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ソフィアはじめる


3年後、王都で結婚式が開かれた。エメルダ様とフランツ様の結婚式だ。ソフィアは、クロエとユーリアといっしょにブライドメイドとして出席した。



ユーリアは希望していた法務省で働き、将来検察官になるために勉強も続けている。クロエは、文官として働くことを希望したのだが、王妃に泣きつかれ、マーベリック王子の妹姫の家庭教師兼女官をしている。


ニックは祖父の健康状況が良くないために卒業後すぐに、ハウエル子爵家を継いだ。そしてヴィクトールは、見事に騎士として受勲し、何十年ぶりかの魔法騎士となった。すっかり痩せて完全無欠の美男子だ。



 ソフィアは文官として、半年前からマーベリックの下で働くようになった。上司になったパトリックに強引に引き抜かれたのだ。


「僕の1番は妹なんだ。だからマーベリックを1番に考える側近が必要だ。君は少々押しに弱いところが不安ではあるが、信頼に値する。というわけで、今日からマーベリックの秘書官に命じる。」


パトリックが妹さんを溺愛していることは、十分良く知っている。こんなに堂々と未来の国主より妹を優先すると宣言するような男が、未来の宰相では非常に不安だ。ここは、ソフィアがマーベリック王子をしっかり支えなくてはいけないと思い、秘書官になる話を受けた。


「はぁ、わかったわ。よろしくお願いいたします。でも、妹さんを選んでとんずらする時は、事前に教えてね。」


「とんずらか。ソフィアもそんな言葉知ってるんだな。」


「男の職場で揉まれてきたからね。」



マーベリック王子は、それなりに優秀で仕事もちゃんとできるのだが、何事にも悠長で、仕える身としては、もう少し未来の国主だと自覚してほしいところだ。その上、数ある縁談も、運命の人ではないと断り続けている。クロエもその1人で、断られて大喜びしていた。




この3年間、パトリックは、どうにかバロン男爵の不正を掴もうとしているが、バロン男爵は非常に用心深く、決して直接手を下さない。娘のウェンディは、醜くなった事に耐えきれず気が触れてしまったというのに、男爵は領地に連れて帰ることもせず、入院費だけを支払っている。ウェンディの実の両親は行方が知れない。


グラフ伯爵は爵位を返上し、薬の抜けたサイモンと一緒に暮らしている。男子学生を刺したことは、正当防衛、精神魔法の影響下にあったことで執行猶予がついた。サイモンの母は、拘留中に突然の死した。暗殺だった可能性が高いため、サイモンたち親子は名を変えて隠れすんでいるらしい。証人となる2人の身の安全を守るためだ。


あの魔法爆弾事件については、不可解な点がいくつかある。誰がサイモンを治療院から連れ出し、爆弾を装着したのかがわからないのだ。


おそらく、ウェンディは、男爵に言われてあの場所でサイモンに声をかけた。サイモンを大人しくさせて出頭するように説得したことで、自分の評価の回復をはかったのだろう。あのウェンディをナイフで刺した少年は、伯爵家の次男坊で学園入学時からのウェンディの取り巻きだった。ウェンディを狂信する彼がなぜ犯行に及んだのかはなぞだ。しかし、サイモンも彼も、ウェンディの口封じに利用されたのだろう。


時間がかかろうが、いつか必ず真相を暴いてみせるとパトリックは意気込んでいる。



そして、今日は、エメルダ様とフランツ様の結婚式である。あれから、フランツ様は、エメルダ様を執念深く口説き落とし、2年の婚約期間を経て晴れて結婚式まで持ち込んだ。あっぱれである。長男であるフランツ様は、領地の仕事を引き継ぐために王宮を辞して領地で仕事をする事が増えたそうだ。結婚後は、裁判官として働くエメルダ様とは、週末と祝日だけ一緒に過すことになるらしい。



新しい結婚の形に周囲は賛否両論あったが、クレイバー侯爵家が全力で応援する姿勢を公にすることで落ち着いた。


侯爵夫人曰く


「エメルダさんを逃しては、フランツは良くて一生独身、悪くて犯罪者になってしまうわ。」


ということだ。




その日、ヴィクトールは不在だった。婚約者であるリディア嬢と遠方から祝うのだという。パトリックの1番である妹が、ヴィクトールの婚約者だ。なにやら事情があるようで王都までは来れないらしい。


ニックは、ハウエル領の新しい領主として、国王陛下への挨拶もかねて王都に来た。何だか男らしくなったニックを、クロエがいじめ倒した。学生の頃に戻ったようでとても楽しい。新領主として、縁談話がたくさんあるのではないかと、からかっている時、そんな余裕はないと言ったニックの顔を見て安堵する様な顔をしていた。もしかすると、クロエはニックに恋しているのかもしれない。



ソフィアは、人に必要とされること、与えられた仕事をやり遂げることに喜びを感じる。マーベリック王子の秘書官の仕事は、思いのほかソフィアに合っていた。弟たちの世話をするように、ふらふら夢心地なマーベリック王子の臀をたたき、悪だくみばかりのパトリックの暴走を止める。


マーベリックには、足りない所もたくさんあるが、それは、臣下であるソフィアたちが補えばいいのだ。そうやって、一緒に成長して、いつかマーベリックが国王として冠を頭上に戴く時に、そばで見守りたいと思っている。ソフィアの物語ははじまったばかりだ。




マーベリック王子が、そんな献身的な秘書官が、自分の運命の相手だと気がつくのは、何年もあとの話である。


ソフィアは獅子に婚約という谷に落とされた、這い上がってきたソフィアは、羽を得て飛び立った。



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