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愛し合う二人の想いは、すべてに勝利するようです ~Omnia vincit Amor~  作者: 社畜総大将


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最終話 愛し合う二人の想いは、全てに勝利する。




 すでに太陽は落ち、夜空を月と星が彩っている。

 そんな暗闇の夜空を飛翔する巨大な漆黒の竜。太古より神として崇められることもあるという怪物──エンシェントドラゴン。


 それを追うように、夜の暗闇を切り裂く桃色の輝き。それはあまりにも巨大な剣である。

 使う者の感情により形状を変え、真の力を発揮する古代の武器──心剣アルマの姿。

 その広い刀身に乗る二人の影。

 寄り添うように抱き合い、手を握る二人の名は、レイとフィーリア。


 二人は前方を飛翔するエンシェントドラゴンへ向けて、光を撒き散らしながらひたすらに進む。


「すごい──レイ! 私たち、空を飛んでるよ!」

「飛んでるっつうか、泳いでるみたいだな!」


 二人を乗せた心剣アルマは縦横無尽に空を駆ける。

 その速度は凄まじく、あれだけ離されていたエンシェントドラゴンとの距離は瞬く間に埋められていった。

 そしてついに、その巨体を追い抜いた。同時に、竜の目の輝きが……憎悪が強さを増した。


『グオオオオオッ!』


 下等な人間が舐めた真似をするなとばかりに怒りを露わにし、口を大きく開く。喉の奥に見える赤い光。それはあのブレスかと思わせるものだったが、放たれたものは別のものだった。

