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ソフィア見つかる


休暇が終わり、高等部2年目になったソフィアには、新しい友人ができた。クロエとユーリアである。2人とは、エメルダ先輩の紹介で知り合った。


あの鞄は、まずは大量生産せずに、個人で注文を受け、それぞれの女性に合わせて調整して販売することになった。職業婦人か学生でもない限り、大きな鞄を持ち歩く淑女はいないからだ。


二人とは、エメルダ様のお茶会で知り合った。二人は、エメルダ先輩に贈った鞄を気に入り、ミシェルを試作品を紹介しているうちに仲良くなった。そして、休み明けに、ユーリアとクロエは、揃って魔道具の会に入会してきた。


2人はニックと同じ学年で、ニックの悩みの種である強力なライバルとはユーリアだった。仲良くできるか心配したが、一緒に過ごすうちにニックも慣れて軽口をたたくようになった。


従姉妹で、幼なじみのふたりはとても仲が良い。クロエはあのジョシュア先輩の妹で、ユーリアは東に領地のある子爵家の娘だった。


「幼馴染と、ずっと仲が良いだなんてうらやましいわ。」


「私の実家は王都から遠いので、学園に入学してからは、ずっとクロエの家にお世話になってるの。」


「いつも仲良いわけじぁないですよ、喧嘩もたくさんします。同じ年だと比べらることが多くて嫌なの。」


「喧嘩したら、どうやって仲良くなるの?」


「ソフィア先輩は一人っ子ですか?」


「6歳と7歳の弟がいるわ。」


「兄弟喧嘩とかしてませんか?」


「二人はよく取っ組みあいの喧嘩してるわ。」


「私たちもあんな感じです。お互い毒を吐いて、たまには手も足も出るんですけど、あとはすっきりするんです。」


「ユーリアは気が強くて絶対に謝らないから、大人な私がいつも最初に折れてあげるんです。」


「違うわよ。クロエがいつもめそめそ泣き出すから、仕方なく私が謝るのよ。ジョシュアだって、クロエの嘘泣きが始まったって呆れるじゃない。」


2人が、ギャーギャー騒ぎだしたが、仲が良いことは見て取れた。侯爵家と子爵家では家格が大分違う、それにも関わらず、お互い気兼ねなく対等に付き合っている。ヴィクトールとニックたち、クロエとユーリア、幼なじみと良好な友人関係をたもっているみんなが羨ましいかった。ソフィアとサイモンとは大違いだ。


 魔道具の会は、その後規模が大きくり、学年も半ばになる頃には実験室の完備された立派な部屋に移動した。何故なら、あのマーベリック王子が入会してきたからだった。高等部になって、何故かパトリックの後をついて歩くようになった王子は、パトリックと同じ講義を受け、パトリックの隣で食事をするようになった。


パトリックは、不敬にも、マーベリック王子を鬱陶しそうに追いやったり、素っ気なくするのだが 王子はめげることなくパトリックを追いかけていた。そんな王子が、とうとう魔道具の会に入会してきた。


ソフィアは居場所が無くなるのだと覚悟したが、賑やかになっただけで、ソフィアやニックの平穏な時間は守られた。それどころか、会員が増えたことで学園からの活動資金が増え、大きな魔法実験室の完備された部屋に引越しただけでなく、魔道具や工具が次々に買い足された。


しかも、マーベリック王子目当ての学生たちが、高級茶葉や菓子を差し入れてくれるので、お茶の時間もとても豪華になった。


ある日、パトリックと一緒に受けている講義が休講になったので、2人で連れ立って歩いていた。途中で、ソフィアは魔道具部屋に、パトリックは食堂に行くために別れた。魔道具部屋の近くで突然腕を捕まれ廊下の隅に引っ張りこまれた。


