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王国壊滅編②

 瞬間、その場にいた騎士が揃って抜刀した。圧倒的に絶望の状況だが、青年は楽しそうに笑っていた。


「なあ、女王陛下。俺達に首輪を付けようとした代償、高くつくぜ?」


 そう言って、ラドヴァの目を正面から見据える。その目に映るは―――狂気。

 まるで戦う事が楽しくてたまらないかのような色を孕んだ瞳が、ラドヴァを見下すように見ていた。


「ッ…」


 ラドヴァがその目に射竦められた一瞬の隙を突いて、青年はテーブルを蹴り上げた。同時に腰のベルトから金槌とノコギリを引き抜き、ラドヴァに襲い掛かる。


「女王陛下!」


 王国騎士の一人が叫び、飛んでくるテーブルからラドヴァを庇う。残りの騎士たちは青年を捉えようと動くが、青年の方が一歩速かった。


「さあ、殺し合おうか!」


 楽しそうな声と共に、近くに居た騎士のこめかみを金槌でフルスイングする。兵士が倒れたのを見届けるまでもなく、ノコギリで隣の兵士の首を狙う。


「うぎゃあああ!」


 青年にノコギリで首を斬られた騎士が、悲鳴を上げる。ノコギリは半端に騎士の首を切断したため、尋常ではない痛みが走るのだろう。


「怯むな! 我々は名誉ある国家騎士として――――」


「麻薬を使って人に首輪を嵌めようとしてる国のどこに、名誉があるんだよ。なあ教えてくれよ、客人に麻薬を出すお前らのど・こ・に、名誉があるんですかぁ?」


 騎士の一人の鼓舞は、青年のノコギリによって遮られる。青年はノコギリで騎士の手を切ると、歯を見て舌打ちした。


「チッ、刃こぼれしやがった。まあ元々工具だし、別にいいか」


 ノコギリを放り捨て、ベルトからバールを抜く。そして、少女に命じた。


「この建物のどこかに、王子が居る。お前はそいつを捉えて人質にしろ。くれぐれも、怪我はするなよ。あと、分かってるとは思うが無関係な奴は巻き込むなよ」


「・・・ん。そっちも気を付けて」


「おう。任せとけ」


 青年の返事に、少女は頷いて走り出す。騎士の数人が少女を阻もうとするが、青年が投げたバールによって遮られる。


「オイオイ、お前らの敵はこの俺、『黒百鬼の死神』だぜ。アイツじゃない。履き違えるなよ」


 青年はバールを手放した手を再び腰に添えると、ベルトからスパナを引き抜いた。そして、騎士の脳天を砕くべき動き出した。




 ーーーそこからは、まさに『悪夢』としか言いようがない光景だった。


 青年に向かっていった騎士の多くは返り討ちに遭い、半数は死亡した。残った半数も身体の一部を欠損し、マトモに動けずじまいだった。


 青年は初めの内はベルトから抜いた工具を使っていたが、やがて武器が足りなくなると岸から奪った剣を使って暴れ回った。そしてその後も、目に付く物を全て使って戦った。

 


 ---剣が折れれば盾で、盾が壊れれば植木鉢で、植木鉢が砕ければ徒手空拳で。



 あらゆる物を用いて戦うその姿は、多くの騎士に絶望を与えた。


 だが、兵士たちが本当に絶望したのはそこではない。兵士達だって一介の戦闘訓練を積んでいる、いわば戦闘のエキスパートだ。青年の攻撃を掻い潜り、幾度となくその肉体を刃で貫いた。


 肩を、腹を、一刺しでもすれば行動を抑制できる脚も。至る場所を刺し続けた。



 ---しかし、青年は一切止まらなかった。



 攻撃が効いていない訳ではない。現に刺されれば一瞬とはいえ苦悶の表情を浮かべるし、血だって人間と同じくらい噴き出す。四肢を攻撃されればその分の速度は鈍くなるし、決して回復している訳でもない。



 それでも止まらない。どんなに動きが鈍重になろうが、武器を手に取り兵士の命を刈り取っていく。


「何だよアレ…」


「本物の化け物かよ…」


「アハハハハハハ!」


 青年は狂ったように笑いながら、歯向かって来るものを徹底的に潰した。怯えて敵対しないメイドは無視、だが襲って来る騎士は冥土に叩き落とす。


「ホラどうした、見せてみろよお前達の誇りを! 輝かしい栄光とかいう偽善に満ちた物を! この『悪人』に叩き付けてみろよ!」


 王宮内の人間をあらかた返り討ちにした青年は、王宮内を駆け回ってラドヴァの姿を探す。しかし、彼女の姿はどこにもない。


「逃げたか?」


 ひょっとして脱出したかと思い、青年は街へ出た。すると、騎士が何やら叫んでいるのが見えた。


「『黒百鬼の死神』が現れました! 女性やお子様は避難を、男性の方は我々に力を貸してください!」


 どうやら、仲間を募っているようだ。人々は初め困ったような顔をしたが、やがて一人の男性が力強く言った。


「王国の平和は国民である我々が守る! 我々こそが――――」


「ごちゃごちゃ五月蠅い奴らだな」


 声を上げた男はしかし、青年の投げたスパナによって命を落とした。


「なっ! 貴様っ!」


 叫んだ騎士の首を剣で切断し、青年は彼が持っていた篝火を手に取った。


「お、お前っ!」


 目の前で二人が殺されたショックからいち早く立ち直った屈強な男が青年に殴り掛かるが、青年は篝火を向ける事で屈強な男を火だるまにした。


「うわあああっ!」


「おい、お前ら!」


 火だるまになった屈強な男を蹴飛ばしながら、青年は集まった人々に聞こえるように叫んだ。


「お前らに戦う意思がなく、逃げるって言うのなら別に追いはしない。俺は無抵抗な奴らを殺すような一方的な虐殺が嫌いなんでな。最悪、女王陛下の命一つで引いてやろう。だが、掛かって来るって言うのなら容赦はしない。死んでも文句は言うなよ?」


