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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

コープスパーティ

作者: 榊淑

 ___十月三十一日。今日は待ちに待ったハロウィンの日。エレオノーレ・アーレルスマイアーのお屋敷の使用人の一人・ラウラは、午後九時から始まるパーティで出される料理作りに取り掛かっています。

同じく、使用人のルーチェとアリアは会場の準備を。アーラとフォーリアは屋敷を入念に掃除していました。どれも、とても大切な仕事です。どれか一つ欠けていたら、折角のパーティも台無しですものね。


 ラウラは俎板の上に、皮の付いたままの肉を置き、丁寧に皮を剥ぎ取ります。露わになった桜色のぴちぴちした肉は、鶏肉のようでもありました。……でも、鶏の肉ではありません。

塩と胡椒を降り掛けて焼いてみても、あまり美味しくないからです。ミキサーでミンチにし、みじん切りの玉葱と卵を投入して混ぜ合わせ、お月見団子のように丸くします。それから片栗粉をまぶし、コンソメスープの海で煮ると、高級レストランでも出せるような品が出来上がるのです。


 長細い梅重の麺は、上水でよく洗ってから、長過ぎるので、約10センチごとに切ります。

シーザーサラダに、生ハムの代わりとして使います。「噛み応えがあって美味しい」と毎年評判です。


 圧搾機にかけて絞り出した、幻の味わいの深緋の葡萄酒。究極にして至高の逸品です。

お酒には煩いエレオノーレの友人達も、この美酒を前にしては、忽ち酔い痴れる事でしょう。




 飾り付けを任されているルーチェとアリアは、無機質な場内を漆黒と深紅で綾なします。

日光も月光も差し込まないように黒いカーテンを閉め、照明を赤色に切り替えました。

氷の刃を思わせるクリスタルの透明なシャンデリアさえ、唐紅に。まるで、何かを殺めた直後の鋭利な刃物のようです。


 何の変哲も無い紐でも、蝶々結びをすれば、お洒落なリボンに早変わり。レースで作ってみても可愛いかも知れません。中庭で咲いていた薔薇をプリザープドフラワーにした物も、この場には打って付け。

その花は、庭で生き生きと咲き誇っていた頃の芳香は無いけれど、美しさはそのまま留めてありました。


 館の掃除を担当してるアーラとフォーリアは、額に汗を浮かべながら、一生懸命清掃に励んでいます。

床は勿論、階段、窓、客が見るような場所は全てやるようにとエレオノーレに言われています。

 ___全ては、この宴を素晴らしい物にする為に。



 ___数時間後。漸く開場です。招かれし客人達が、広間を埋め尽くしていきます。


 黒と赤で彩られた夢幻的な世界に、感嘆の声を上げる者。

 ラウラ手作りの鮮彩な料理を、食に飢えた獣のような勢いで平らげる者。

 金錆の味の赤ワインを飲み交わしながら、旧友との会話を楽しむ者。……色んな人が居ました。

 ラウラはお客から賛辞を贈られる度に、喜ばしい気持ちでいっぱいになりました。ある富豪のご夫人が、彼女に問います。


「ラウラちゃん。……今日のお料理には、何人使ったのですか?」


 端正な顔を歪め、上品な夫人らしからぬ下卑た笑みを浮かべます。そんな夫人に、ラウラは笑顔で言いました。


「三人、使わせて頂きました。ベーレンドルフ様はかなりの酒豪ですので、二人では足りないかと思いまして」


 彼女の答えを聞いている間にも、夫人はデザートのカラメルたっぷりのプリンを食べていました。プリンの上に乗せられた丸い果実は、桜桃ではありません。花萌葱の宝石の中心には、鉛筆で塗り潰したような 点があります。それが何だったのか……皆が知っていながらも口に出す事はありません。


 日が変わるまで、この悪食の宴(コープスパーティ)は続いていく事でしょう____





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