第1話 海外旅行は時間跳躍オプション付き
思いつきで書き直しているので、前後がつながらないところがあったらゴメンナサイ。
あと、更新も不定期です。
「はぁ。これでようやく目的地に着けるか」
オレは日本のあるゲーム会社の冴えない中堅社員。会社も何億円もかけて話題作をつくるような大手ではなく、地味なマニア受けのシミュレーションゲームを作り続ける弱小会社だ。昔から好きだった戦争物のゲーム会社へ就職活動の記念にエントリーシートを出してみたのが縁で、結局そこに就職してしまった。
とはいえ、実際の仕事は趣味とはまったく別の資料集めやデータのチェック、はては遅れている担当の尻叩きまでなんでもやる、いわゆるアシスタントディレクター。地味で手間のかかることの連続でストレスばかりが溜まっていってしまう仕事だ。まあゲーム会社だからって毎日ゲームしながら給料がもらえるとは思っていなかったけど。
で、担当のゲーム開発が終わったタイミングでストレス解消のため、なけなしのボーナスと休暇を突っ込んで、パリで開催されるゲームフェスに参加しようと思い立ったのが1ヶ月前。会社でうっかりこの話をしたら『どうせ行くなら仕事に役立てろ』と、わずかばかりの餞別(取材費ともいう)と取材リストを渡された。おかげでヨーロッパの地方都市ばかり(インターネットでも情報が取れないような所なのだから、マイナーなのは”お察し”だけど)いくつも立ち寄るはめになり、出来上がったのは大半がまともにホテルにも泊まらない弾丸ツアー。旅行会社に任せたら絶対ムリと言われるような旅行プランになってしまった。
「あと4時間くらいでパリか。駅に着いたら会場まで歩くから、少しは元気を復活させとかないと……」オレは他の乗客がいないのを幸い、向かいの席に足を伸ばすと帽子を深く被り仮眠することにした。
列車は郊外というより山と峡谷を突っ切っているようで、街や外の光もまったく見えない。ただレールの上を走る音だけが単調に繰り返されていた……と、突然警笛が『ピーーーーー』と強く引くように鳴り響き、身体全体がぐっと持っていかれるような衝撃を受けた。車内灯が二度、三度明滅したかと思うとそのまま消えてしまい、身体がふわっ浮いたような感じが加わり、ジェットコースターで急降下するような嫌な感覚を感じた。
「「「キャー!」」」
他の車両から乗客たちの悲鳴が聞こえてくる。この車両からじゃないのはオレ以外に乗客がいないからだ(オレも顔を引きつらせて、それどころじゃない)
しかし、いつまでたっても落下している感じは続き、いつの間にか悲鳴も聞こえなくなってしまった。
『なんとか間に合ったようだな』
『うむ。これで何とかなるかもしれん……』
そしてその代わり、近くでわりと普通にしゃべっている声が聞こえてきた。
「いったいどうなってるんだ?」
オレは声の主たちに向かって、よく考えもせず声をかけていた。
「おう、おぬしこの状況のわりには剛気じゃの。それでこそ我等の見込んだ者じゃ」
「???」
何を言っているんだか意味がわからない言葉が返ってきた。なんだこの人たち??
「状況がわかっておらぬか……ならば教えて進ぜよう。この列車は今、まさに事故を起こして谷底へと真っ逆さまに落ちている最中なのじゃ」
「な、何だってぇ!!!……じゃあこのまま、死んじゃうのかっ!?」
オレがびっくりして声を荒げると、
「いや大丈夫じゃ。おぬしは我々が助けたからな。すぐにパリの家に帰ることができるぞ」
「ああ、よかった。……ってか家? オレはパリに家なんてないけど。……ホテルは着いてから探す予定だし。っていうか、あなた達は誰?」
少し冷静になったオレは、浮かんできた疑問を声に出していた。いつの間にか落下する感覚もなくなり、周囲は暗がりというより濃い霧に包まれているような感じになっていた。
やがて目が慣れてきたのか、近くで話している人たちの周りに薄ぼんやりした光が浮かんでいるのが見えた。
「あなた達は……?」
