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ソフィアつき落とされる


 ソフィアとサイモンは、 幼い頃に決められた婚約者同士だった。ソフィアの家は裕福な商家だが、爵位をもたない。サイモンは伝統ある伯爵家の長男だった。


 ソフィアの父ロイドは公爵家の次男として生まれたが、家を捨て魔道具師に弟子入りし、師匠の一人娘の母ケイトと結婚した。ロイドは魔道具師の才能はなかったが商才はあり、魔道具の他にも女性客を開拓するために美容部門をたちあげ、10年で王都の一番街でに店をかまえるほど商売を大きくした。


 社交的な父は、ソフィアを連れて、商談相手や友人の家を訪れるのが常だった。ソフィアが7歳の頃、父の友人のグラフ伯爵家の一人息子サイモンの誕生会に招待された。


 グラフ伯爵家の息子のサイモンは乱暴者で、気に入らないことがあると、暴れて物を壊したり、使用人の脛をけったり、酷い時には遊びに来た子供に噛みつくこともあり毎度なにか騒ぎがあるのでソフィアは苦手だった。


 誕生会の日、なにが気に入らなかったのか、サイモンが酷い癇癪をおこし、テーブルの上の茶器や菓子を辺り構わず投げつけた。それだけでは気が済まなかったようで、ワゴンにあった使用人が菓子を切り分ける為のナイフを手にすると振り回した。そしてそのナイフが隣にいたソフィアの顔を傷つけた。額から右目にかけて切り裂いたようで、顔が血だらけになり、叫び声や悲鳴が聞こえた、どくどくと脈打つような痛み、視界が悪くなり、そのままソフィアの意識が途絶えた。


 ソフィアの傷は見た目ほど深くなかった、ナイフの刃は瞼を少し傷つけたが、眼球には届いていなかった。優秀な治療師が綺麗に治してくれたのでほとんど痕も残っていない。サイモンも父親に連れられて謝りに来たそうだが、痛み止めが効いていて、ぼんやりとしていたため、ソフィアはくわしいことは覚えていない。それからすぐに、弟が生まれ、ソフィアは赤ん坊に夢中になり、父に連れられて出かけることはなくなり、サイモンや他の子たちのことは忘れてしまった。


 ソフィアが9歳の頃、サイモンはソフィアの家に現れた。共にゾーン家の屋敷で家庭教師から魔法の基礎を学ぶためだった。サイモンは愛想のよい礼儀正しい少年に育っており、天使のような容姿も相まってソフィアは、夢中になった。


 そして、2人が10歳の頃に、サイモンとの婚約が決まった。その頃には、ソフィアも優しいサイモンのことが大好きになっていたので、将来サイモンと結婚できることをとてもよろこんだ。しかし、サイモンは物憂げな顔だ。子供のソフィアにも、サイモンが婚約を喜んでいないことがわかった。


「私との結婚がいやなの?」


「お母様が、僕の婚約者が平民なのは恥ずかしいっていってるんだ。僕はお母様を悲しませたくないんだ。婚約の話はお父様が勝手に決めたからね。」


「私よくわからないわ。」


「ソフィアは、平民で。ぼくは貴族なんだ。貴族はえらいんだよ。だからお母様はぼくは貴族と結婚しなければいけないって言ってるんだ、」


「わたしはどうやったら貴族になれる?」


「ソフィアが僕の言うことはなんでも聞くならなれるかもしれない。」


「なんでも言うことを聞くなんていやよ。」


「へー、ソフィアはぼくと結婚できなくてもいいんだ。ふーん。せっかくぼくが頑張ろうとおもったたのに。ぼくすごく悲しくなってきちゃった。」


「ごめんなさい。ちゃんと言うことを聞くわ。」


「本当に?それなら約束だよ。」


 2年後、ソフィアとサイモンは、魔法学園に入学した。魔法学園は 優秀な魔法使いを育てることを目的とした教育機関で、入学条件を満たせば、身分に関わらず入学できる。在学生の7割が貴族の子弟子女であるが、魔力が高く、成績優秀な庶民も三割いる。


 ソフィアは父の血を色濃く受け継いいだようで、生まれながらに魔力が高かった。祖父母も母も、ゾーン家からはじめて魔法学園に通うことになったと、ソフィアの入学を喜んだ。