 人々はしばらく、困ったように顔を見合わせていた。そして皆、我先にと逃げ出し始める。


「「「わああああああ!」」」 


 人々が逃げ惑う様を見ると、青年は目に殺意を浮かべた。


「さて、と。俺に喧嘩売ったツケを、キッチリ払わせないとな。俺を敵に回した罪は重いぜ?」


 冷たく言い放つと、手に持った篝火を近くの露店に投げ込んだ。


 火は露店のテントに燃え移ると、すぐに囂々と音を立てて露店を燃やし出した。


 燃え盛った火を、もう止められる者は居ない。青年は鼻を鳴らすと、ラドヴァを探すために血まみれの体を引きずりながら再び王宮に向かった。





 数日後。


 二人の旅人が、国の焼け跡を眺めていた。


 どちらも身体が煤で汚れており、青年に至っては服のあちこちに返り血が付いている。青年が好んでいたコートも一層黒く染まり上がり、戦いが激化した事を表していた。


「・・・国、なくなっちゃった」


 しばらくして、少女がボソリと呟いた。

 クエル王国はそれはもう、酷い有様だった。賑わっていた市場は全焼し、見る影も無い。王宮も火災の煽りを派手に受けたのか、外観の半分が燃えてなくなっている。おそらく、中も相当な物だろう。騎士たちの死体も皆、燃えて消えた事だろう。


「そうだな」


 少女の問いかけに、青年は短く答える。そして、腰のベルトに差した武器に目を落とした。武器は敵から奪った剣やナイフなどが主だ。元々あった武器は失ってしまったため、代用としてこれらを差しているのだ。

 青年が血の付いた武器たちを確認していると、少女がまた呟いた。


「・・・王女は?」


「多分、逃げた。今頃はどこかの国に亡命して俺の悪評を垂れ流してる頃だろうな。これだから偽善者って言うのは鬱陶しいんだ」


 国を潰したとはいえ、こちらは先に純度の高い麻薬を入れられているのだ。すなわち両方加害者である。にも関わらず、あの王女は一方的な被害者面をして他国に救助を求めるだろう。全くもって偽善甚だしい。


「・・・あの人たち、何が間違いだったの?」


「殺人鬼に首輪を嵌めようとした事だろ」


 青年はそう言うと、踵を返した。


「行くぞ。もうここに居ても何もならない。あのアホ王女が戻って来るとも考えにくいし、な。王女様は次見つけた時にブッ殺せばいいさ」


「・・・ん」


 少女は短く返事を返すと、青年の後に続いた。






「あの日の満月は格別だったな。王宮の屋上で見たからかな」


「・・・多分、違う」


 満月を見て回想に浸る青年に、少女は突っ込む。そして、焼き魚を一口齧った。

 しばらく二人は、黙々と食事に専念する。


「・・・なあ」


「何?」


 唐突に声のトーンを落とした青年に、少女は首を傾げる。


「クエル王国に行く一カ月前にさ、グラカー・ハムって奴に会ったの覚えてるか? 傭兵として各地を彷徨ってて、大剣を担いでた奴なんだが」


「・・・覚えてない」


「…そうか」


 しばらく、二人の間に沈黙が流れる。やがて、青年が口を開いた。


「グラカーはいい奴でさ。俺らみたいな怪しい奴に対しても明るく接してくれたし、しっかりした信念だって持ってた。殺し合いなら分からないが殴り合いの喧嘩なら多分、俺より強かったと思う」


「・・・そう」


 少女は興味がなさそうに、魚を齧った。


「でさ、ある日グラカーが言ったんだ。クエル王国からスカウトの手紙が来た、ってな。給料は今より高いし、定年後の生活も保障されている。で、この話に乗るって言って、グラカーは行っちまった」


 青年は木の枝を一本、焚火に放り込んだ。


「それから二週間後、アイツから手紙が来た。送られた手紙には――――『助けてくれ』って言葉が大量に綴られてた。文字列はグチャグチャで、おまけに字も汚かったよ。グラカーの奴、字は綺麗だったはずだけどな」


「・・・そう」


「『そう』ってお前な…ってか、本当に覚えてないのか? グラカー・ハム。お前もジュース奢ってもらったじゃん」


「・・・私は貴方以外の人間に興味ない。興味ない人は覚えてない。だから、そんな人の事は覚えてない」


 三段論法でキッパリ言い切った少女に、青年は笑う。


「そうかよ」


 昔とは大違いだな、と言う言葉を呑み込んで魚を齧る。青年の脳裏には、少女と出会ったばかりの頃が浮かび上がっていた。


『・・・何見てるの?』


 そうやって青年を不審者同然の視線で眺めていた彼女が、今ではこれだ。本当に性格の変化と言う物は侮れない。


 人と言うのは変わる物だ、とはよく言った物だ。


 満月が、二人を見下ろしていた。

※ここまでだと一見「なろう系主人公」に見えますが、主人公の耐久力に関しては後々語られます。何かしらの能力ではありません。


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