表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/89

ある少女の過去編③

 トコは反射的に目を閉じていた。直後、全身を奇妙な感覚が襲う。


 形容しがたい感覚。体は正常なのに、体内の臓器だけが無重力状態で飛び回っているかのような不思議な気持ち悪さがトコに振りかかった。


(何、これ……)


 【スター・ピアス】に穿たれた痛みではない、別の何か。トコは恐る恐る目を開いた。


「え……」


 そこには、世界最強の男の背中があった。最初に出会った時から変わらず、悠々とその場に佇んでいる。


「キョ、キョウ……」


「トコ、大丈夫か?」


 どこか感情を感じさせない口調で、キョウが聞いてきた。先ほどトコの服を褒めた時とは明らかに違う様子。何かあったのだろうか。


「キョウ……」


 その時、ダン! と言う音と共に、アサトがトコの隣に着地した。アサトの落下位置に小さなクレーターが出来上がる。今度は地震は発生する事はなかったので、トコは転ばずにすんだ。


 アサトは背を向けたままのキョウに問いかける。


「キョウさん、大丈夫か」


「………ああ、大丈夫だ。アサト」


 答えるまでにあった僅かな間に、トコは眉を顰めた。まさか、ダメージを負ったというのか。世界最強の男ともあろう者が。刃物を軽々防ぎ、『死の呪い』すらも凌いだ男が、あの程度の魔法で負傷したというのか。


 あり得ない。が、ない話ではない。トコは確認のため近寄る事にした。


「キョウ!」


「やめろ! トコ!」


 キョウに向かって駆けだすトコを、アサトは止めようとする。トコはキョウに向かって走る途中にーーー


 信じられない光景を見た。


「え…?」


 思わず足が止まる。何だこれは、どうなっている⁉


 トコから数メートル離れた場所で佇んでいる、キョウ。


 彼の前方には、()()()()()()()


「どう、なって…」


 何もなかったとは、単に兵隊が消滅した事を指すのではない。






 地面も、光も、空も-----何もかもが消滅した真っ黒な空間が、キョウの前方に広がっていた。




 

「止まれ、トコ」


 そこで、トコは襟首を掴まれ持ち上げられる。トコの襟首を掴んだまま、アサトはバックステップで後ろに下がった。


「気を付けろ。あの空間に入ったら二度とこの世界には戻って来られないぞ」


「あ、あれは……」


 アサトはチッ、と忌々しげに舌打ちした。


「お前を助けようと咄嗟に飛び出したから、力が暴走したんだよ。それであのザマだ」


「ぼ、暴走……?」


「そう。暴走だ。キョウさんの魔力量は異常すぎるんだよ。それこそ、行動一つとっても精密な制御をして抑えこまないと漏れだした魔力で辺り一面が吹き飛ぶ。今みたいにな」


 アサトは苛立った口調で答える。トコは驚きを禁じ得ない。


 僅かな距離動いただけで、目の前の空間を文字通り塵も残さず消滅させる。こんな現象、生まれてこの方一度も見たことがない。


「これが……世界最強の男の実力」


「馬鹿かお前は」


 かなりイラついた口調で、アサトはトコの言葉を否定した。襟首を持つ手に力がこもる。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

  

「え……?」


「制御せずに足を踏み鳴らせば人類は滅亡し、腕を振れば魔族は根絶やしにされる。小さな魔法でも放てば銀河群なんか簡単に消滅するし、全力で魔法を放てば超銀河団は塵の一つも残さずなくなる! これが世界最強だ! 誰も勝てず、マトモに相対する事すら許されない!」


 それは、自分達のボスをトコなんかの小さな物差しで計られた事に対する怒りか、はたまた別の物か。


 分からないが、アサトの怒りには僅かな敬意と畏怖が混じっているように見えた。


「…あの人だって、何かを壊したい訳じゃないんだ」


 そこで、アサトの声のトーンが下がる。


「人を殺したい訳じゃないんだ。だが、持って生まれた力はそうさせてくれない。例えるなら……そうだな、あの人は怪獣だ。大都市に現れた怪獣。人を踏みつぶさないように、建物を破壊しないように繊細に、繊細に、繊細に注意を払って、どうにか仮初めの平和を守っている」


