新米漫才師の名前について!
二人「はーい、どうも〜」
ボケ「と出てきたはいいんですが僕らまだ名無しなんです」
ツッコミ「漫才はツカミが肝心、名前が勝負!」
ボケ「てなわけで、お客さまの皆さま、いろいろ試させてくださ〜い」
ツッコミ「じゃ、俺から、ヤミナベでーす」
ボケ「オチブタでーす」
ツッコミ「え? なにそれ? 豚ぁ?」
ボケ「豚じゃないって、蓋。割れ鍋に綴じ蓋、壊れた鍋にもふさわしい蓋がある。僕らにぴったり」
ツッコミ「なーんだ、豚もおだてりゃってのが木から落ちたかと思うだろうが」
ボケ「無い知恵絞って考えてんだから、ツッコミがボケないでよ」
ツッコミ「おー悪い、悪い。とはいっても蓋も落ちちゃだめだろ、落ちちゃ」
ボケ「いや、落ちるよ。闇鍋だもん、真っ暗闇でしょ。蓋のサイズが小さけりゃ、べちゃっと汁の中に落ちるもんでしょ。(高いところから蓋を落とす動作)
ツッコミ「ひゅーっどっぼん」(落ちていく軌跡を目で追う)
ボケ「あ、ハネた、熱い汁が飛んで目に入った。やべぇ、痛い、痒い」
ツッコミ「そりゃ痛かろう、今日の闇鍋は激辛もつ鍋四川風!」
ボケ「うわーっ、やめてー」
ツッコミ「ほら、すぐさま洗え、どんどん洗え、冷水だぞ、今目薬持ってきてやるから」
(ボケ目を洗う。ツッコミはその場でくるりと回り手に目薬)
ボケ「目薬あった?」
ツッコミ「あった、あった。顔拭いて上向け。どっちの目だ?」
ボケ「弱り目」
ツッコミ「は? 右か左どっちの眼かと聞いてるんだが?」
ボケ「だからこっち。(上向きかげんで片目を指さす)弱り目と言えば?」
ツッコミ「祟り目。バカ、言わせんじゃねぇよ。よわりめでーす、たたりめでーすって漫才始めんのか? 縁起でもねぇ。名前はいいから先に目薬いれさせろ」
ボケ「だめ、もっと高くして」
ツッコミ「高く?」
ボケ「うん、目薬はもっと高くから」
ツッコミ「近くねぇと入らんだろう?」(首を傾げながらツッコミ背伸びして目薬を落とす真似)
ボケ「だめ、てんでだめ」
ツッコミ「何がだめなんだよ?」
ボケ「ほら、目薬と言えば?」
ツッコミ「目薬? 目薬にことわざはないだろう?」
ボケ「あー知らないんだ。有名なのになー。目薬と言えば〜」
ツッコミ「おまえのボケ、ようわからんわ」
ボケ「ほら、高いとこ、家の中の高いとこ」
ツッコミ「そんなことわざあったかー?」
ボケ「上向いたら見えるじゃん、ほらそこ。たっかいとこから目薬さしてももどかしいだけで効果ないよーって」
ツッコミ「もどかしい名前の漫才コンビなんて終わってるだろ?」
ボケ「終わるも何も、名前決めないと始められないって。ほら上に何が見えてる?」
ツッコミ「蛍光灯」
ボケ「だー、ツッコミがボケてる! 天井! 天井からめ・ぐ・す・り!」
ツッコミ「いや、天井は聞いたことがない。それを言うなら二階から目薬じゃないか?」
ボケ「え、二階から、だったっけ? 両方ありじゃない?」
ツッコミ「おまえも大概いい加減。天井でーす、目薬でーす。なんか行けそうか?」
ボケ「先行き、不安」(肩を落としてうつむく)
ツッコミ「こっちのほうがもっと不安だよ!」
ボケ「それでなんでヤミナベだったのさ?」
ツッコミ「いや、信長のな」
ボケ「信長って織田信長?」
ツッコミ「他にいねぇーだろ。信長の側室にお鍋の方ってのがいて」
ボケ「ヘンな名前ぇー」
ツッコミ「仕方ないだろ、歴史上実在の人なんだから、おまえ、失礼だぞ?」
ボケ「あ、ごめん、信長さま、子孫の方、許してぇ〜」
ツッコミ「つい最近おかしなウェブ小説見つけてよ、その人には闇鍋の方っていうくのいちの影武者ってか、影側室がいたってぶっとんだ話で」
ボケ「気に入ってしまったと」
ツッコミ「ああ、面目ねぇ」
ボケ「じゃ、それでいこうよ」
ツッコミ「それでって?」
ボケ「ヤミナベでーす。ノブナガでーす」
ツッコミ「おまえ、かっこいいほう取る気だな、許さんぞ」
ボケ「だめなの? じゃ、お互い相手の名前を決めようよ」
ツッコミ「お、いいのか? この紙に書け、交換だ」
(ふたりとも、考えてから紙に書く真似、そして手渡す)
(ツッコミが受け取った紙を開いて読む)
ツッコミ「肉じゃがぁ? でーす」
ボケ「落とし蓋でーす」
ツッコミ「って、料理教室になっちまったじゃねぇか、もう、ええわ」
二人「失礼しました〜」(退場)