「サイモン、痛いじゃない。」


今までサイモンが学園内でソフィアに話しかけてくることは一度もなかった。


「ソフィー、いつから悪魔の片割れと親しくなったんだ?」


「悪魔の片割れって、もう子供じゃないんだから名前でよびなさいよ。パトリックとは、いくつか講義もいっしょだし、ゾーン商会の魔道具の愛好家で、少し話すだけよ。」


 サイモンがいずれ文句を言ってくることは予想していたので、動揺することなく答えることができた。これまで見つからなかったことが不思議なくらいだ。


 大切なソフィアの憩いの場所である魔道具の会のことはサイモンに知られたくなかった。しかもマーベリック王子が入会していること知られたら大変だ。サイモンは、マーベリック王子が放課後の付き合いが悪くなったと愚痴っているのを知っていた。


「あいつは陰険で狡猾な奴だ。ソフィアみたいな世間知らずを相手にしてあとでばかにするつもりに違いない。」


「彼はそんな人じゃないわ。」


パトリックは、ソフィアを孤独から救った恩人だ。サイモンに反抗してはいけないとわかっているのにが黙っていられない。


「ソフィーは騙されてるんだ。あいつと同じ講義は、すぐに取り消せ。」


「そんなことできるわけないでしょ。」


「俺の言うことがきけないのか。」


興奮してきたサイモンの声が大きくなり、ソフィアの両肩を痛いほど強く掴んで壁に叩きつけた。しかし、ソフィアも、パトリックを悪く言われ、講座まで取り消せと無茶苦茶なことを言ってきたサイモンに腹をたてていた。


「ソフィーは俺の婚約者だろ。俺の言う通りにしてればいいんだよ。」


「ここは学園で、社交界じゃない。あなたに指図されることはない。」


サイモンがソフィアの肩を掴んで揺さぶってくる、壁に頭を打ち付けられて、痛いやら悔しいやらで訳がわからない。


「辞めろ、ソフィア先輩から離れろ。」


ニックが飛んできて、ソフィアの肩をつかんだサイモンとの間に入ってきた。


「女性に乱暴するなんて紳士のすることじゃない。」


「うるさい、部外者は構うな。どけ。」


「どきません。学園での暴力行為は、処分の対象です。」


「お前見たことのない顔だ。どこの誰だ。」


騒ぎを聞きつけた生徒たちの声が近づいて来るのが聞こえ、サイモンは舌打ちし離れていった。


「ソフィア先輩、大丈夫ですか?医務室に行きま しょう。」


「ごめん、ニック。医務室はだめよ。大事にしたくないの。」


結局、魔道具の部屋に行き、ソフィアの後頭部を冷やしてくれた。肩も強く掴まれたので痛みがある。


「ニック、私大丈夫だから、今からでも講義に戻って。」


「いいんです。出たくない授業で、さぼるつもりで歩いてたんです。そしたらソフィア先輩の声が聞こえたから。ソフィア先輩、ちゃんと抗議しましょう。」


「できないわ。実は、あの人私の婚約者なの。」


「だからと言って許されることではありません。」


「わかってる。でも家族に心配かけたくないの。」


「俺、悔しいです。」


ニックが、声を殺して涙をながした。


「ごめんね。」


「なんでソフィア先輩が謝るんですか。」


「あなた勇気あるのね。さっきかっこよかったわ。」


悔しくて涙していたニックの顔が、耳まで赤くなった。庶民のニックが先輩のサイモンに立ち向かうのは勇気がいっただろう。


「僕、小さい頃のあいつのこと知ってるんです。すごい癇癪もちで、全然変わってない。」


「知り合いだったの?」


「幼い頃、父親同士が友人で、たまにいっしょに遊んでたんです。僕、ソフィア先輩にも会ったことがあります。」


「いくつぐらいのことかしら?」


「5、6歳だったと思います。」


「そうだったの、実は幼少時の事は、あまり覚えてないの。」


「気にしないで下さい。僕にとって、数少ない父との思いでなので覚えているだけです。」


ニックは両親と妹と王都で不自由なく暮らしていたのだが、ある日突然、の父親が不在中に母が亡くなった。わけも分からないまま孤児院に預けられたそうだ。妹だけが養子にもらわれることがきまり、離れ離れになるのが嫌で、同じ孤児院にいたマルコと3人で逃げ出したそうだ。その後、ヴィクトールともう一人の仲間と一緒に路上生活をしていたところを、縁があってウォルシュ魔法伯に拾われたそうだ。


