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4話 邂逅




「早く―、こっちこっち!」

「ま、待ってよ……!」


 レイとフィーリア、二人はずっと前から幼馴染み。

 生まれ育った村が同じで、年齢も同じである二人は物心つく前から仲が良かった。

 けれど、彼らにはもう一人、幼馴染みと呼べるいつも遊ぶ男の子がいた。


「もー、遅いぞレイ!」


 男の子の名前は、ウィル。

 ウィルは少し前に両親と共に近くの村から越してきて、この村に住み着いた。以来、同い年のレイとフィーリアといつも一緒に遊ぶようになったのだ。


 ウィルは明るく、人見知りなどしない性格で、二人とすぐに打ち解けることとなる。

 明るく活発なフィーリアとウィル。少し引っ込み思案なところのあるレイは、そんな二人に引っ張り回されることが多かった。


 けれど、それを疎むことはなかった。

 むしろ、どちらかといえば内気な性格のレイは、自分をどこか遠くへと引っ張ってくれそうな二人のことが大好きで。

 なんだかんだ、いつも楽しいと思っていたのだ。


「ぼく、二人とずっと友達でいたい!」

「そんなの、わたしもだよ!」

「俺だってそうだよ!」


 ああ、そんなことを言い合った日もあった。

 けれど、時間の流れというものは自分も、自分の周りの環境も少しずつ変えて

いくもの。

 あんなに一緒で、いつも遊んでいたのに、いつしかそんなことはなくなっていった。


 きっかけは何だったか。今となっては思い出せない。

 けれど分かっていることもある。

 それは、三人とも冒険者になったということ。


 そして──




◇◇◇




「本当、久しぶりだな。レイ!」


 この邂逅が、数年振りということだった。


「あぁ……それにしてもお前、結構変わったな」


 差し出された手を握り返しながら、ウィルの姿をまじまじと眺めてレイが言う。

 この握る手の大きさからも分かるほど、今のウィルは屈強な戦士と呼べる体格となっていた。

 最後に会った時から変わっていないのであれば、今もまだ冒険者の筈だ。

 しかし充実した装備から、冒険者と言うよりはどこかの騎士のようにも見える。


「そうか? 自分じゃあんまり気が付かないけど、久しぶりに会ったお前がそう言うんならそうなんだろうな」

「そうか……でも、どうしてここに?」


 浮かんだ疑問を口にするレイ。

 この場所に現れた際の言葉を思い返せば、ウィルはここにレイがいることを知っていたような口ぶりだった。

 そんな疑問に対する答えも、あまりも普通すぎるものだった。


「いや。冒険者ギルドでお前の姿を見てな。もしかしてっと思って、実は追いかけてきたんだよ」

「あぁ……」


 すまんな、と言って苦笑するウィル。

 考えてみれば、冒険者であればあの場所にウィルがいても何らおかしくはない。まぁ、それならそれで早く声をかけてくれればよかったと思わなくもないが。

 レイがそう思っていると、ウィルが軽い口調で言った。


「そういえば、フィーリアはどうしたんだ? お前らパーティー組んでるんだろ?」

「えっと、だな……」


 ウィルが幼馴染みであるフィーリアのことを気にかけるのも当然だ。同時期に冒険者になり、今は別々だがレイとフィーリアが同じパーティーであるということもウィルは知っている。

 だから、ここにフィーリアがいないことに疑問を抱くのも当たり前の話だった。


 何て答えようか。迷ったが、意を決してレイは口を開いた。


「……もう、アイツとのパーティーは解消したよ」

「は? おい、それどういうことだよ」


 眉をひそめ、訝しむような表情で詰め寄るウィル。これは隠せないなと諦めたレイは、事の成り行きを説明した。

 フィーリアのパワハラと、それに耐えられずパーティーを解消してソロの冒険者になったこと。そして今はこうして、初心の頃のような簡単な依頼を受けていること。

 聞き終えたウィルは、はぁとため息を吐き肩を竦めた。


「お前なぁ……せっかくSランクのフィーリアと一緒のパーティー組んでたってのに、もったいねぇ」

「いや、そうは言っても……」


 ウィルがそう言うだろうことも分かっていた。

 いや、ウィルだけではない。おそらく誰もが『Sランク冒険者とのパーティーを解消』したことをもったいないと言うだろう。

 でも、それでも──


「やっぱり、耐えられなかったんだよ……」


 Sランクの腰巾着。寄生虫、荷物持ち──周囲からはそう蔑まれ、フィーリアからもただの荷物持ちとしか見られていない。報酬も大して貰えなく、いつまで経っても自分はDランクのまま。

