第22話 残りの技術開発スタート!
華子さんがゲットした中島憲兵司令官の紹介状で、オレはめでたく陸軍科学研究所、先端技術研究監督官になった。やることは次世代の新兵器に役立つ技術を研究するための人や資源を集め開発させること。やったぜ!
早速、オレは大阪帝大の電気通信研究所に行き八木英次氏に会った。あの八木アンテナを発明した人だ。今はハーバード大学から戻って来て無線やマグネトロンの研究をしているはずだ。もちろん八木教授と共に研究した宇田新太郎氏にも協力を依頼する。二人に何をしてもらうかというとレーダーの研究だ。日本は超短波通信などの基礎研究でこのような天才がいたにもかかわらずレーダー技術では後塵を拝し、ただでさえ負けている英米軍との差がさらに大きくなってしまった。
さらに浜松に行って高柳健次郎氏をスカウトする。日本で初めてテレビを作った人物だ。テレビ技術は凄いものだし今後の世界にはぜひ必要なものだが、彼にはもっと広い目で技術をリードしてほしい。何をやってほしいかというと高周波回路技術だ。電波技術だけでなく高周波を扱える電気回路技術を高めないとテレビもレーダーも、そしてオレが本当に狙っている誘導兵器も成功に至れない。
そして、もうひとり。中島飛行機の新入社員(!)の糸川英夫氏をスカウトする。彼はのちに日本のロケット開発の父と呼ばれる人だ……今は24歳だけど。えっ、若い? いんだよそんなこたぁ。飛行機関係の技術者は少ないといっても代わりはいるけれど、ロケットが分かりそうな奴なんて他にいないんだよ。幸い、まだペーペーなので技術士官のオレの名で中島飛行機から出向扱いにしてもらった。まだ若いだけあって柔軟というか『飛行機がもっと速くなったら、どうなると思う?』というひと言に食いついてきて、ジェットエンジンの話やら、さらに高速のロケットの話をしたら目をキラキラさせて『ぜひやらせてください!』と言い出した……ふっ、ちょろいぜ。
彼には海軍技術研究所で、ロ弾(海軍のロケット弾)の共同研究をしてもらいながら長距離、誘導弾の基礎を考えてもらう。
さて、ここまではまだ簡単なんだが、次は基礎技術の研究の話だ。基礎研究は一般的に脚が長く、役に立つものが出来るかどうかもわからない場合が多い。これから目指すものも、史実では戦後になって実現したもの達だ……でも、これがものにできれば間違いなく日本は他にない武器が作れる。ってかこれがないと勝てないだろう。
まずは森村財閥の七代目、森村 開作氏に会いに行く。森村財閥は東洋陶器(今のTOTO)や日本碍子(電力用がいしのトップ企業)、日本特殊陶業(エンジンのスパークプラグの世界トップシェア企業)を傘下に持つ、まさに陶器の牙城といったところだ。オレは開作氏にファインセラミックス技術についての研究を熱く語る。彼は温厚そうだがオレの話を黙って聞きつつ、時々値踏みするような視線を向けてくる。そして最後に『私では判断しかねるところがあるので江副を呼びましょう』と言って、また江副氏にオレのやりたいことを一から話すことになった。
江副孫右衛門氏はいかにもたたき上げの職人といった四角いガッチリとした風貌と丸メガネの人で、一見恐そうだが打てば響く相槌が返ってくる
「ほう、面白れぇことを考えるんだなぁ」とか
「いや、陶器っていうのはそんなもんじゃあ……でも、まてよ」
とか。さっきの開作氏よりは余程話しやすい。
結局、『まだ海のものとも山のものともつかねぇが、一緒にやらせてもらうなら精いっぱい協力させてもらうぜ』と言質をもらうことができた。
最後に開作氏が『それでは後ほど事業計画書を持っていらしてください。それにより弊社の出資計画を検討させていただきます』と言われた。銀行家かよと思ったら、本当に三菱銀行監査役というバリバリの現役銀行家だった。
帰り際に江副氏が『海軍さんには点火プラグを無理言って買ってもらったからな。ちったぁ協力しねえとなぁ』と言っていた。新製品で買い手のつかなかった点火プラグ300個を山本五十六航空本部長(当時)に直談判して買わせた人らしい(汗)
最後に残ったのは増幅素子だ。通信機やレーダーなどの電子回路は、この時代では真空管を使って実現されている。しかし真空管は寿命が短いし場所も取る。特にコンピューターのように膨大な数を使おうとすると動いている時間より、修理している時間の方が長い状態になってしまう。だいたい千個を超えると動かしている時間と修理している時間が同じくらいになってしまうようだ。それを真空管式電子計算機は17000本、暗号解読機でも1600本から2700本くらい使うのだからたまらない。トランジスターが発明されればこういった問題は解決するのだが、残念ながらまだ十年も先の話だ。また対空砲のVT信管などにも発射時の衝撃で壊れないよう特別に工夫した真空管が使われている。オレはこれらのものを何とか真空管ではなく別のもので実現できないかと考えている。トランジスターほど小型化できなくてもいいから寿命はもっと長いものが欲しいのだ。
とはいえ、真空管とトランジスターは動作原理が全然違う。トランジスターは数オングストロームという微小サイズでしか起こらない原理を使っているのであのサイズでないと作れない。じゃあ逆に真空管を固体で実現できないか……これも熱電子放出という原理を使うので難しい。
とにかく新しい増幅素子の研究を誰かにして欲しいのだが、これがまるっきり当てが見つからない。この時代は日本では外国で作られた真空管を製造するのがせいぜいで、自分たちで設計開発している人は見当たらない……もう少し後になると出てくるみたいだが。
困った時の神頼みでクウちゃんに、誰かいないか聞いてみたら誰も見当たらないと言われてしまった。いや外国にはいたけど。ショックレーとか……それ、まさにトランジスターを発明する本人じゃん。アメリカのベル研で『固体真空管』として研究チームが発足するのは来年だし……他を何とか探してもらおうとすると『増幅素子でないとダメなのか?』と言われた。それってどういう意味? と問い直すと、『少し後の世代なら日本独自の論理素子を作ったものがおるぞ』と言われた。論理素子……つまりコンピューターが作れるのか。たしかにコンピューターが作れるならそれで問題ないかもしれない。
最終的に高橋 秀俊という人に行きつく。彼は今22歳で帝大理学部助手になったところだ。後に日本のコンピューターの先駆けで、後藤俊一氏と共に『パラメトロン』という磁気共振を使った素子で電子計算機を作り出す人だ。でもこの時代は強誘電体などの物理研究をしている。彼を中嶋 章というデジタル回路(この当時はスイッチング理論と言われていた)の研究をしている男と引き合わせておこう……うまくシンギュラリティ(技術的特異点、つまり新しい発明)が生まれてくれないかと願いながら。