目を凝らして見ていると光はゆらゆらしながら彼らの姿を映し出していく……頭の両側に立つ大きな尖った耳。眼光は鋭いが細く釣り上がった目。おまけに口が大きく裂け、牙が見えている。
「ひっ! お、お化けぇ!!!!!!!!!!」
「失礼な! 俺達は由緒正しき五狐神だぞ」
「ゴコシン?」
「(しっ、まだ名乗るのは早いわよ)」
「とにかく、そこいらの下級霊と俺達を一緒にするな」
仲間同士で言い合いをしているようだが、オレにはそれを聞いている余裕なんてなかった。
「お、おた、おたっ、お助けえー!」
「だからもう助けてるつってるだろうが」
「このひとの言っているのはそういう意味ではないわよ。とにかく、落ち着かせて話を聞いてもらわなくては……」
オレはゴコシンという神様に取り囲まれて、強制的に落ちつかせる咒を掛けられて状況について教えられた。それによると、オレは列車事故で死んでしまうところを神様に助けられた……もちろん助けたのは理由があって、神様はオレに果たさせたい使命があるかららしい。しがない会社員のオレにそんなもんがあったなんて思いもよらなかったけど。
「そなたは我々と、その大御神、さらに係累たる子々孫々の安住の地たる大八州を滅ぼそうとする憎き者どもを懲らしめ、調伏撃滅して久年安寧、富国繁栄を確かなものとして貰わねばならぬ……」
言い回しが難しくてよく分からないけど、とにかく神様たちに敵対するものをやっつけろということらしい。これは神様に召喚されて世界のために戦うってヤツですね。ゲームニクワシイカラ、ヨクシッテルヨ…………うそ。信じられるかよ、そんなこと! でも目の前にいる人(いや、神様)たちは、どう見ても普通じゃない存在だし、怒らせたら何をされるかわからないので、とにかく話を合わせることにした。
「そ、そうですか。で、そのやっつける相手はどんなやつですか? オレも命を救ってもらった手前、神様のために頑張って闘おうと思いますけど、できたら勝ちやすいように武器とか能力とか与えてもらえるとうれしいんですけど」
すごく遠回しにチートとか要求しながら、相手の情報を聞いてみた。
「うむ、良い心がけだ。当然、我々もそなたに助力するつもりじゃ。して相手じゃが、我々から遥か大海原の向う側に棲む亜米利加なる国の者共ぞ。彼奴らは程なく我らが国を攻め立て、妖しき炎をもって焼き尽くし、亡きものにせんと企ておるのじゃ……何、我らとて坐して事の推移を見守るつもりはない、」
「ちょ、ストップ。待って下さい! 戦う相手ってアメリカ? 国同士の戦争の話ですか?」
「おう、その通りじゃ。理解が早くて助かる。そなたには日本を亜米利加に勝たせるために尽力してもらいたいのじゃ!」
「無理、無理、無理! 勝てるわけないじゃないですか。だって基本能力10倍のアメリカですよ!!」
このへんは仕事の知識でよく知っている。基礎パラメータが他の国とまったく違うのだ。しかも普通はゲームバランスをとるために弱点とかあるんだけど、こいつら(アメリカのことだ)弱点がない。せいぜいゲーム初期では孤立主義の傾向があるくらいだ。だからゲームに勝つセオリーとして『アメリカを味方にできないならなるべく関わらないようにしろ』って言われてるくらいだ……あれ? ちょっと待て。いくらなんでもアメリカと戦おうなんて無謀ことは今の日本では考えないよな。唯一、戦ったのは第二次世界大戦のときだけど……ま、まさかぁ?! さっきとは別の種類の動揺が頭の中を駆け巡る。
「つ、つかぬことを伺いますが、今、西暦2020年ですよね?」
「今は皇紀二千五百九十五年じゃな」
「コウキ? 『こうき』って??」
しばらく考えた後、西暦でも和暦でもない皇紀だっていうことに思いついて
「(……えーと、どう計算すればいいんだ?)」
そんな事を考えていると、
「おぬしの使っている暦では、六百六十を引いて、千九百三十五年かの」
「せん、きゅうひゃく、さんじゅう、ご、ねん?」
「うむ、そうじゃ」
1935年……ひぇっ、マジで戦争中の、いや戦争前の日本だ!!!
