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復讐の女騎士編④

 長身の男が問いかけてくる。何が何でも教えてくれなそうな、頑強な態度。


 私は腰に掛けられた剣の柄に手を掛けた。こうなったら力づくで聞き出すしかない。白衣の男はとにかく、この長身の男と戦うにはかなり際どい戦いとなるだろう。


 更に言えば、この二人が何も知らない可能性がある。ひょっとすると本当にただの医学用語で、私は勘違いで善良な市民を攻撃しようとしているのかもしれない。



 ----それでもいい。



 例え善良な市民を襲う事になったとしても、私は迷わない。あの男を殺すためなら何だってすると決めたんだ。例えこの身が朽ち果てる事になったとしても、私はアイツをーーーー


「おい」



 その時、私の全身を寒気が駆け抜けた。首筋から足の先まで至る所に鳥肌が立ち、極寒の中に放り込まれたかのように手がガタガタと震え始める。


 それが殺気による物だと気が付くのに、数秒の時間を要した。


「そういきり立つな」


 長身の男が、固まってしまった私に声を掛ける。私は震える手で剣を抜こうとしたが、抜けない。手が抜くことを拒否してしまっている。


 ここで剣を抜けば、立ちどころに殺される。鍛え抜かれた私の本能がそう告げている。だから抜けない、抜くことが出来ない。


 私は長身の男を睨みつけた。憎しみと敵意を込めて。


「いい目だな。復讐に濁った禍々しい瞳。昔のオレを思い出すようで虫唾が走る」


 背中を向けていて、私の瞳など見えるはずもない長身の男は吐き捨てるように言うと、そのまま歩き出した。白衣の男がそそくさとその後に続く。


「さっきコイツが言ったように、『死神』は医学用語だ。それ以上でもなければそれ以下でもない。これでいいか?」


 その言葉に、私は唇を噛みしめた。どうしても教えるつもりがない気だ。手を震わせながらも、私は何とか剣を抜こうと力を込め続ける。


 今、目の前の男は背中を曝け出している。せめて、一太刀、一太刀だけでも。


「やめておけ」


 遠くから、そんな声が聞こえてくる。見ると、長身の男と白衣の男は既に路地の端に居た。


 あと一歩、角を曲がれば見えなくなるような場所。そこから、長身の男が語りかけてくる。


「極端に相手が弱いなら、オレは死なない程度に手加減できる。だがある程度強いとそうはいかない。今ここでお前が斬りかかれば、間違いなく命を落とす事になる」


 煽るような言い方ではなく、かと言って蔑むわけでもなく。書き込まれた内容を読み上げるかのように、淡々と告げられる。


「もしお前が本気で『黒百鬼の死神』を殺したいと思うのなら、ここで命を散らすべきではない。大人しく引き下がれ、それが最善策だ」


 そこまで言うと、長身の男は角を曲がってしまった。その姿が見えなくなると同時、私を覆っていた殺気が消失する。私は膝を突きそうになってーーーープライドが許さず、どうにかその場に踏ん張った。


