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第17話 vsフォルクスワーゲン KdF(但しプロトタイプ)

さて、協力してくれる人は見つかったが、肝心の工場を用意しないと……振り出しに戻る感じで、再びブラウン・ボベリー社のミハイル氏の所に来ている。

「というわけで、リングホッフェル=タトラのハンス・レドヴィンカさんに協力してもらえることになったんですけど、製造する工場を別に用意しなければならなくて」

「うーん、工場ですか……今は景気があまり良くないですから、探せばあるとおもいますが。あ、ドイツは別ですよ。あそこは4カ年計画で景気が良いですから」

となると、ドイツの周辺の国か……そうすると、やっぱりチェコかポーランドか。

「チェコも、ドイツの経済に引きずられて景気が上向いてますからねぇ」

ミハイル氏に先回りして言われてしまった。最近、オレの周りの人はオレの考えることを先回りしすぎる……はっ、まさかミハイル氏も霊能力者なのか?! そんなバカなことを考えていたが、これについては読めていなかったようなのでミハイル氏は霊能力者ではないようだ。

「そうするとポーランドですかね……」

「そうですねぇ……ただ、ポーランドは基本的に農業国で、他も鉱工業や化学系なので自動車を生産するような工場はないと思います」

がーん、まさかそんな事が……オレって、まだまだヨーロッパの各国の事情が分かってなかった。そう反省しながらも結局その日は、それ以上話が進まずミハイル氏のところから帰ってきた。この話をテンちゃんに伝えた後、どうしようかと考え続けたがいい考えは浮かんで来なかった。ところが一週間ほどしたある日、テンちゃんが物凄い勢いで念話を送ってきた。


「たーくん、やったわ! これで私たちチェコに工場を作れるわ」

いったい何ごとが起きたのかと、落ち着いて説明してもらうと、あのコンペに無理やり参加させた会社の社長とかけあって、霧島コンツェルンとの合弁会社を作ることに同意させたらしい。

おぅ、最近、霧島さんが本当にやり手のビジネスウーマンになってきて眩しい。


 ドイツでは周辺国に会社や工場を作って、そこで生産させるのはよくあるやり方で(そうやってベルサイユ条約下の軍備制限条項を掻い潜って、軍需品を生産してきたらしい)チェコで生産工場を用意するのも手慣れたことだったらしい。しかもポルシェ側からエンジンとミッションを供給してもらえるのも話がついた(実はポルシェでもシャーシやパッケージの問題でいろいろ手間取っていたのであって、エンジンやミッションはとっくに出来上がっているらしい。逆にこれを使ってもらわないと彼らとしては何もなくなってしまうので向こうから話を持ちかけてきたらしい)。したがって、こちらはタトラのシャーシにポルシェのエンジンとミッションを組み込んで、ボティの組み立てをすれば、本当に一連の工程が出来る目処がたってきた。素晴らしい、もう一息だ!(でも、あのレドヴィンカ氏がそんな手抜きを許すはずもなく、きっちり全体の再設計に付き合わされたのは後日談だ)


 さて、ボディをどうしようか……オレはクウちゃんに調べてもらったトラバントのボディ加工の資料を見ながら、この時代で作るにはどうしたらいいかを考えている。

基本的には木綿材(木綿の生産時の廃棄物や再生不能となった短綿を合成したもの)とフェノール樹脂を積層化した繊維を、ヒートプレスして成形し冷却することで硬化させる。材料も工程も特別なものはなく、成形用のプレス型などを用意すればどこでもできそうだ。後は労働力の確保だが、この件についてテンちゃんから言われていることがある。

「この会社で、できるだけ多くの迫害されているユダヤ人を救いましょう。チェコだけでなくドイツの人たちも集められれば、悲惨な目にあう人をできるだけ少なく出来るでしょう」

……それは、まあその通りだけどナチスが黙って見過ごすとは思えない。

「最初は、普通にしておいたほうがいいと思うよ。そして後から徐々に雇っていけばいいんじゃないかな? まだ強制収容所送りとか始まっていないし……」

「始まっちゃたら救うのが大変じゃないですか! その時は、どうせ別の手を打つ必要があるでしょうけど」

それでも結局、最初は普通に始めるのは納得してもらえた。『他にもいろいろやるからいっか……』と不穏なことを言っていたけど。


◇          ◇          ◇


 最終的に、プラハ郊外の倉庫だった場所を改造し、我がK.BROP社(単に霧島、ブラウン・ボベリー、リングホッフェル=タトラ、オペル、ポルシェをそれっぽく並べただけだけど)がスタートした。