 そんなのは嫌だ、耐えられないと思った。だから一人になったのだと、レイは言う。


 その悔しそうな顔を見たウィルは、やれやれと苦笑した。


「……ま、確かに最近のアイツは横暴が過ぎるっていうか、ちょっとアレだったからな」


 昔はああじゃなかったんだけどな、と遠い目でどこかを見つめるウィル。

 その思いはレイも同じだ。

 以前のフィーリアは、あれほどまでに横暴で我が儘な性格ではなかった。冒険者になりたての頃はレイを気遣ったりと、優しい女の子だったのだ。


 なのに今では、あんな風に……いつ頃からああだったか。もうよく覚えていないがとレイが考えていた時、ウィルが閃いたとばかりに目を大きく開いた。


「そうだ! なぁレイ。よかったら、俺とパーティーを組まないか?」

「え?」

「いま俺ともう一人でパーティー組んでるんだけど、そいつとレイと三人ならもっと難易度の高い依頼も達成できると思うんだ。なぁ、どうだ?」

「うぅん……」


 その提案に、どうしようかと悩むレイ。

 これから一人で生きていこうと思っていたところに、パーティーへの勧誘。本来ならば断わるべきなのだろうが、それはどこぞの有象無象の場合。

 だが、ウィルは幼馴染みだ。久しぶりに会ったが、少し話しただけで昔と変わらないと分かった。


 だったら一度、組んでみてもいいかもしれない。幼馴染みの顔を立てるという意味もあるにはあるが。

 昔の友人と一緒に冒険者をやる……それも魅力的な話だろう。もしそれでも合わないと思ったら、ウィルには悪いが抜けさせてもらおう。


「……分かった。それなら組もうか、ウィル」

「ホントか!? ありがとな、レイ!」


 満面の笑みを浮かべるウィルを見て、これで良かったのだとレイは思う。

 そしてウィルは、また明日冒険者ギルドで会おうと言い残し、この場を去った。残されたレイは、


「パーティーか……どうなるのかな、俺」


 ぽつりと、そう口にした。




◇◇◇




「──ちょっと! これどういうことよ!」


 昼も過ぎ、賑やかさも最高潮となったオルデーティアの冒険者ギルド。その中で、喧騒を突き破るような怒号が響いた。

 何だ何だと誰もが声の方向へと目を向ける。彼らの視線の先は、ギルドの受付であり……。


「何でこの程度の依頼を受ける条件が、二人以上のパーティーなワケッ!?」

「あ、あの、フィーリアさん。お、落ち着いて……」


 眉間に皺を寄せて吠えるのは、Sランク冒険者のフィーリア。現在、相棒であったレイとパーティーを解消している為、一人で受付嬢へ怒りをぶちまけていた。

 そんなフィーリアの怒りの矛先である受付嬢は、蛇に睨まれた蛙のように涙目になり、慌てながら言葉を継いだ。


「お、お怒りなのも分かりますが、あの、すみません……規則なので……」

「はァ!? 規則!? ふざけんじゃないわよ!」

「ひっ……」


 ドン、と強く受付のテーブルを叩くフィーリア。あまりの剣幕に、受付嬢の瞳がさらに潤んだ。


「私はSランク冒険者よ、その程度の規則なんかで縛られるわけが──」

「──あるんだな、それが」


 フィーリアの言葉を遮るように、重く太い声がギルドに響く。

 声は後ろからだ。驚いたフィーリアが振り向くと、そこには一人の男が腕を組んで立っていた。

 スキンヘッド、褐色の肌。高い背丈と太い腕。いや腕だけではない。全体的に男の体格は太く大きい。

 大男──端的に言って、そのような言葉が似合う外見だった。


「ゴルバークさん……」

「すまんな、フィーリア。Sランクのお前さんでも、ギルドに籍を置いてんなら規則には従ってもらうぜ」

「……従わなかったら?」

「ギルド長の権限を行使させてもらう」

「…………」


 オルデーティア冒険者ギルド長、ゴルバークの言葉にはさすがのフィーリアも口を噤む。だが納得はできないといった様子。顔をしかめ、明らかにその不満を隠そうともしていない。

 やれやれと肩を竦めたゴルバーク。Sランクともあろう冒険者が、受付前で依頼条件に文句を言うなど、他の下位冒険者にどう思われるのか分かっているのだろうか。


 Sランク冒険者が、他の冒険者とは隔絶した実力を保有しているのは当然の前提だが、他にも人間性といった部分も優れていなければならない。

 その職業の頂点に立つのであれば、やはり羨望や畏怖の対象にもならなければ示しがつかないからだ。


 フィーリアのかつては真面目で、それこそ人間的にも問題はない女だったのだが……いつ頃からかこの少女は、こんな風になってしまった。

 あれはいつからだろうか。確かSランクになって間もない頃だったはずだが──とゴルバークが思っていると、フィーリアが渋々といった様子で口を開いた。


「……分かったわよ。なら、もう一人いればいいってことでしょ」

「うん? あぁ、そうだが……」


 だが、誰をと続けようとしたゴルバークを置いて、フィーリアはずかずかとギルド内を歩き出す。

 そしてギルドの隅、椅子に座り休憩していた一人の青年の前で声を張り上げた。


「ちょっとアンタ!」

「え、え、お、オレ?」

「そうよ。知ってるわよアンタ。ソロの冒険者でしょ? 名前は? ランクは!?」


 ずい、と凄んで聞いてくるフィーリアに、青年は混乱しながらも答えた。


「き、キッド……ランクは、Bだけど」

「Bランク……ま、いっか」


 何がいいのやら。金髪の青年──キッドは意味も、どう答えるべきかも分からず、怪訝な顔でフィーリアを眺めるだけで……そのフィーリアは、ビシッとキッドを指差し、不遜な態度でこう告げた。


「喜びなさいキッド──Bランクのアンタに、Sランクの私とパーティーを組むという名誉を与えてあげる!」

「は……ああぁぁ……?」


 その意味もやはり分からず、キッドは呆けた顔で固まってしまった。




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