「くっ…」


 手の震えは収まったが、まだ鳥肌が残っている。私は剣の柄から手を離すと、拳を強く握りしめた。爪が手に突き刺さり、手に血が滲む。


「やめておけ、ですって……」


 そんな事、出来る訳がない。私がどれだけあの男に憎しみを抱いていると思っているのだ。


 両親が魔族との戦いで他界して以来、私の家族はお爺ちゃんだけだった。そんな唯一の、大切な家族を殺した相手への手がかりをやっと見つけたと言うのだ。


 そんな機会をみすみす逃すなど、出来る訳がない。


「ふざけないでよ…」


 私は近くの壁に拳を叩き付ける。


「殺してやるわよ。『黒百鬼の死神』も、その仲間も」


 今の二人の男は、間違いなく『黒百鬼の死神』に繋がる手がかりだ。ならばどうすればいいかは決まっている。





 如月は裏路地から出ると、そっと後ろを振り返った。如月たちに絡んできた不思議な少女は、拳を握りしめて何やら悔しそうな顔をしていた。


「しかし、何だったんでしょうね一体。死神君に親でも殺されたんでしょうか」


「あの顔はその類だろうな。後先考えずにあちこちで恨みを買いやがって。これだからアイツの事は嫌いなんだ」


 アラギが忌々しそうに髪を掻き毟る。人間は苛立ちを抱えると髪を掻き毟ると言うのはどこの世界も共通らしい。


「でも、アラギ君が居てくれて助かりましたよ。僕一人だったら、今ごろ拷問されて死神君の居場所を吐かされてましたね」


 胸を張って言える事ではないが、如月に戦闘能力はない。彼が貰い受けたチート能力は『人を治す能力』である。攻撃に転じようと思えば使えるくらいには汎用性があるが、如月はそれを望まない。



 如月信也はあくまでも『医者』だ。相手を治す事はあっても傷つけることはない。



 故に、如月一人では彼女相手に為す術もなくやられていた事だろう。アラギが居なければ最悪の展開になっていた可能性は十二分にあり得る。


「気にするな。医者が戦いまでこなすのは酷すぎるからな」


「何はともあれ、彼女が居る以上この街も危険ですね。速く撤退しましょうか」


 言って、如月は青年の習性を思い出す。彼なら恐らく戦いたがるだろう。三度の飯より殺し合いが好きと言いかねないような男である。間違いなく彼女と戦いたがるだろう。


 患者の性質を覚えていないとは情けない、と如月は内心で舌打ちした。一流の医者たる者、一度治療した患者の状態は把握してしかるべきである。


 大方アラギもツッコミを入れるだろう。如月はそう思いアラギの返答を窺う。


「ああ、そうだな。速くこの街から出た方がいい」


「え?」


 しかし、アラギの返事は予想だにしない物だった。呆気に取られる如月に、アラギは告げる。


「アイツは強い。死神如きでは歯が立たない程にな。最終的には姑息な手段を使って殺すだろうが、それではあの女が報われない」


「……アラギ君って、ちょいちょい死神君の事を下げますよね。あと心配してるのは仲間じゃなくて彼女の方なんですか」


 呆れる如月。アラギは退屈そうに鼻を鳴らした。


「とりあえず、街から出るまで如月は単独行動禁止だ。どこから奴が来るか分からないからな」


「そうですね。なるべくアラギ君の近くに居るようにします。あ、死神君に今の状況を伝えておきますね」


 如月は白衣のポケットから伝導石を取り出すと、魔力を送り込んだ。伝導石を介して声を送り込む。


「死神君、如月です。先ほど不思議な女の人に出会いました。どうやら死神君に会いたがっているようです。何やら危険な予感がするので、街を出る準備をしておいてください」


 すると、伝導石から青年の声が返って来た。


『…不思議な女? 誰だそりゃ?』


「死神君、伝導石が使えるようになったんですか⁉」


 魔力を有していない青年は、伝導石を使えない。


 アラギの見解ではそのはずで会ったのだが、何か特殊な方法を使って使用できるようにしたのだろうか。


『・・・そうじゃない。私の魔力を使ってる』


「ああ、そういう事ですか」


 どうやら先ほど言っていた通り、少女の魔力を利用して喋っているらしい。何か奇想天外な方法を用いた訳ではなく如月は少し安心した。


『でもこれがなかなか面倒くさくてな。コイツの手で触れてないと魔力を送り込めないから、どうしても密着する事になるんだよ。何で電話するのにいちいち密着しなくちゃいけねぇんだよ、面倒くさい。ああもう、必要以上に引っ付くな暑苦しい!』


「何か大変みたいですね……じゃあ用件も伝えた事ですし、切りますよ」


 如月は魔力を流し込むのを中断する。伝導石越しに伝わっていたドタバタ音が途切れ、静寂が戻って来た。


「それにしても、やっぱり凄いですねこの石は。どこに居ても会話出来るんですか?」 


「人によるな。流し込む魔力の量と濃度で通話できる範囲や精度は変わってくるらしい。オレもそこまで使った事がある訳ないから分からないが……死神アホ)の事が大好きな銀髪の信者クラスの魔力があれば自由自在だろうな」


