲しい。戦争指導者の役割はそこにあるはずだ。


「中国と南方に手を出さなければ、しばらく対米開戦は避けることが出来ます。ドイツの欧州戦略に引きずり込まれなければ、少なくとも日本が戦う相手を自分で選ぶことが出来ます。10年の間、耐えながら国力と技術を高めれば、今よりは何とかなる目も増えるはずです」

「貴様……やはり可怪(おか)しい。単なる技術中佐の考えることではないだろう。裏で糸を引いているものがいるのか?」

マズイ、変に勘ぐられてしまった。確かに技術士官の発想ではなかったか……少し謙虚な言い方に戻そう。


「私は技術士官です。何としても技術で勝ち目を見つけるために足掻きます。それが認められないなら、罰を受けるだけです。しかし、閣下! 閣下は勝つために、せめて負けないために、諦めず必ず活路を見出して下さい」

「貴様……いいだろう。だが戦うのは俺だけではない。貴様にも引き受けてもらう。否とは言わせんぞ。下がってよし」

あんまり納得はして貰えなかったかもしれなけど詰問はそれで終わりとなった。とにいかく懲罰退官ではなさそうだけど、オレにも引き受けさせるって何? 何かとんでもなく嫌な予感がする……


◇          ◇          ◇


「それは山本次官に勝ったということでしょうか」

オレは帰ってきて華子さんに結果を話したところ、そう聞かれたのだがあれは勝ち負けという基準とは違う気がする。

「さあ、わかりません。救いだったのは懲罰退官ではなかったということですけど、後で何か言われるような予感はひしひしと感じます」

オレは正直に感じたところを答えた。


「そうですか。では時休殿も首を洗って待っている必要がありそうですね」

と少し楽しげに華子さんが返してきた。「も」と言っているのは、北白川宮殿下が宇垣総理に目をつけられて、総理秘書官をすることになったことを言っているのだろう。そしてその結果、華子さんは殿下の今までの仕事の代行をすることなった。今までは上に殿下がいて、その秘書のような立場だった(秘書のほうが実は全体をコントロールしているというのは、どこの組織でもありがちだけど)が、これからは華子さんが自分で矢面に立つことになる。

『少佐』で『代行』だと、そのうち大隊指揮官になるのかな、なんてメガネで小太りな男の姿を思い浮かべていたら『私は戦争が大好きではありませんし、倫敦(ロンドン)を火の海にしたりしませんよ』と言われてしまった……どんまい。


 史実では宇垣内閣は、第一次近衛内閣の前に大命降下され、陸軍内の反対で実現しなかった。しかしこの世界では順序が入れ替わり、近衛内閣の後を引き継ぐことに変わってしまったようだ。そして陸軍内で反対するはずだった石原大佐や中島中将は、すっかり華子さんと通じていて、当然ながら組閣阻止に動くことはなかった。


◇          ◇          ◇


 話しを元に戻すと、山本五十六中将はオレに何をやらせるつもりなのか……現在は司令官ではなく海軍省次官なので参謀本部に入れられることは無さそうだが、海軍省関係だとすると軍務局で組織編成に組み込まれるか艦政本部で技術研究所か。

そんなことを考えていると華子さんがいたずらっ()っぽい言い方で、

「それは時休殿の希望的観測ではないでしょうか……私の見立てだと、山本次官の秘書で博打を打つ時に駒の張り方を聞かれる役回りにされるのではと。それに多分、次官はまだ時休殿を完全に信用していませんね……影でコソコソされるよりは、手元で監視したほうがよいと考えているのかもしれません」

……何その『いたずら小僧を教室の一番前の席にして注意しやすくする』みたいなやり方。しかし残念ながら、華子さんの見立ては当たってしまったようだ。


『次官技術担当秘書官を命ず』

そういった辞令を渡されて困惑しながら、これは一体何をしたらいいんでしょうかと聞いたところ、『次官の訪問先に同行したり、次官の技術的質問に答えたり、次官の要望を実現するために各部署と折衝などするのが役割だ』と教えられた。なんとなく前の世界の会社でやっていた仕事を思い出した……オレはこういう仕事に回されるのが運命なのだろうか。

「しかし、自分にはタービンジェットの研究の仕事があるので」と辞退しようとしたところ、そっちも兼務しろと言われ、『秘書官の方は特に用事がなければ週に一度、報告すればよいから』と言われた。やっぱり監視が主目的なのか?! あと、陸軍研究所の方は見逃してくれるのかと期待したのだけれど、最後に『海陸軍間技術交流部兼務』と書かれていた……いったい幾つ兼務させるつもりなんだ(涙)



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