彼の生い立ちは、ソフィアが悩んでいる貴族の嫌がらせがちっぽけに感じるような壮絶なものだった。


「私、何も知らなかった。ごめんなさい。大変な思いをしたのね。」


「孤児院は辛かったです。でも路上生活はけっこう楽しかったかな。悪いこともしました。褒められたものではないですけどね。」


「妹さんを守るために必死だったのでしょう?」


「大人を信用できなくて、ウォルシュ様に保護された時も僕は最後まで意地をはってたんです。だけど、魔法学園に通わないかと勧められて、態度を改めました。魔法学園に行くのを、生前、母がすごく楽しみにしていたんです。でも学園は、貴族至上主義というか、僕らが頑張っても結局は爵位の高い奴らが威張ってて、悔しいんです。ヴィクトールみたいに、貴族の嫌がらせなんて気にしないでいられるとかっこいいんですけどね。」


「私も、どうして平気でいられるのかヴィクトールに聞いたことがあるの。ニックも私と同じ気持ちだったのね。なんだかほっとするわ。私が異常に気にしすぎなのかと思っていたわ。」


「僕は、ソフィア先輩のおかげで頑張れました。中等部で首席卒業できたのは先輩のおかげです。もっと頑張って、爵位持ちの生徒を見返してやりましょう。」


「見返すことなんてできるのかしら?」


「できます。頑張れば必ず認められます。僕は、法務官になって貴族の汚職をひとつ残らず暴いてみせます。ソフィア先輩の夢はなんですか?」


ソフィアの夢は、『サイモンのお嫁さん』だった。今はどうだろうか?学園での寂しさを埋めるように学業に専念してきたが、その先には何があるのだろうか?


「すみません。夢だなんて、子供っぽいこと聞いてしまって。」


「違うの。私、卒業後のこと考えたこともなかったから、ニックも、ヴィクトールも目標があって尊敬するわ。」




数日後、サイモンが訪ねてきた。しかし謝罪するわけでもなく、ニックのことを調べたようで、どうして知り合いなのかと責めてきた。


「ニックは、マイーデ公爵家の令嬢のクロエさんの親しい友人なの。一緒に勉強会をする仲間の1人よ。」


サイモンは家格に弱い、ニックが後で嫌がらせを受けないためにも公爵家の友人だと強調した。


「いつ公爵家の令嬢なんかと、お前が知り合ったんだよ。まさか、あの夜会の後も、ジョシュア先輩と隠れて会っているのか?」


「いいえ、コールス公爵家のエメルダ様の紹介よ。」


「付き合いがあれば、婚約者の俺に報告するのが義務だろ。それに、悪魔の片割れのことも俺は許してないからな。あいつは貴族のくずだ。」


「でも、マーベリック王子はパトリックのことを好ましく思っているみたいだわ。」


痛いところをつかれたようで、サイモンの顔が変わった。


「王子も騙されてるんだ、最近じゃポロの試合にも参加されなくなったし、パーティーもすぐに帰ってしまう。王子に悪影響を及ぼしてるのは明らかなのに、教師もなにも言わないし。お前も、パトリックなんかと話すなよ。」


結婚後、サイモンはソフィアを今のようにあつかうのだろうか?交友関係を管理され、誰と会うな、話すなと言われ続けるのだろうか?


「ねぇ、私が、伯爵家に嫁いだら、わたしはどんな存在になるのかしら?あなたは私を妻として社交界で紹介できるの?」


「なんだよ急に。」


「あなたも、伯爵家もゾーン家の娘の私が嫁ぐのは恥ずかしいと思ってるのでしょ。しかも社交界の私の評判は悪いみたいだし。」


「家同士の婚約だ、仕方がない。それに、俺の言う事を聞いていれば評判もよくなる。」


「私はあなたのとなりに並ぶの?それとも、壁の花になって立って眺めるているだけ?」


「なんだよ。そんなこと今から考えなくてもいいだろ。鬱陶しいな。帰る。」



『ソフィア先輩の夢はなんですか?』


 ニックの声が頭の中にこだました。



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