 怪獣、と言うのがどんな物かは分からないが、トコはキョウがどんな心境で日々を過ごしているかその一端を見た気がした。


 その時、前方のキョウがユラリと動いた。その口から呟きが漏れる。


「………また、やっちまったな」


「キョウさん、落ち着け。深呼吸だ。感情が揺らげばどうなるか分かるよな?」


 アサトが諭すように言う。恐らく、感情が揺らげばまた魔力が暴走するのだろう。


「大丈夫だ、分かってる…………分かってるんだけどなあ」


 諦めの混じった言葉。キョウは溜め息を吐いた。


「トコ……俺はさ、『誰もが笑って暮らせる世界』が見たいんだ。誰もが暴力に怯える事なく、自由に笑って暮らせる世界を」


「………」


「泣いてる奴を見たくない。世界から見捨てられて、頼れる奴も安心できる居場所もなく絶望したまま死んでいく奴を、俺はこの世界から消し去りたいんだ。例えそれが夢物語だったとしても、俺は理想の世界を目指したい」


 そこで、キョウは力なく笑った。


「でも…何でかなあ。皆が俺を恐れるんだ。組織をでっかくすればするほど、皆が俺を恐れていく。いつしか『恐怖部隊』なんて名前が付いちまった。そして、今回だってこの様だ。皆で笑える世界を作ろうとして、俺はまた失敗しちまった」


 『失敗した』。この響きから分かるのは一つ。


 キョウは、自分に武器を向けた人間すらも救いたかったのだ。


 自分の組織だけが利益を独占するのではなく、全ての人間が幸せになる為に奮闘する。トコには到底理解できない考えだ。


「俺を殺そうと、人類の奴らは人殺しの武器をどんどん発展させていくんだ。ふざけるなよ。その技術を、資金を、知恵を! 貧困や格差に苦しんでる奴を助けるのに少しでもつぎ込んでいれば! もっとこの世界は笑顔で満ち溢れていたんじゃないのか!」


 キョウの言葉の端々から、悔しさが滲み出ていた。


 トコはアサトの顔を盗み見る。アサトは無言でキョウの話を傾聴していた。


「俺が暴力を使って、人類を征服するのは簡単だ。でもさ、それじゃ駄目なんだよ。恐怖支配なんかじゃ、どう頑張っても俺の望む世界にはたどり着けない。だから、見つけなくちゃいけないんだ。他の方法を」


「他の、方法……?」


「ああ。と言っても、思いついてない現状では今まで通り困ってる奴をうちの部隊に入れて、居場所と仲間を用意してやる事しかできないけどな。まあ地道にやっていくか」


「それだと……ますます人類から恐れられない?」


「ハハッ、覚悟の上だ」


 キョウの笑いは酷く乾いていた。


 寂しそうな笑みを浮かべ、キョウはトコたちの方へ振り返る。


「しっかし、情けない所見せちまったな。大将がこんなんじゃ示しが付かないな…………………トコ、アサト」


「は、はい」


「こんな頼りないボスだが、ついて来てくれるか?」


 キョウの質問を、アサトは鼻で笑った。


「愚問だなキョウさん。アンタの目的が世界征服だろうが人類滅亡だろうが、俺はアンタについて行くさ」


「ありがとう、アサト」


 キョウの目がトコに向けられる。


「トコ。お前はどうだ?」


「わ」


 トコは声を絞り出す。


「私もーーーー」


何か感想等ございましたら、気軽に書き込んでください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます 赤ん坊の頃どうしてたんだろ 目を離したら辺り一帯ごと消えていつの間にか戻ってくるのかな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