「……ジャンヌさんの事ですか? アラギ君、もう少し仲間は大切に扱った方がいいですよ?」


 如月が窘めると、アラギは肩をすくめた。


「名前が分からないんだから仕方ないだろう? 出会ってから一度も、あの女はオレに名前を明かさないんだ」


 そう言えば、三人の中でアラギ以外は偽名だった事を如月は思い出す。


「死神君はどうなんですか? 彼にも僕のような名前があるはずですが」


「忘れたと言っていた。まあ死神の場合、ぶっ続けで殺し合いをしているからな。大事な記憶が飛んでいても不思議ではない」


 記憶障害になる原因と言う物を如月はいくつか知っているが、青年の戦いぶりを見ているとどの原因も経験して居そうで怖い。


 これは完全に如月の予想ではあるのだが、青年は他にもいくつか重要な記憶がふっ飛んでいるのではないだろうか。


「そう考えると、やっぱりジャンヌさんが名前を名乗らないのは不思議ではありますね……ん?」


 その時、如月は目の前の通りで人だかりが出来ているのを見かけた。何か芸でもやっているのかと思ったが、それにしては様子がおかしい。人混みを掛け分けて入ると、大柄な男性がグッタリと倒れていた。


「大丈夫ですか⁉」


 慌てて駆け寄り、男性の首に手を当てる。脈はあるが、少し怪しい。如月は男性の体を隅から隅まで眺めまわした。


「目立った外傷はなし……か」


 通り魔などの犯行でない事を確認すると、如月は虚空から聴診器を取り出した。病院などに向かわなくても、如月ならこの場で詳しい検査が出来る。


 と、その前に周りの人の存在が気になる。もしこれが新手の病気か何かなら、この場に居る全員が掛かる事になってしまう。如月は振り返り、アラギに声を掛けようとした。


「アラギ君、悪いんですが人払いをーーーー」


 だが、アラギの姿は見当たらない。それもそのはず、如月は大急ぎで人混みを掻き分けてきたのだ。そしてこの人だかりはかなりの人数が居る。長身のアラギがこの人混みの中を掻き分けようとしても数分かかるだろう。


「アラギ君! どこに居るんですか⁉」


 如月が声を張り上げ、アラギを探そうとした時ーーーーーー



「騒ぐな」


 

 後ろから声がしたかと思うと、首筋に冷たい物が押し当てられた。


「なッ……」


 目線だけを動かすと、それは剣だった。剣の刃が如月の頸動脈にピタリと当てられている。あと少しでも剣が素早く動けば、如月は呆気なく死んでしまうだろう。


「如月! どこだ!」


 どこからかアラギが叫ぶ声が聞こえてくる。直後、後方から舌打ちが聞こえてきた。


「あの男は厄介ね……場所を移すわよ」


「えっ?」


 如月が疑問の声を上げるのと、視界がブレるのは同時だった。視界が物凄いスピードで動いていく。


「な、何が……」


 そこで如月は自分が抱えられている事に気が付く。如月を脅していた何者かが如月の体を抱えて、どこかへ向かって高速で移動しているのだ。


 何秒経っただろうか。僅か数秒で如月たちは人混みを掻い潜ると、いくつもの路地と角を曲がって人気のない空き地に来ていた。某国民的アニメに出て来そうな、土管のある空き地だ。本当にこんな場所があったのかと如月が驚いていると、剣の刃先が突きつけられた。


「どこを見ているの。こっちを向きなさい」


「あ、すみません」


 すぐに首を戻す。如月を襲った犯人は、顔が見えないようにするためかフードを被っていた。


 だが、顔が見えなくとも犯人が誰だか大体分かる。通り魔やスリと言った類ならこんな場所まで連れてこないだろうし、そもそも衆人環視の中如月を攫ったりはしないだろう。


 推測するまでもなく、誰だかは分かる。そこまで考えていた如月の喉元に、剣先が僅かに触れた。つい反射的に両手を上げてしまう。


「今から貴方にいくつか質問するわ。答えるも答えないも自由だけど、答えなかったらどうなるか……分かるわよね?」


「は、はい」


 両手を上げたまま、如月はガクガクと頷いた。




 

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