「いや、ここは日本ではないぞ。欧州の仏蘭西じゃ。おぬしは駐在武官として巴里に来た種子島 時休に成り代わってもらったからな」
あくまで冷静に答え続ける神様。一方オレは、
「(フランスには来ているんだ……ってか種子島 時休って誰?)」
なんて考えていた。でもオレは頭の中で思っているだけで声に出したわけではないのに普通に会話が進んでいることの異常さは気がついてなかった。
「これを見よ」
そういって差し出されたのは、かなり古臭い手帳? いやパスポートか。中には軍服を着た厳しい男の写真があり、名前の欄には種子島 時休と書かれていた。
「そして、これがおぬしの顔じゃ」
そう言って、今度は手鏡を渡された。言われるままに自分の顔を鏡で見てみると、さっきの写真と同じ顔が確かに鏡の中に……若干フニャっとして情けなくなっているけど。
「おぬしは海軍の仕事で、瑞西のタービンエンジンの調査をするために巴里に来た。そして二年後、日本に帰国しジェットエンジンを作る事になっている……前は遅きに失して戦局を覆すには至らなんだが今度は使命を早く知った故、必ずや起死回生の新兵器で敵を殲滅してくれると信ずる」
……ああ、ジェットエンジンを作った人かぁ。その時、ようやくオレは種子島という人物に思い当たった。なるほど、ジェット戦闘機をもっと早く作れば、B29から日本を守れるかもしれない……だけど、生産力が段違いだから結局アメリカに数で圧倒されてしまうよな……もっと日本の生産力を高めて、必要な分野に力を集中して……ついつい、いつものシミュレーションゲームの戦略のつもりで考えを巡らせていたら、
「うむ、それじゃ。おぬしなら、そのように日本がどうやったら勝てるか思いつけると考えた我らの判断に誤りはないようじゃな。これは今までの者たちには出来なんだ事じゃ」
と言い出した。……『今までの者たちには』ってどういうこと? 今まで何回もこんな事を繰り返してきたんだろうか? それに、いったいどんな人を今まで連れてきたんだろう?
そう思っていたら、例によって口に出す前に
「本邦随一の戦上手で死後、軍神と讃えられた者がいたのう」
「ああ、使命を伝えたら涙を流して『やらせて下さい! 必ずや皇国の運命は吾輩が切り開いてみせます』って言ってた人ね……まわりがついて来れなくて負けちゃったけど」
「あと、『同じ軍人でも俺たちは日本人すべての”盾”なんだよ』とか理屈っぽいことを言い始めた者もいたな」
「絶対、勝てそうな船ごと連れてきてやったのになあ」
神様同士でそんな感想を話し始めていた……何、この神様。オレは呆れながら『でもあの話だと最終的にアメリカと講和できたはずだけど』と余計なことを考えていると
「それがのう、大統領に騙されてな。最後は証拠隠滅のため無条件降伏すら認められず手酷い目にあった」
とぶっちゃけた。ほんとにもう軍神やらイージス艦やら、幅広く何んでも試してきていたみたいだ。神様の今までの行動を知って、だんだん恐ろしく思う気持ちが薄れてきたのか、オレはハードルを下げられないか神様と交渉してみることにした。
「ところで話を戻しますが、アメリカにはどうしても勝たないとダメですか? 上手く話をつけて講和に持ち込めれば……」
「前に騙されておるからのう、あの男は信用できんぞ」
……まあ一度、騙されているとそうなるよね。でもここで納得しちゃうと変わらないので粘ってみる。
「まあ、そうおっしゃらず……こっちが本国の戦力を持ったままなら、だまし討ちのようなことは出来ないでしょうし。日本を爆撃させずに戦争を終結できればOKっていうことでどうでしょうか?」
「……詮方ない、それで手を打とう。おぬしは日本を守り切り、亜米利加との戦を終わらせる使命を果たしてくれ。期待しておるぞ」
ようやく妥協点を見出すことができた。これでも成し遂げるのはかなり難しい勝利条件だと思うけど……あとは神様の力で、こっちが有利になる方法を手に入れないと……そのためには、この神様がどんな神様で何が出来るのか教えてもらわないといけないな。
「それと貴方は、どんな神様か詳しく教えてもらえますか? それによって戦い方も変わるかもしれませんし」
……詳しく説明してもらった結果、この神様は日本で最もたくさんの神社を持つ稲荷大神に仕える神使様達で、一番、年上そうで、割とオレに好意的に話をしてくれていたのが空狐さん。次は女性の声で話していた天狐さん、ケンカっ早そうな男っぽい話し方だったのが地狐さんで、白狐さんと赤狐さんは会話には参加していなかった。そしてみんなで五狐神というらしい。
そして使える力は神通力! 相手の心の中を見抜いたり(さっきから声を出さなくても会話が進んていたのは、この能力らしい)、遠い場所にいる人に連絡をとったり、どのような性質の人か見抜いたり、いろいろな人に化けたり(おお、狐っぽい)、化かしたり、あるいは普通の人間より腕力が強かったり、数人に分身したりできるらしい。でもこれだとちょっと近代戦に勝つ切り札としてはなぁ……多くの人を操ったり、未来のものを持ってきたりは出来ないんですか(前にイージス艦を持ってきたんでしょう?)と聞いたみたら『そういうことは、より上の神様にお願いして了承して貰わないとダメ』らしい。それに大きな力を使うには、それに見合う『捧げもの』が必要だとのこと。お備えか何かかなと思っていると、
「神への供物は命にきまっておろう」と言われた。それって人身御供!? 怖すぎ!
そんなこんなで、ともかくもオレは神様に呼ばれて昔の人の代わりにアメリカに負けないように戦うことになった。




