第2話 駐在武官とお稲荷様
あれからオレは、使命達成(日本の国が攻撃されずに戦争を終結)させたら、元の時代に戻してくれるという約束をゲットし、達成のために神使様にいろいろ手伝ってもらう約束で(『ノートパソコンでインターネットを見れるようにして欲しい』とお願いしたら『時空を超えて繋げられるわけがなかろう!』と怒られた。イージス艦は良くてインターネットはダメな理由がわからない、とグチグチ文句を言っていたら、必要なら我らに願えば教えてやるから諦めろと言われた……まあこれで、お約束の『現代知識を使った歴史の先回り』ができそうなのでインターネットは諦めることにした)、在仏海軍駐在武官の種子島中佐としてパリの在外武官事務所に戻ってきた。
後から知ったことだけど、在外武官は大使に次いで偉い存在で、公式行事に参加したり日本から来た人を世話したりする。一方で情報や必要な機材など任地国で入手して日本に送ったりといろいろ大変な仕事らしい。幸運なことに在仏武官事務所には生き字引と呼ばれる補佐官がいて、オレが頑張らなくても万事うまく回るようになっていた。ということで、オレは目的のタービンエンジンの調査をして日本に報告書を上げればいいことになっている。ラッキー!
◇ ◇ ◇
「中佐殿、明日はフランス航空部隊の観空式典に参加する予定になっていますがよろしいですか」
「うん、他に急ぎの要件はないからいいよ」
「では朝食後、お車を用意しておきます」
例のよく出来る補佐官が明日のスケジュールを確認してきた。日本は昔からフランス、ドイツ、イギリスなど欧米列強から、いろいろ学びながら軍事力を強化してきたが、この頃はフランスからは学ぶものは少なくなってきて、陸軍はドイツ、海軍はイギリス、アメリカに駐在するのがエリートで、お偉いさんの用事もそっちに集中している。フランスは、はっきり言って閑職らしい。
とはいえ欧州中央に位置するので、いろいろな情報を集めるのに便利だし、これを利用しない手はない。今のうちにコネやら技術やらを集めて、日本に帰ったらそれを使って一気に開発ブーストをかけたいなぁと考えている……それにしても、大戦勃発まであと四年か。リアルウォーゲームをしなきゃならない身としてはとても時間が足りない。日本は生産力、技術力、戦力、どれをとっても心もとないからなぁ、なんとか勝てないまでも、負けない作戦を作り出さないと……昔読んだ『坂の上の雲』で日露戦争の戦争計画で悩む児玉源太郎にでもなった気分だ。ちなみに彼の前に日露戦争の計画立案者だった人は、二代続けて過労で死亡している(涙)。
やっぱ、中国戦線は早期撤退して、東南アジアの資源地帯を押さえに行くか……この辺は第二次大戦のシミュレーションゲームでは常套手段だ。とはいえ東南アジアの資源地帯に手を出したらアメリカが宣戦布告してくるのは明らかだ。アメリカの宣戦布告を遅らせて、その間に生産力増強と新兵器開発を……でも、そんな悠長なことをしていたら中国で泥沼に引き込まれて戻れなくなるのは火を見るより明らかだし、だからといって関東軍の暴走を海軍中佐が止めるなんて絶対出来ないし。頭を抱えているとテンちゃん(めちゃくちゃ気安そうに言っているけど、神使様の天狐のことだ。頭の中で勝手にそういうあだ名で呼んでいたらすぐにバレた……こいつら他人の考えを読めるんだった。それからはもう開き直って普通に『テンちゃん』と呼んでいる)がやってきた。
「ご機嫌いかが、たーちゃん?」
って言われた。何、そのジャングルの勇者。って頭の中で突っ込んだら
「ジャングルの勇者なの?」
って逆に聞かれた。もうややこしいから、この話はヤメ!
「なにか御用ですか?」
少し邪険に答えると、
「あら、ご機嫌斜め?」
と顔を覗き込んでくる。なんか行動が、年下男をからかう女性っていう感じで対応に困る……実際、天狐って三千歳くらいだから年上には間違いないけど。
「今後のことを考えているんです、いろいろと。用がないなら邪魔しないでほしいんですけど」
わざと顔を背けて、そう言うと。わざわざ背けた方に移動してきて、
「少しお願いがあるんだけどな……聞いてもらえる?」
と微笑みかけてくる。絶対狙っているだろ、これ!
オレだって子供じゃないんだぞ(種子島氏は奥さんがいる。日本にだけど)と虚勢を張って向き合うと
「あら残念……」と言ってようやく本題に入ってくれた。
「私たちがこちらに来やすいように、この建物に神社を置いて欲しいんだけど」
「神社?」
「ええ、稲荷神社♡」
「……神棚がありますから、あそこに稲荷神社のお札を祀るのではダメですか?」
「お札だとねぇ、弱いのよね。こう、ど~んと鳥居を作って、両脇に御使いを飾ってあるほうが……」
「……それって何かいいことがあるのですか? あんまり突飛なことをやると頭がおかしくなったと思われて、本国に強制送還なんてこともあるかもしれませんけど?」
と警戒してみた。実際、何もせずに日本に強制送還なんてかっこ悪い……いや中国情勢が泥沼化しないようにするためには日本にいた方がいいのか……いやダメだ。強制送還されたなんて不名誉なヤツの話は誰も聞いてくれるはずがない。
「御力が強力に発揮できるからねぇ、かなり出来ることが広がるわ。具体的にはサイヤ人がスーパーサイヤ人になるくらい?」
……なんか例えが戦後文化に毒されている気がするけど、藁にもすがりたい今のオレに『スーパーサイヤ人の魅力』に抗う力など、あるはずもなかった。
すぐに事務室の一つを武官権限で押さえて、鳥居と小さな社を立てて狛犬ならぬ、狛狐の石像も設置した。
「いいわね……できたら、毎朝お水と盛塩をして油揚げも供えると完璧なんだけど」
「どうやって手に入れるんです、そんなもん」
オレがジト目でテンちゃんを見て抵抗する(いや、鳥居と社と石像を調達してきたヤツに言われたくはないだろうけど)、がテンちゃんは気にもせず
「……まあ、努力目標ね♡」
と言って鼻歌でも唄いそうな感じで、ポン!と消えていった。
テンちゃんが帰ると、また頭の中に今後の準備の件が戻ってきて、気持ちがげんなりした……でも、負けちゃダメだ。やってやるぜ! 21世紀のゲームマニアをなめるんじゃねぇぞ。鬼畜米英、首を洗って待っていやがれ(笑)
そう自分に気合を入れて、おれは5サンチーム(フランスの穴開き硬貨)をお賽銭にして、神社にパン、パンと手を打って頭を下げた。