 大きさでいえば、火炎球(ファイアボール)程度のものだ。

 だが、数が異常だ。放たれた火球は優に数十を超え、その全てが二人へと狙いをつけている。


「レイッ!」

「大丈夫だ!」


 心剣アルマは、すでに彼ら二人を担い手として認めている。それは刀身に乗る彼らの心に直接流れてくる情報からも明らか。

 ゆえに、どうすれば動くのか。それも手に取るように分かるのだ。

 いや、そもそもこの剣は担い手の感情を読み取る武器。

 ならば思う通りに動かせるの(・・・・・・・・・・)は当然と言える。


 火球が彼らに当たる直前、アルマは急激に進路を変えた。

 ほぼ直角へと一気に上昇したことで、すべての火球は彼方へと消えていく。だが、それで終わるほど古代竜の猛攻は優しくはない。


『オオオオオオオオオオォォォ!!』


 さらに放たれる炎の塊。連射されるそれは、もはや数を数えるのが馬鹿らしく思える程で、ある種幻想的とも思える彩りで夜空を飾った。

 だがアルマは──レイとフィーリアはその全てを回避する。高速で迫る火球よりもなお速く空を踊るのだ。


「きゃ……!」

「フィーリア! 離すな、俺にしっかり掴まってろよッ!」

「うん、離さない……絶対、今度こそ絶対離したりなんかしないんだから!」

「はは──俺もだよ!」


 上昇、下降、右へ左へ飛びまわり、時には急停止からの急発進。重力や慣性など、あらゆる障害を無視した異次元の動きを見せる心剣アルマ。

 その姿は空を飛ぶ鳥……などではなく、夜空を華麗に舞う流星のよう。


 それでも二人の身体にダメージはない。それはアルマが担い手と認めた者にのみ与える大いなる加護の恩恵だった。

 触れている限り、絶大な加護に守られる……二人は今、無敵とも言える状態となっていた。


 であれば、と。

 竜は邪悪に、憎悪の炎を輝かせて睨んだ。


『グオオオアアアアアッ!』


 ならば邪魔な奴らを振り落とせばいいだけの話だ。

 エンシェントドラゴンは加速し、二人へと肉薄する。そして大口を開いた。

 鋭利な牙で噛み砕くつもりだろう。だが、それも無駄だとすぐに理解させられた。


「レイッ!」

「あぁ、掴まってろフィーリア!」

「──うん!」


 エンシェントドラゴンが噛み砕く──まさしくその瞬間、アルマが眼前から消えた。

 どこに行ったのか。それは簡単なことだ。

 二人は寸前で急降下し、竜の口は何もない虚空を噛んだだけだった。


「いっくぞおおおおッ!」

「くらいなさい──!」


 その無防備な隙を逃すはずもない。

 急降下からの旋回、そして再度急上昇。刹那の間でエンシェントドラゴンへと接近して、高速でその傍らを通り過ぎた。

 その直後。


『ギャアアアオオオオオオ!!』


 頑強な竜の体表が切り裂かれ、噴き出した血が空に舞う。

 すれ違い様に、アルマの刃でその身体を切り裂いたのだ。何のことでない単純な攻撃。しかしそれだけでも、尋常ではない切れ味で古代竜に痛手を負わせる。


 それが可能であることは、すでに二人は知っていた。

 何故ならこの剣こそが、この邪竜に対して絶大な特効能力を持つ武器であるからだ。


 遥か太古に出現した、人類を脅かす強大な存在。

 それこそがこの邪竜であり、この怪物を滅ぼす為に造り出された決戦兵器こそが、この心剣アルマ。

 持ち主の想いを力に変えるこの剣には、理論上限界などなく、無限の強さを放出する。


 だからこそ、竜の身体をも斬り裂く威力を見せたのだ。


「おおおおおお!!」

「はあああああ!!」


 攻撃の手は休めない。二人を乗せたアルマは、エンシェントドラゴンを中心として高速で移動する。縦横無尽に飛翔することで、その肉体に無数の傷をつけていく。


『オオ、オオオオ……!!』


 エンシェントドラゴンの身体がぐらりと揺れる。弱ってもなお、睨み続けるその瞳は怒りと憎悪を湛えており、必ず殺すと吼えていた。

 だからこそ、ここで倒すしかない。この邪悪なる存在を、絶対に逃がすわけにはいかない。


「フィーリア……」

「うん、レイ……一緒に」

「あぁ、一緒に」


 倒そう──そう呟いた瞬間、アルマはその姿を再び変化させる。

 眩いピンクの輝き。この世界すべてを照らし出すのではないかと思わせる光の中心に、それは現れた。


 巨大な──巨大すぎる大剣だ。

 今まで二人が乗っていたものも巨大だったが、もはやそれすらも凌ぐ大剣。

 その柄を、レイとフィーリアは強く握る。

 これだけの大きさの剣を掲げながら、一切の重みを感じない。それこそが、担い手たる者の証。


「「一緒に──倒そう!」」


 剣から光が昇る。空を越え、遥かな宇宙(ソラ)まで照らす光の柱は今、眼前の怪物へと狙いをつけた。

 それを──振り下ろす。

 極大の光線は狙いを外すことなく古代竜へと注がれた。


 この光こそ、心剣アルマの真の能力にして、最強最大の一撃。

 担い手の心を反映させるという機能を全て攻撃力に変換したそれは、二人であるから(・・・・・・・)こそ最強たりえるのだ。


愛し合う(オムニア)──」


二人の想いは(ウィンキト)──」


 一人だけでは決して足りない。成し得ない。

 二人だからこそ、幾多の試練や困難を乗り越えていける。手を取り合い、歩幅を合わせ、同じ未来を見据える想い。

 それは果たして何か? 愚問である。


 すなわち──『愛』。

 ゆえにこれは真の意味で、二人にとって初めての共同作業。

 同じ剣を持ち、いざ入刀するのだ──!



「「全てに勝利する(アモォォォル)────ッ!!!」」



 人間……いや、人間だけでなく、この世界に生きる全ての生物にとって最大の力こそ、相手を想う『愛情』というもの。そして二人の想いは空を越えて宇宙にまで達した。

 つまり、二人の愛し合う心が、この世界すべてよりも巨大で強大である証左に他ならない。ゆえに、


『オオオ、ギャオオオオオオオオオ──……!』


 愛など知らぬ古い怪物に、それを受け止める力などあるはずもない。

 エンシェントドラゴンの身体は、断末魔は光の中に呑み込まれ、やがて……光が晴れた頃、そこには何も残されてはいなかった。

 夜空に静寂が戻る。二人の手にあった心剣アルマはまた姿を先程のものへと戻し、その上に二人は着地した。


「終わった、のかな……?」

「……あぁ。俺たちの勝ちだよ」

「うん……」


 剣の上で抱き合う二人。最後のその瞬間まで離れることのなかった二人は、お互いの腕の中で見つめ合った。


「愛の力の勝利ってやつ、かな?」

「何で疑問形なの? ふふ、でも、そうだね──愛の勝ち、だね」


 笑い合う。つい先程まで極限の戦いがあったというのに、二人の雰囲気は暖かく優しいものだった。

 そして、ゆっくりと高度を下げていく。眼下には、見慣れているのに初めて見るような光景があった。


 何もかもが美しく、瞬いて見える。

 これもきっと、解放されたからだろうか。戦いや、あらゆる想いから。

 ここにあるのは唯一つ。目の前の大切な人を愛し、想い抜くという誓いだけだった。


「帰ろう、フィーリア。みんなのところへ」

「うん、帰ろう。レイ」


 心剣アルマが輝きを増し、地上へと進んで行く。

 レイとフィーリアは、そこから手を振る者たちに向けて大きく手を振り返した。





 そして、きっとこの戦いすらもまだ始まりに過ぎない。

 今ようやく、お互いの気持ちに気付けた二人の、長い長い人生の始まり。

 共に歩み、共に生き、いつまでも愛し合う物語。


 その物語が、ここからようやく、始まったのだ。

 














 かつて、邪悪なる竜が世界に現れた。

 まさしく人類の敵。いや世界の敵。

 そして、あらゆる者達が力を合わせ、一つの武器を作り出した。

 選ばれし者の心の強さを反映させる強力な剣──それが心剣、アルマである。


 アルマの担い手は、アニムスと呼ばれる戦士。

 彼は人類最強とも呼ばれる、類い稀なる戦闘能力を持つ男だった。


 しかし、そんなアニムスでさえ邪竜の恐ろしさに身体の震えを止められない。

 止まれ、止まれ。これから戦うというのに、なんて情けない……アニムスが自身の不甲斐なさを嘆いた時、剣を握る手にもう一人の手が添えられた。


 その手の持ち主こそ、アニマ。

 アニムスと並び称される女性の戦士だった。

 二人は初め、互いを好敵手として強く意識していたが、度重なる邪竜との戦いの中で想いを深め、愛し合う男女の仲となっていった。


 アニマは言う。二人で戦いましょうと。

 アニムスは答える。君とならきっと勝てると。

 そして二人は言った。必ず邪竜(おまえ)を倒すと。


 二人は心剣アルマの力を解放、邪竜をあと一歩のところにまで追い詰めた。

 だが、邪竜の最後の抵抗でアニマが深手を負い、その命を散らした。

 残されたアニムスも、自身に残された最後の力を振り絞り、邪竜を封印することに成功する。


 邪竜は深い地の底へと沈められ、心剣アルマが封印の鍵となった。

 力尽き、倒れるアニムスは最後にこう願った。


 ──いつか、かの邪竜を封印ではなく、滅ぼす者が現れるのを願う。




 その願いは、遥かな時を超えた先に果たされることになる。

 かつて彼と彼女がそうだったように、愛し合う二人の想いが邪悪なる竜に勝利したのだ。




エピローグに続きます。

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