 最初の数カ月は、近所に住むサイモンが朝ソフィアの家までくると、ゾーン家の馬車で一緒に仲良く登校し、いっしょに勉強した。しかし数カ月すると、サイモンはソフィアに素っ気なく振舞うようになった。


「もうソフィアと一緒に学校にいけないんだ。」


「どうして?」


「同じクラスに王子がいるだろ。王子が、僕に、平民と仲良くするなっていうんだ。」


「でも入学式で魔法学園では家の名前に関係なく仲よくしようって言ってたわ。」


「そんなの大人の書いたものをそのまま読んだだけだ。本心ではだれよりも平民を嫌っている。僕は直接王子から聞いたんだ。僕たちが婚約していることもだれにも言っちゃ駄目だよ。二人の秘密だ。」


「わかったわ。だれにも言わない。」



 二人が入学した年は、例年よりも入学志願者が激増した。その理由は、その年の入学者に現マーロンド国の第一王子マーベリックがいたからだ。健康上の問題を理由にわざわざ入学を1年遅らせた学生もいたため、クラスの数も必然的に増えた。


 おとなしく、人見知りのあるソフィアにはなかなか女の子の友達ができなかった。貴族の子女は母親についてお茶会などに参加し、それぞれ仲良しのグループがすでにできており、ソフィアの入る余地はなかった。ソフィアに話かけてくれるのは、男の子たちだった。一緒に食堂でお昼を食べに誘ってくれたり、教室を移動するようになった。


 しばらくすると、ソフィアの持ち物がなくなったり、壊されたりするようになった。そしていつの間にかだれもソフィアに話かけてくれなくなった。サイモンでさえ、ソフィアを無視するようになった。


ソフィアは学園を腹痛を理由に休みがちになった。治療師に見せても病気は見つからない。学園生活がはじまり、環境が変わったせいではないかと家族は心配した。しばらくして、サイモンが見舞いにきた。



「どうして学校にこないの?」


「お腹がいたくなるの。」


「うそだね。本当の理由はなんなの?」


「だって、いじわるされるの。」


「そんなのソフィアがわるいじゃないか。」


「私、なにもしていないわ。」


 サイモンは使用人のもってきたタルトをナイフとフォークを使って食べながら話している。カチャカチャと、ナイフの音がいやに大きく聞こえる。


「ソフィアは、男子生徒と仲良くしてばかりじゃないか。」


「だって女の子たちは私と話してくれないわ。」


「ソフィアから話しかけたことはあるの?」


 ソフィアが黙り込む。


「ソフィアが仲良くしていたジェームスは、同じクラスのナタリーの婚約者だ。だからナタリーが怒ったんだよ。」


「そんな、だれがだれの婚約者とか私しらないもの。」


「学校でわからないことは僕に聞けばいい。」


 ソフィアの目は、なぜか、サイモンの手にあるシルバーのナイフから目がはなせない。なぜか動悸がする。


「顔色が悪いよ。大丈夫?ソフィアは本当に馬鹿だな。僕以外の男子生徒と話すからこんなことになったんだ。安心して。ぼくだけは、いつでもソフィアの味方だ。大好きだよ。」



 それから、学校に再び通うようになると、いじわるはされなくなったが、独りぼっちなのに変わりはなかった。ときおり他のクラスの男子生徒がソフィアに話しかけてくるが、サイモンに言われた通り仲良くはしなかった。ソフィアは、一人ただひたすら勉強した。


 サイモンは希望通りマーベリック王子の取り巻きの一人になり、その仲間たちと一緒に遊び歩くなるようになった。マーベリック王子が馬に乗って行う球技ポロを嗜むと知り、長期休みは郊外に泊まり込みポロをはじめた。サイモンとソフィアは、ここ数年、夏はソフィアの家の別荘がある避暑地で一緒に過ごしていたので寂しかった。


 ソフィアは、父に頼み魔法の家庭教師を頼んだ。魔力は高いが制御が苦手でよく失敗して馬鹿にされるのがいやだったからだ。サイモンが言うには、どう足掻いても平民のソフィアは貴族に頭は上がらないそうだ、せめて成績では勝ちたかった。


 また、祖父に頼んで持ち物が隠されてもすぐに場所がわかるような魔道具ができないか相談した。孫娘に魔道具をお願いされてはりきった祖父とふたりでいろいろな案を出し、いくつかの魔道具の鞄や文房具が完成した。


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