 とはいえ、最初は10名程度のこじんまりした人員でボディの製造やら組み立ての検証からだ。ポルシェとタトラから供給してもらったエンジンとシャーシを中心にオペルから紹介してもらった各種部品を組み付ける。この辺はタトラから来てもらったレドヴィンカさんの部下とオペルの下請けの部品会社の人を中心にやってもらう。で、肝心のボティの製造工程を、導入した大型プレス機の会社と新しく雇ったフェノール樹脂加工の経験がある社員に立ち上げてもらいながら、ブラウン・ボベリー社の関連会社の設計事務所にボティの詳細設計を依頼し、部品金型を作る。なんだかんだで結構時間が掛かってしまった。それでもタトラやオペルの人たちからは信じられない早さだと言われたが。


 こうして、ようやく試作車が出来上がり運搬とテストを兼ねてドイツまでドライブすることになった。一台目はオペルから来ている社員が道案内を兼ねて運転する。もう一台はハンス・レドヴィンカさん自ら、運転したいと申し出があり、そして最後の一台はオレが助手席に霧島さんを乗せて運転していくことになった。ちなみにオレはドイツの自動車免許は持っていない。外交官特権があるから逮捕されないけど。

プラハ、ベルリン間はだいたい360kmくらいの距離でアウトバーンを通れば3時間半で行ける。でもこの時代はまだA13(ベルリン、ドレスデン間のアウトバーン)とか出来ていないので普通の道を通らなければならない(涙)。オレはてっきりドレスデンで一泊して二日掛かりで行くのかと思っていたが、レドヴィンカさんが飛ばす飛ばす、先導していたオペルの人がぶっちぎられたので、慌てて彼もフルスピードで追いかけ始め、二人に置いていかれたら道のわからないオレも必死で二人を追いかけた。隣に乗っている霧島さんはいい気なもので高速ドライブを思いっきり楽しんでいたが、オレは自分で運転しながら生きた心地がしなかった(考えたら霧島さんは死んでも大丈夫なんだ。ずるい!)。

 そして全行程を6時間あまりで走り抜け、その日のうちにベルリン郊外のブランデンブルグ工場に着き、翌日からアゼス(自動車交通実験道路)に持ち込まれてオペルとポルシェの社員がテストを始めた。


「しかし、このコースは我々の車には不利だよな」

アゼスは9kmのストレートと両端のヘアピンカーブという単純なコースで、レースカーのような超高速車が向いているコースだ。アウトバーン計画の実験コースとして作られたそうだけど、どれだけ高速指向なんだよ、アウトバーン!

それでも最高速度120km/hを記録し、ヘアピンカーブでも高い剛性を持つバックボーン・フレームは破綻をきたすことなく耐えきった。ポルシェチームはいろいろ問題点を指摘して自分たちが開発に時間が掛かっている理由の正当化をしようとしたらしいが、そうはいかず残念そうだった。そして、さらに彼らを悔しがらせたのは彼らの量産試作のV3シリーズは最高速度110km/hまでしか出せなかったことだ。なぜ同じポルシェから供給されたエンジンを使っているのに最高速に差が出たかと言うと、V3は車体に対してエンジンが非力なので最高速になるまで時間がかかるらしい(直線、9kmのコースではそこまで出せない)一方で我々の車は非力なエンジンの欠点を軽い車体が補って、加速性でまさっていた。素人が作った会社による車としては考えられないだろうが、我々にはこの時代の自動車設計の天才エンジニアたるレドヴィンカ氏がいるからこその成果だろう。本当は我々の車には、大衆車向きでない乗り心地とか、衝突時の安全性とかダメなところは多々あるのだが、教えてやる必要はないので黙っていた(笑)


 こうして我々のフォルクスワーゲン・ツァイト(本当はJungfrau(ユングフラウ) Zeit(ツァイト)という名前なのだが長いので、単にツァイトと呼ばれる。なぜこんな名前を付けたかは……なんとなくデザインの元にした車の雰囲気を感じられるようにしたいと思ったからだ。でも表向きはタトラを真似して山の名前を付けましたと言っている)は、量産に向けて大きく前進した。


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